特集 身の回りにある塩ビ製品 レポート2
安全な電線で暮らしを支える
/一般社団法人 電線総合技術センター
今回は塩ビが使われている身近な製品である電線に着目しました。電線が黒く見えるのは、実は電線の一番外側を塩ビなどの樹脂が覆っているからです。そこで電線の安全性評価などを行っている一般社団法人 電線総合技術センター(以下、JECTEC)の方にお話を伺いました。
一般社団法人 電線総合技術センター
当時の通商産業省の指導の下、電線業界各社によって1991年に設立されました。電線に関する評価・開発機関と位置付けられ、①電線・ケーブルに関する安全性評価試験技術の確立、②社会要請に応じ、個別企業単位では実施困難な課題への対応を図るための共同研究、③海外研修生の受入れ、技術分野等における人材教育等の教育・研修事業、④電線・ケーブルに関する技術情報の収集と会員に対する情報サービス事業等を行うことなどを目的として、発足されました。
電線・ケーブルの安全性評価機関
現在、JECTECでは、認証事業、試験事業、研究事業、広報・研修事業の4つの事業を行っています。 このような事業を行なっている背景として、1990年代に電線・ケーブル用被覆材料のリサイクル関連のテーマで、国の委託研究を中心とした活動および研修、セミナーの企画・運営、各種受託試験業務を行ってきたこと、そして、2000年代では、特定電気用品の登録検査機関として試験認証業務を立上げた経緯があります。
塩ビなどのプラスチックでできた被覆
電線は電気を通す導体(銅線)と被覆からできており、被覆には絶縁体とシースが存在します。絶縁体は感電を防ぐために導体を包むものであり、シースは絶縁体や導体が傷つかないように守る一番外側の層です。
絶縁体とシースには塩ビのほか、ポリエチレンや架橋ポリエチレンといったプラスチックが使用されています。
「塩ビと架橋ポリエチレンでは耐えられる温度(耐熱温度、軟化温度など)や誘電特性などに違いがあり、電線の用途や使用条件によって使い分けられています」(菊池氏)
JECTECでは、実際に電線が使用される際の用途や環境などの諸条件を試験設備で再現、耐久性など多角的な観点から電線を評価しています。そして、JIS規格、IEC規格、UL規格、IEEE規格などの国内および国際規格の受託試験及び認証試験を行っています。
火災安全性や耐久性の評価
JECTECでは、電線やケーブルの火災安全性評価試験をはじめ、電線に関連した材料などの燃焼試験も行っています。評価項目には耐延焼特性、発熱特性、耐火・耐熱特性、発煙特性、毒性、難燃特性などがあるそうです。
「燃えにくい電線を開発することで、火災が発生した際に発生する煙や有毒ガスの影響を最小限に抑え、避難と消火活動のための電源確保が容易になります。燃焼には、可燃物・酸素・熱源の要素が関与するため、3要素を低下させて相乗的に燃焼を抑えるよう、電線の開発が進められています」(佐野氏)
実際の耐延焼性試験の「一条ケーブル燃焼試験」では、電線・ケーブル単体をバーナーの炎で炙り、燃焼程度を測定します。「多条垂直トレイ燃焼試験」では、束になった電線の被覆部分がどの程度延焼するかを調べています。
また、発煙性試験では、被覆材が燃焼した際に発生する煙による視認性(光線透過率の低下)を評価します。被覆の種類によっては、燃えにくいが有毒なガスを発生するものや、比較的早く燃焼してしまうが煙が少ないものがあるということです。
「JECTEC施設内には様々な試験装置があり、日本で唯一の測定機材も多数揃えています。例えば建物内に布設したケーブルや建材の火災を模擬したスタイナートンネル燃焼試験やライザーケーブル燃焼試験設備があります」(池谷氏)
安全で環境にやさしい製品設計のために
近年は、電線のリサイクル技術と欧州の化学物質規制(REACH)への対応に注目しているそうです。
リサイクル技術では、これまで分別が難しく埋め立て処分されていた被覆材や極細電線をそれぞれ「テラヘルツ分光識別」や「湿式ボールミル剥離」という技術を用いて分離する調査・研究を進めています。
テラヘルツ波とは電波と光の中間の電磁波であり、塩ビと架橋ポリエチレンの仕分けに役立つことが期待されています。そして湿式ボールミルは東北大学で研究されている分離技術で、極細電線の被覆材と導体がきれいに分離できるそうです。
そして、欧州の化学物質規制への対応については、欧州で先んじて使用が制限されている物質が今後日本でも規制される可能性があるため、先行して調査を行っています。特定の物質について使用制限が開始した場合、他の物質で代替できるかどうかなども研究し、規制に適合した製品開発に貢献しています。
今後の取り組み
新しい取り組みとしては、小・中学校、高等学校における高速大容量の通信ネットワークの整備に伴い、LANケーブルの通信速度の主流が移行してきているなかで、規格不適合品が広く流通している現状を考慮し、ユーザーが適切な製品を選択できるよう、規格への適合性を評価し、適合した製品をセンターのホームページに掲載するスキームを開始しました。
また、電線及びその周辺業界において、温室効果ガス(GHG)妥当性確認・検証機関としての業務やGHG排出量算定他のサポート業務、情報提供のための各種セミナーなどについて、実施の検討を進めています。