特集 身の回りにある塩ビ製品 レポート1
独創的な製法で立体感を表現、
壁紙の製造技術/竹野株式会社
自宅のリビングや廊下など、毎日見ている壁紙ですが、表面の意匠性が作られる仕組みをご存知でしょうか。壁紙は普通紙と塩ビ層からできており、壁紙の表面の塩ビ層に加工を加えて、細かな凹凸を表現していることは意外と知られていない技術です。今回は壁紙の製造方法などについて、竹野㈱の第二事業部 久喜工場 工場長 執行役員 榊原一美氏、担当課長 矢崎圭基氏からお話を伺いました。
竹野株式会社
1941年に大阪市城東区で設立。現在は東大阪市に本社を構え、壁紙製造、表装材の卸売販売および紙加工品製造、そしてアルバム・写真台紙の製造販売などを行う。壁紙事業は1966年に埼玉県久喜市で開始され、高品質な製品を提供し続けている。また、「PVC Award 2023」では、バタフライボード株式会社と共同で開発した「PAPER JACKET flex」が入選。同作品は塩ビ製アルバムの製造技術に関するノウハウを最大限に活かしている点が高く評価された(別途 掲載を予定)。
壁紙の製造工程
壁紙の主な製造工程には、塗料製造工程、コーティング工程、グラビア印刷工程、発泡エンボス工程、ロータリースクリーン印刷工程があります。
塗料製造工程では、ペースト塩ビ樹脂(粒子径約1μm)、可塑剤、充填剤、顔料、発泡剤などを配合設計に基づき混錬し、液状のPVCゾルを製造。
「壁紙には、引き裂き強度、湿潤強度、ピーラブル(剥離できる)性などが求められます。これらの特性を保持するために、塩ビの添加剤が重要な役割を果たしています」(榊原氏)
次のコーティング工程では、紙にPVCゾルを一定の厚さで塗布。約160℃~170℃で加熱、冷却することで塗料を固形化し、塩ビ原反ができあがります。
グラビア印刷工程では、グラビア印刷機を使用してこの原反に柄や模様を印刷します。彫刻されたロールの凹部に印刷インクが入り込み、原反に転写して絵柄をつけます。これにより、壁紙に細かいデザインや模様が表現できます。壁紙に多様なデザインが施せるのはグラビア印刷の特徴でもあります。
その後、発泡エンボス工程に進みます。ここでは、印刷された原反を約200℃に加熱し、原反の塩ビ層に含まれる発泡剤を発泡させます。発泡して厚みのでた塩ビ層を金型(エンボスロール)で押すことで凹ませ、意匠性を付与します。
壁紙表面の意匠性を加工する方法としては、発泡エンボス加工の他にロータリースクリーン印刷もあります。
ロータリースクリーン印刷では、円柱状のスクリーンメッシュの穴からPVCゾルインキを塩ビ原反や紙の表面に乗せることで、より立体的な表現が可能です。発泡エンボス工程よりも絵柄のエッジがソフトになり、ボリューム感を出すことができ、独特の質感を持たせることができます。
複雑な表面加工を可能にする技術
壁紙の製造において非常に重要な役割を果たす、グラビア印刷、発泡エンボス、ロータリースクリーン印刷などの表面加工技術。最近では、特に付加価値の高い商品の需要が増加しており、こうした表面加工技術を生かした商品を開発しているそうです。
「当社の強みは、それぞれの加工技術を一つの製品表面上で組み合わせられることです。従来のグラビア印刷と発泡エンボス加工の組み合わせに加え、例えば、グラビア印刷とロータリースクリーン印刷の組み合わせや、さらにはその後に発泡エンボス加工を行う技術などを得意としています。
またその中には、グラビア印刷の柄とエンボス加工あるいはロータリースクリーン印刷で作った凹凸の柄を重ねた『同調』という製法もあります」(榊原氏)
これらの技術を組み合わせることで、壁紙表面により複雑な印刷表現が可能となり、空間デザインを彩っています。特に意匠性が高い壁紙は、ホテルや商業施設などで利用される機会が多く、長年好評をいただいているとのこと。
美しさも機能性も高い製品を
壁紙は暮らしに欠かせない製品だからこそ、見た目の美しさの他にも、様々な機能性が求められます。
「最近では、下地のひび割れ影響に対する軽減を目的とした、耐クラック性(ストレッチ性が高く破けにくい)を持つ壁紙のニーズが増えています」(矢崎氏)
また、表面強化や撥水効果などの機能性や、環境負荷低減を意識した壁紙が求められる傾向も感じているそうです。
「環境負荷低減をテーマとした取り組みも然り、意匠性においても機能性においても追及し続け、提供価値の高い製品を作っていけるよう、製品づくりに取り組んでいきます」(矢崎氏)