2024年07月 No.122 

特集 リサイクル技術と塩ビ レポート2

溶融技術で復興に貢献、放射性物質汚染廃棄物 減容化事業/株式会社クボタ

 ㈱クボタは、農業機械や建設機械の製造のほかにも、水処理システムや廃棄物処理プラントなどの開発を通じて、幅広い領域でインフラを支えています。そして、2020年3月からは、東日本大震災における福島第一原発事故後の除染作業に伴う「放射性物質を含む廃棄物の減容化事業」を開始しました。今回は、放射性物質汚染廃棄物の溶融・減容化事業について、㈱クボタ 焼却溶融プラント部 溶融技術課長 加納弘也氏、水環境総合研究ユニット 水環境研究開発第一部 第二チーム長 釜田陽介氏にお話を伺いました。

株式会社クボタ

 1890年に創業、産業機械(農業機械、建設機械等)、建築材料、パイプ、産業用ディーゼルエンジン等を製造する大手メーカー。農機メーカーとしては、シェア・売上高ともに国内首位(2023年度現在)。また、海外120か国以上に事業を展開し、食糧・水・環境の領域で課題解決に貢献している。

社会課題を解決する ㈱クボタの溶融技術

 ㈱クボタは、1970年代に固形廃棄物の高温無害化技術として溶融技術を開発。溶融技術は様々な地域で都市ごみ焼却灰や下水汚泥などの処理に活用されています。
「溶融処理を行うと廃棄物を再利用可能な資源にできるので、埋立てを行う最終処分場のひっ迫問題を改善できます。廃棄物に含まれる重金属などの有害物は、ガラス質状のスラグに閉じ込めて無害化できます。同時に、金属などの資源を回収・再利用できる技術です」(加納氏)

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 産業廃棄物の不法投棄が社会問題となった香川県豊島では、2003年10月から2017年6月までの13年9ヵ月間にわたって、処理事業を展開。島内に埋め立てられた廃棄物全ての無害化および資源化を達成しました。
「1980年代以降に豊島で不法投棄された産業廃棄物は約91万トンにも及びます。それらを掘り起こし溶融処理することで、多種類の有価物へと再資源化。スラグは約47万トン、更にそこから分離した銅やアルミは市場価格で約6.5億円相当に上りました」(加納氏)

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香川県豊島の現状

福島県双葉町での放射性物質汚染廃棄物の溶融・減容化事業

 2020年からは福島県双葉町で、放射性物質に汚染された廃棄物を溶融技術を用いて処理しています。
「被災地では、除染により放射性物質に汚染された廃棄物と土壌が大量に発生し、黒いフレコンバッグに入れて山積みにされていました。これらを溶融技術を用いて無害化、減容化することで、被災地の復興に協力できないかと考え、自主的に適応策を考え始めました」(釜田氏)
 そして、2011年秋には本格的に技術検証をスタートし、実証試験などを経て、2018年に環境省から廃棄物処理業務を受託。着想から双葉町での実機の建設まで、驚くべきスピードで展開されました。
 放射性物質汚染廃棄物の溶融処理で用いられているのは、「塩化揮発法」と呼ばれるプロセス。都市ごみ焼却灰の溶融処理において有害物質である重金属(鉛、亜鉛など)や塩類(ナトリウム、カリウムなど)が分離できることが分かっていたため、その同じ仲間である放射性セシウムも分離・濃縮できるのではないかと考えたのが発想の原点です。

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福島県双葉町の仮設灰処理施設・仮設焼却施設

〈塩化揮発法を活用した溶融技術の流れ〉

  1. ① 1,300℃の溶融炉に廃棄物とともに塩化カルシウムや塩ビなどの塩化剤を投入。
  2. ② 塩化剤から発生する塩素が廃棄物中の重金属などと反応して、より沸点の低い塩化物に変化して揮発。
  3. ③ 排ガス中の塩化物は冷やされ再び固形化し、「飛灰」(粉末状の物体)として回収される。

 溶融処理で生成されたスラグからは、放射性セシウムが除去され、検出される放射線量は、花崗岩と同等以下の1,000~3,000ベクレル程度まで減少。一方で、飛灰には放射性セシウムが濃縮・分離されます。これら焼却灰や除染により発生した除去土壌等について、2044年度末までの福島県外最終処分が法律で規定されており、最終処分量の減容化が期待されます。

廃塩ビを活用して効率アップ

 塩化剤として廃塩ビを活用しているのも、本事業の特徴のひとつ。汚れたり異物が混入したりしてリサイクルが難しい廃塩ビを有効活用しています。
「マテリアルリサイクルが難しい複合系廃塩ビを本施設で活用しています。塩化揮発剤としての有効活用に加え、溶融燃料としてのサーマルリサイクルの役割も果たしており、溶融炉の運転に必要な天然資源の節約と操業コストの削減につながっています」(釜田氏)
 さらに、廃塩ビは燃焼しながら炉内の酸素を消費することから、放射性セシウムと塩素の反応が促進されるため、塩化カルシウムなどに比べると溶融処理における放射性セシウムの分離率が高くなるそうです。

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㈱クボタの溶融炉。大きさは外径11m、高さ6m程度。

安心して暮らせる街をつくるため

 放射性セシウムが濃縮された飛灰は、技術的にはさらに大幅な減容化も可能とのこと。現在は環境省が実施する飛灰洗浄処理技術実証事業に協力し、今後は除染土壌の減容化も目指しています。
「循環型社会の実現に向けて廃塩ビなどプラスチックの有効活用が鍵になると感じています。引き続き、溶融技術で様々な元素の分離・濃縮に関する研究開発に取組んでおります。また、近年は、農業分野で発生するバイオマス(稲わら、もみ殻)の資源化、エネルギー化技術の開発も手掛けております。今までは、スラグなど廃棄物を処理した生成物はほぼ無償で使ってもらうというレベルでしたが、今後は技術の向上により分離の精度を高めることで生成物の付加価値を高め、機能性高付加価値材料としての販売を目指したいです」(釜田氏)

写真:お話しいただいた加納氏、釜田氏
お話しいただいた加納氏、釜田氏