2023年12月 No.120 

インフォメーション2

実は塩ビでできています!
森川ゴム工業所の一体成型サンダル

 シャワールームやトイレなどでよく見かけるワンカラーのサンダル。実はこれらの多くは塩ビでできています。身近にあるレインブーツやガーデニング用ブーツなども塩ビ製ですが、気が付いている人は意外と少ないかもしれません。今回は、塩ビ製履物の製造を半世紀以上続けている森川ゴム工業所 森川良一氏にお話を伺い、塩ビ樹脂から履物が作られるまでの工程を見学させていただきながら、塩ビ性履物の歴史を教えていただきました。

森川ゴム工業所

 1948年に設立し、すべての製品に国産の原材料を使用した射出成形による履物製造を行う。設立当初からの代表的な製品であるサンダルやスリッパのほか、レインブーツなどの靴型製品も幅広く製造。熟練した職人の技術で一点一点丁寧に仕上げられる履物は、非常に長持ちすることで高い評価を得ている。「MARURYO」のブランド名で、ファッショントレンドを取り入れた豊富な製品ラインナップをセレクトショップなどへ向けて提供している。

森川ゴム工業所の沿革とともにたどる、塩ビ製履物の歴史

 森川ゴム工業所では、1965年に射出成形機を導入し、軟質塩ビを使用したサンダルを発売しました。塩ビ製サンダルはゴム底のサンダルに比べて丈夫で軽量だという使いやすさに加え、ヘップサンダル(つっかけ式サンダル)ブームに乗って絶大な人気を集めました。
 続いて1980年頃には、「ポケッター」という折りたためる塩ビ製サンダルを開発。クリアで華やかな見た目上の良さと、柔らかい素材でフィットする履き心地を両立させるサンダルで、女性の間で大ヒットした商品です。
 「当社では、『ポケッター』をきっかけに、サンダルの製造に加えてかかとまで覆う靴製品の製造にも着手するようになりました。その後、レインブーツやガーデニング用ブーツの販売を開始し、現在も主力製品として製造を続けています」(森川氏)

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ビーチなどで活躍するメッシュサンダル「ポケッター」の製造現場

日常使いに最適な軽さ・丈夫さ・美しさを実現する一体成形の塩ビ製履物

 塩ビ製サンダルの製造に用いられる射出成形とは、加熱して液状に溶けた樹脂を金型に高圧で注入・充填する工法。継ぎ目がない丈夫な製品を量産できるのが特長です。特にブーツ類は、本体の成形時に裏地の布部分も一体に合着できるため、塩ビ素材の特徴である耐久性の高さと合わさって、非常に丈夫な仕上がりになります。
 「塩ビ樹脂に加える発泡剤や可塑剤などの配合にもこだわり、各製品に最適な質感を実現しています。発泡剤を使い適度に塩ビを膨らませることで軽量化を図りながら、可塑剤を加えて柔らかさを調整し、製品の強度と履き心地のバランスをうまく作り出しています。熟練したスタッフと素材メーカーがやり取りを重ねながら、長年最適な材料を選んで使用していますね」(森川氏)
 そして、金型の転写性が高い射出成形では、細かく複雑な形状も再現可能で意匠性の高い製品づくりにも適しています。
 森川ゴム工業所では、長年、金型職人による手彫りの金型を使用した射出成形により製造を続けてきました。製品の表面には、手彫りの金型ならではの細かい網目模様やシボ加工などの微細な表現が見られます。
 成形用の金型は、時代の流れとともに手彫りから機械彫りへと変化しつつありますが、製品のでき(風合いや質感など)を通して金型同士を比較した際には改めて手彫りの良さを再評価していると言います。
 「当社では、精巧な金型に加えて、全商品で高品質な国産のPVC素材を使用することで、高精度の製品を安定的に製造できています。その結果、手に持った時にあたたかさを感じてもらえるような丁寧な製品に仕上がっていると思います」(森川氏)

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細かい模様までワンショットで成形できる
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射出成形用の金型

伝統と革新のアイデアで、オリジナル製品を作り続ける

 森川ゴム工業所は、これまで問屋とのみ取引を行ってきましたが、物流構造や商習慣の変化とともに、取引先の問屋も少しずつ減少していると言います。
 そのため、一般消費者に自社製品の魅力を知ってもらう機会を増やすためにも、2015年に上田安子服飾専門学校とのコラボレーション企画を開始。
 森川ゴム工業所のブーツ製品の一つに、クリアな塩ビを使用し、内側の布地によってデザインを変えられる製品があります。同学とのコラボレーションでは、このブーツ製品をもとに、学生が考案したデザインデータでオリジナルの製品を作り、学生ファッションショーにて展示を行います。

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製造途中のレインブーツ

 現在は、「第152回上田学園コレクション2024」」での新しいコラボ作品の発表に向けて準備中。上田学園の学生の皆さんは工場内を見学し、製造工程や材質の説明を受けてアイデアを膨らませていました。
 「一体成形サンダルを製造している会社は年々減少し、県内では当社を入れて3社ほどになりました。当社では、これからも履物製造の伝統と技術を、大切に継承していければと考えています。さらには、産学協同の取り組みを通じて社会貢献にも積極的に取り組んでいきたいです。伝統と新しいアイデアの両方を組み合わせて、今後もオリジナリティを追求した製品づくりを目指していきたいです」(森川氏)

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工場内を見学する上田学園の皆さんと、お話いただいた森川氏。
「第152回上田学園コレクション2024」での展示の様子は、PVC news 121号(2024年3月発行)で特集予定です。