2023年12月 No.120 

インフォメーション1

アナログレコードをリサイクル、
再生塩ビシートを使用した未来の車/ダイハツ工業㈱

 アナログレコードも、塩ビからできている製品の一つ。「Japan Mobility Show 2023」では、ダイハツ工業㈱が発表したコンセプトカーの一部に、アナログレコードから作られた再生塩ビシートが使用されました。今回は、アナログレコードの再資源化と再利用を考案された経緯と、ダイハツ工業㈱が思い描くサステナブルな自動車について、ダイハツ工業㈱ デザイン部 田辺竜司 主任、総合戦略室 佐藤修一郎 主担当員にお話を伺いました。

ダイハツ工業㈱

 1907年に設立、「世界中の人々に愛されるスモールカーづくり」を使命と考え、事業を展開している。小型車・軽自動車の分野で高い技術力と実績を持ち、ユーザーにとって身近でやさしい製品であることを目指した製品は、国内外で高く評価されている。「Japan Mobility Show 2023」では、すべての人に豊かなモビリティライフを提供し続けていきたいという思いを、ブース全体で表現した。

アナログレコードをリサイクルした軟質塩ビシートの誕生

 アナログレコードのリサイクルを発案した田辺氏は、自動車の内装を担当するデザイナー。趣味の音楽制作とライブ演奏が、アイデアのきっかけになったと言います。
 「音楽制作に使用するアナログレコード集めをしている時に、買い手のいない古いレコードには行き場がなく、捨てるしかないという話を耳にしました。音楽好きとして、レコードをただ捨ててしまうのはもったいないと思いました」(田辺氏)
 そして、レコードを30%配合した再生軟質塩ビシートを開発。完成までには、関連企業の協力のもと、レコードの粉砕や成型などの全工程に立ち合ったそうです。

写真:田辺氏が手作業でレコードの紙ラベルを除去。
田辺氏が手作業でレコードの紙ラベルを除去。
写真:アナログレコードを30%配合した再生塩ビシート。
アナログレコードを30%配合した再生塩ビシート。

 「自動車の内装デザインの現場では、これまでも再生材を使用した製品のアイデアは話題に上っていました。しかし、どうしても価格が上がってしまうのがネックで、形にできていないのが現状。だからこそ今回、コンセプトカーを企画する機会に、レコードから再生塩ビシートを試作し、素材の性質を確かめられたのは大変貴重な経験になりました。
 塩ビは、柔らかさを自由に操作できる素材であり、しかも安価。当社車両での塩ビの使用は全体の数%程度ですが、リサイクル性能を考えると、もっと色々な部分に活用できる可能性を感じました。デザイン面でも、塩ビシート独特の透明感と、生地同士が重なった時の見た目の面白さがありました」(田辺氏)
 コンセプトカーには、再生塩ビシートが使用されたほかにも、リサイクルを前提とした分解しやすい設計が実装。「Japan Mobility Show 2023」の会場で、再生軟質塩ビシートをはじめとした、今回のモーターショー部材に採用したサステナブルな素材そのものについても紹介されました。
 「コンセプトカーでは、安全性を担保しながら、製品の設計段階から解体・資源の回収をしやすくするように工夫したり、少ない部品で魅力的に見えるようなデザインに挑戦しました。『お客様に寄り添い、暮らしを豊かにする』という出展テーマのもと、持続可能な社会のために、身近でダイハツらしいコンセプトカーがお見せできたのではないかと思います」(田辺氏)

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コンセプトカー「OSAMPO」のヘッドレストなどに再生塩ビシートが使用された。

環境配慮の取り組み

 「当社が長い間注力してきた取り組みとして、バンパーリサイクルがあります。販売会社で発生する修理交換済みバンパーを全国の販売会社から回収し再ペレット化することで、自社車両の部品として再利用しています。当社では、自動車部品をリサイクルして再度自動車部品として再利用する、お客様のお財布にやさしい“Car to Car”リサイクルを推し進めています」(佐藤氏)  しかし、自動車を製造する際の材料の選定基準はかなり厳しいため、ガラスや鉄、アルミ、電動車のバッテリーなどは自動車部品以外の製品に再利用されることが多いそうです。
 「サーキュラーエコノミーのためには、製品規格の見直しを含む、自動車業界全体での課題解決が必要だと感じています。また、リサイクルが難しいグラスファイバーなどの複合材の使用を控えるアイデア、あるいは複合材のリサイクル方法自体の確立など、リサイクルを加速させるための打開策を模索しています」(佐藤氏)

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リサイクルを前提とし、座面を取り外しやすくしている。
留め具部分も塩ビ製で、モノマテリアル化。

 「Japan Mobility Show 2023」では、環境にも人にも優しい“小さなクルマ”を通じて、すべての人に豊かなモビリティライフを提供し続けていきたいという思いを表現。これからもダイハツ工業㈱が大切にしている精神を追求して製品を開発していくそうです。
 「コンセプトカーを完成させるため、素材メーカーをはじめとした色々な企業様にご協力いただきました。より良い製品づくりのためには、専門性のある企業様との、さらなるコラボレーションが不可欠だと改めて感じました。今後はさらに他社との連携を深め、得意な領域のアイデアを持ち寄って社会課題の解決に取り組んでいきたいです」(田辺氏)

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左:田辺氏 右:佐藤氏