2023年12月 No.120 

特集 身近で活躍する塩ビ② レポート3

身近な塩ビ製品を彩る
シルクスクリーン印刷/㈱森工芸

 多様な素材にデザインと彩りを加えられるシルクスクリーン印刷。塩ビ製の定規など、日用品をよく観察してみると、その意匠が色々なところで見つけられます。教科書の名前記入欄も、シルクスクリーン印刷によってえんぴつ、ボールペン、サインペンのインクが載るようになっているのです。
 今回は、身近な塩ビ製品との関わりも多い、シルクスクリーン印刷の技術について、活用例をもとに㈱森工芸 代表取締役 森龍平氏にお話を伺いました。

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㈱森工芸

 1967年創業。シルクスクリーン印刷や打ち抜き加工、超音波溶着などの加工を行う。化粧品パッケージや文房具、ノベルティグッズへのシルクスクリーン印刷を得意とする。お客様からのデザイン入稿後、製版から本刷り・加工までの全工程を一貫で担い、一枚からのオーダー注文に対応している。半世紀以上にわたって培われた高い技術力と対応力で、多様な業界から高い評価を得ている。

「水と空気以外なら何でも印刷できる」シルクスクリーン印刷

 ㈱森工芸が得意とするシルクスクリーン印刷は、「水と空気以外には何でも印刷できる」と称されるほど、柔軟性が高い加工ができるのが強み。シルクスクリーン印刷にはさまざまな種類があり、スクラッチ印刷や、チヂミ印刷、厚盛り印刷、ラメ、蓄光印刷など、特殊技術も幅広く取り扱っています。特殊な機能性インクを使用すれば、マウスパッドの裏面に滑り止め加工などを施すことも可能です。
 ㈱森工芸では、主に塩ビ、PP、PET、紙などの印刷面が平らな製品へ加工しています。塩ビ製品に印刷した事例としては、定規、下敷き、額縁、ネームプレート、デスクマットなど。最近では、軟質塩ビ製の医療用廃棄袋(約0.2mm厚で注射針が貫通しないのが特徴)への印刷の需要が増加しているそうです。
 「シルクスクリーン印刷で使うのは、水濡れにも擦れにも強いインクです。塩ビ製品の丈夫で長持ちする特長と合わさり、相乗効果が生まれている製品もたくさんあります。たとえば、塩ビ製のランドセルカバーに反射するインクを使用した製品など。印刷面が塩ビの製品は、全体として丈夫に仕上がります」(森氏)
 シルクスクリーン印刷に使用されるビニールインクの主成分も塩ビ系樹脂です。塩ビ製品への印刷は、製品全体が単一素材で構成されることになるので、リサイクルしやすいというメリットもあります。ビニールインクには、曲げにも擦れにも強い耐久性と耐候性があるため、場所を選ばず色々な場面で使用されているそうです。

写真:インクに模様を浮かび上がらせるチヂミ印刷
インクに模様を浮かび上がらせる
チヂミ印刷
写真:立体感で高級感を演出する厚盛り印刷
立体感で高級感を演出する
厚盛り印刷
写真:粘着力のあるマウスパッドの滑り止め
粘着力のあるマウスパッドの
滑り止め

短納期と高いクオリティを両立し続ける

 シルクスクリーン印刷では、最初にデザインデータからフィルムを作成。その後、テトロンなどの極細繊維でできた網目状の印刷用の版を完成させ、印刷の工程に移ります。
 通常、版の準備だけで4~5日必要とするシルクスクリーン印刷において、㈱森工芸は版の準備から納品までで数日程度の短納期での対応が可能です。
 「当社では、お客様のデータ入稿から最短で2〜3時間で製品を仕上げられます。製版から印刷までを自社で一貫して行うことで、工程の短時間化を実現。また、作業工程のやり直しがないように社内での確認作業も綿密に行っています」(森氏)

図:1時間に平均800枚印刷が可能なシルクスクリーン用印刷機
1時間に平均800枚印刷が可能なシルクスクリーン用印刷機

 シルクスクリーン印刷は非常に繊細な意匠。版の目の細かさと使用するインクの種類、印刷面の凹凸などの要素を複合的に見極めながら、細かい文字まで鮮明に印刷できるように調整を重ねます。印刷面の色によって、最終的に仕上がった時に見える色が変わってくるため、調色のノウハウも重要だと言います。
 「作業現場では、ひたすらに精度の高いものを追求する職人気質を持つことが大切。指定通りの色を実現するまで丁寧に重ね塗りしたり、すみずみまで問題がないか絶えず確認したりと、高いクオリティにこだわるための細かい作業を根気強く続けています。自分たちの製品を本当に欲しいと思えるかどうか、お客様に満足いただけるかどうかを常に問いながら、日々の作業に取り組んでいます」(森氏)

図:印刷工程を経た製品は、目視で丁寧に確認されている。
印刷工程を経た製品は、目視で丁寧に確認されている。

シルクスクリーンに特化し、ひた向きな企業努力を続けていく

 ㈱森工業では、以前から課題としていた人材の確保に成功し、若手の育成が順調に進み、技術が継承される土台が整っているそうです。これからもシルクスクリーン印刷のスペシャリストとして、これからもひた向きに事業を継続していきます。
 「若手がベテランから技能を学びながら世代交代を続け、常に精度の高い製品が提供できるようにしていきたいです。
 そして、これまで積み重ねてきた技法を守りつつ、お客様により付加価値を感じてもらえるような製品づくりを目指していきたいです。シルクスクリーン印刷に特化した改善を重ねていきます」(森氏)

図:お話しいただいた森氏
お話しいただいた森氏