2023年12月 No.120 

特集 身近で活躍する塩ビ② レポート2

国境を超えてサステナブルな社会に貢献する、
三立機械工業㈱の電線リサイクル技術

 街中で見る架空配電線から家電製品や自動車の内側の極細電線まで、色々な種類がある電線。その電線を保護している被覆材の多くは塩ビでできています。主に銅と塩ビというリサイクルに向いている材質で構成された製品でありながら、分離技術が必要なために極細電線の多くが焼却処理して銅のみ回収したり、海外へ輸出されたりしてきました。今回は、極細電線のリサイクル設備を提供している三立機械工業㈱ 会長 中根昭氏に、電線のリサイクルの現状と未来のお話を伺いました。

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三立機械工業㈱

 1961年に創業、剥離解体や比重選別などの分離技術を用いて、使用済み電線から銅と樹脂を回収する設備を開発・販売している。提供しているのは、廃棄電線の剥離機能を持つ代表的な設備の他に、非鉄金属や廃棄プラスチックの切断機、半導体部品などの貴金属リサイクルのための破砕機など、分別・リサイクルに特化した設備。これまで数々のリサイクル業者などに製品を提供しており、最近ではインドをはじめとした海外でも展開を進めている。

日本国内の電線リサイクルを強力に支えている湿式ナゲットプラント

 三立機械工業㈱が極細電線のリサイクル技術の開発に着手したのは今から約20年前。自動車のPC制御の発展などにより急増した使用済み極細電線(ワイヤーハーネス)は、主に資源ごみとして中国へ輸出・売却されていましたが、バーゼル法(外国からの資源ごみの輸入を制限)により日本国内には行き場を失った極細電線が山積していたと言います。
 「銅を産出できない日本において、歴史的にも銅はリサイクルしながら使われてきた素材です。リサイクルすれば資源になるはずの電線を海外に輸出したり、焼却処分してしまうのは、非常にもったいないと思っていました。そこで、極細の使用済み電線から高純度な銅を効率よく回収できるようにしたのが、三立機械工業㈱の湿式ナゲットプラントです」(中根氏)

写真:湿式ナゲットプラントで水流を使いながら、選別されていく銅
湿式ナゲットプラントで水流を使いながら、選別されていく銅

 極細電線から銅と樹脂を分別・回収する方法には、乾式選別と湿式選別があります。前者は裁断した極細電線の下からエアーの吹き上げて、下に沈んだ銅を回収する方法です。この方法では粉塵が飛散するため銅の回収率は93%に留まり、作業員の健康への影響も懸念されていました。
 一方、三立機械工業㈱が採用した湿式選別では、循環水によるシャワーで分離。特許認証された技術で、軽(被覆材の樹脂)・中(アルミなど)・重(銅)の3つの比重ごとに安定した選別品質を実現しています。技術改良を推し進め、現在では安定的に99%以上の銅回収率を実現。業界最高レベルの高精度な分別技術を確立しました。
 ナゲットプラントでの処理ののち、取り出された被覆材は廃プラスチック用の分離設備でさらに細かく比重選別されます。ハイドロサイクロンによって99~99.5%まで高精度に分別・回収された樹脂は、マテリアルリサイクルされる場合はペレット化し、再生材料としてフィリピンなどへ輸出されているそうです。

写真:使用済みワイヤーハーネスから分離された銅
写真:使用済みワイヤーハーネスから分離された樹脂
使用済みワイヤーハーネスから分離された銅と樹脂

高精度の分離技術で、世界の電線リサイクルに貢献する

 2015年には、湿式ナゲットプラントを用いた自動車用ワイヤーハーネスのリサイクル普及事業がJICA「中小企業海外展開支援事業(ODA)」に採択され、インドでも電線リサイクルに貢献中。
 インドでは自動車産業が急拡大中でありながらも自動車のリサイクルが進んでいないため、不適切な処理や不法投棄が問題になっています。加えて、環境問題対策のために段階的に車検制度を開始。10年以上前に生産された高齢車両を廃車化し、EV車への買い替えが加速しています。今後、自動車のリサイクル体制整備が急がれるインドで、これまで以上に三立機械工業㈱のリサイクル技術が活用されていく見込みです。
 「労働力が豊富なインドでは、部分的に作業員を投入して人の手による選別作業ができるので、銅と塩ビの回収精度はさらに向上可能です。引き続きインドの文化や商慣習に適した形で現地企業と協力し、リサイクル事業を展開していきたいと考えています。アフリカや東南アジアなど、まだ電線のリサイクルが進んでいない地域でもノウハウと技術の活用を目指しています」(中根氏)

図:さまざまな素材が混在する自動車用ワイヤーハーネス
さまざまな素材が混在する自動車用ワイヤーハーネス

他企業との連携で、分離技術を進化させながら課題解決に取り組みたい

 三立機械工業㈱では、世界的な原油価格の高騰で再生樹脂の需要が高まっている状況を受け、樹脂部分を有効活用する新たな方法を模索しています。
 「現状の当社の技術では、比重が近い樹脂同士を成分レベルで分離するのが困難です。たとえば、塩ビ、ポリエチレン、ゴムなど、色々な樹脂が混在している自動車のワイヤーハーネスでは、特に比重が近い塩ビとゴムの分離が難しい。そこで、より樹脂の分離精度を高めるため、これからは化学産業の企業さんにも協力を仰ぎたいと考えています。
 また、ものづくりに使われる素材の複雑化・複合化がさらに進んでいくなかで、それぞれの専門知識を持った企業さんとの連携を深め、当社の持つ技術の新たな活用方法を見出しながら、地域やマーケットの課題を解決していきたいと考えています」(中根氏)

図:お話しいただいた中根氏
お話しいただいた中根氏