インフォメーション1
ターポリン素材の特徴を活かした、
暮らしを支える製品づくり
㈱ナショナルマリンプラスチックが製作した「縁結び〼(えんむすびます)」は、防水仕様の塩ビ製ターポリン生地の縁を紐で束ね、バケツの形状に早変わりさせる商品。平面から立体に立ち上がるので、浸水した場所など水深が浅い場所でも水を汲み取れます。PVC Award 2021を受賞し、水害時など多くの場面での活躍が期待されています。今回は代表取締役 時田宗弘社長、営業二課 宗像学氏に「縁結び〼」をはじめとした身近で便利な製品開発の背景について伺いました。
左から時田社長、宗像氏
㈱ナショナルマリンプラスチック
㈱ナショナルマリンプラスチックは、1948年に設立され、福島県の工場にて製造を行っている。多彩な軟質プラスチックシートを高周波ウェルダー・熱風溶着・縫製等の技術で加工。物流容器「フレコン®」をはじめとした耐久性・耐候性の優れた製品の生産を得意とする。保育の現場で利用される仮設プールや遊具、災害時の組み立て式防火水槽の製造を行うなど、塩ビを使った身近な商品を数多く提供している。
防災・産業・保育の現場で活躍するターポリン製品
㈱ナショナルマリンプラスチックでは、プラスチックシート材を使って、社会インフラを下支える大型産業資材から保育用品まで、幅広い製品を手掛けています。
㈱ナショナルマリンプラスチックが扱うプラスチックシート材の中でも、防災や物流などの重要な場面で広く使用されているのが、軽量で丈夫なPVC(塩ビ)ターポリン素材。ターポリン素材は、塩ビ/ポリエステル布/塩ビの三層構造の生地で、ポリエステル布の繊維内部まで塩ビ樹脂が浸透しているため、衝撃や折れに強いのが特徴です。貼り合わせ加工には高周波ウェルダーという方法が用いられ、水中や屋外など、様々な環境でも非常に高い機密性と溶着強度を保持できます(高周波ウェルダーについてはPVC NEWS No.118参照)。
代表的な製品「フレコン®」は、ペレットなどの粒状の樹脂や穀物などを輸送するのに使用される袋状コンテナバッグ。耐久性や耐候性など非常に丈夫に作られているため、繰り返しの使用が可能。使用後はメンテナンス工場での洗浄と修理を経て、再び現場で利用されています(尚、『フレコン®』は㈱ナショナルマリンプラスチックの登録商標です)。
「たしかな強度を実現する高品質な製品設計だからこそ、『フレコン®』は10年以上もの長期間使用されています」(時田社長)
ターポリン素材の折りたたみ可能で軽量&高強度という特徴を活かして、“小さく収納、大きく使う”をモットーに作られた製品は様々な場面で重宝されています。
「仮設水槽や吸引換気ダクトなど、非常時や社会インフラ工事などで用いられる製品は、使用時の容量は大きく、収納時にはコンパクトで持ち運びしやすいという特徴があります。素材に対する知識と自社工場で素材に触れながら生まれたアイデアをもとに、安心・安全で便利なものづくりを進めています」(時田社長)
ふちを無くすことから発想した新しい形のバケツ「縁結び〼」
PVC Award 2021を受賞した「縁結び〼(えんむすびます)」は、製品を起案&作成した宗像学さんご自身が、令和元年東日本台風(2019年)で被災した経験から生まれた製品です。
「豪雨で床上浸水被害を受けた自宅の復旧作業を進めるなか、家の中に残った水を排出するのに大変苦労しました。水の量が多くて雑巾では取り切れないけど、バケツを使おうにもバケツ本体の丸いふちが邪魔になります。そこで、水深が浅い場所でも楽に水を汲み取れる便利な製品が作れないかと考え始めました」(宗像氏)
宗像さんは被災後、㈱ナショナルマリンプラスチックに入社。素材の性質や加工方法を学びながら、「縁結び〼」の製作を始めました。
水深のないところで使えるよう、「ふちがないもので水を汲み上げる」というコンセプトを考案。はじめは平面の状態から、紐を引き上げる時に箱型になり水を汲み上げる形状を設計しました。
収納時に小さくたためるよう折り目を加工。本体は飲み水を汲み上げることも想定して飲料水用のシートを使用しています。また、特殊な形状を保つために平面部分の内側に硬質塩ビ板を使用するなど、技術上の挑戦もありました。
「『縁結び〼』は災害時だけでなく、アウトドアやレジャーなど、さまざまな場面での活用イメージがふくらむ製品です。もちろん製品自体がユーザーの役に立つことも期待していますが、「縁結び〼」の製作にあたって得た知識や技術を、今後の商品開発にも活かしていきたいと思っています」(宗像氏)
クリエイティブな発想から新製品を開発中
㈱ナショナルマリンプラスチックでは、長年培ってきたプラスチックシートの加工技術と素材そのものの性質を組み合わせ、丈夫で安全な製品開発を進めています。
新発売の軽トラック積載給水タンク「アクアテナー」は、PVCターポリン素材の強靭さと収納のコンパクトさを活かした製品。阪神淡路大震災の時に水道管の破損で給水が困難になった事例を受けて開発された「車両積載用飲料水タンク(2,000L)」を、軽トラックの荷台に設置できるように改良を重ねました。
「『アクアテナー』は組み立てと分解が簡単でコンパクトに収納可能。本体重量は約6kgと軽量ですが、最大350Lもの水を運べます。本製品を使えば、軽トラック1台で約50人分の飲料水を運搬可能。一般家庭にある軽トラックを非常時には給水車として利用できるようになります。現在、自社工場のある福島県を中心に普及活動を進めています」(時田社長)
また、既存の資材を有効活用したリユース商品も考案。工事現場の送風管で使用されるFRP(繊維強化プラスチック)の芯材をリユースして、ターポリン素材と組み合わせた軽トラック用ドーム型幌「K dome」が誕生しました。
丈夫な素材を使用しているため、積雪での破損の心配がなく、荷積みの際には折りたたんで荷台前方に固定できるアイデア商品です。
「『K dome』は、福島工場の現場で働くメンバーの発想をもとに商品化。クリエイティブな視点で新商品を開発していくという文化が会社に根付き始めています。ターポリン素材の特性を活かして、今後はこれまで挑戦してこなかった新たな分野に向けて、暮らしを支える新製品の開発をより一層進めていきたいです」(時田社長)