2023年7月 No.119 

特集 身近で活躍する塩ビ レポート3

水平循環型リサイクルタイルカーペット
「ECOS®(エコス)」シリーズ

 オフィスや病院などで広く使用されているタイルカーペット。カーペット(表面の繊維層)の寸法と形状を安定させるための裏打ち材(バッキング材)に塩ビ(PVC)素材が使用されています。塩ビ樹脂が繊維層に浸透しているために、長年、マテリアルリサイクルが難しい製品でした。住江織物㈱は、タイルカーペットの水平リサイクルを推進し、再生材比率7割の水平循環型リサイクルタイルカーペット「ECOS®」(以下、「ECOS®」)を開発しました。今回は、株式会社スミノエ コントラクト事業部 部長 奥村繁氏、住江テクノ株式会社 取締役 奈良工場長 富田修氏、同社製造部加工課 課長 米村尭紘氏にリサイクルタイルカーペットについて伺いました。

住江織物株式会社

 住江織物㈱は1883年創業の手織り緞通の工場に起源を持つ、テキスタイルメーカー。カーテンやカーペットなどのインテリア事業や自動車・鉄道・バスなどの内装材を取り扱う自動車・車両内装事業、従来の事業領域にとどまらない商材を取り扱う機能資材事業を通じて「くらしにおける新しい快適のスタンダード」の提供を目指しています。
 1970年には奈良工場を建設し、いち早く環境問題に着手しました。独自の製造技術で再生糸の開発やリサイクルタイルカーペットの製造など、環境負荷を軽減した製品づくりに積極的に取り組んでいます。

再生材比率7割を実現した「ECOS®」

 住江織物㈱は、従来は埋め立て処分されていた使用済みのタイルカーペットを回収・再資源化し、再びタイルカーペットを製造する水平リサイクルを推進し、2011年には「ECOS®」の販売を開始しました。環境配慮型製品への需要が高まる前から、リサイクル製品の開発に着手した時代の先駆者でもあります。
 「ECOS®」シリーズは、裏面のバッキング材には使用済みのタイルカーペットから回収したリサイクル塩ビパウダーを使用し、製品全体で7割の再生材比率を可能にしています(リサイクル塩ビパウダーについては次記事を参照ください)。
 「再生材の比率が多いと製造時の課題も増えます。そのため従来とは発想の異なる独創的な製造技術による『ECOS®』専用の製造ラインを新設しました。併せて、リサイクル塩ビパウダーの品質変動を加工技術でカバーすることで、安定した品質で『ECOS®』を製造しています」(米村氏)
 2023年3月には、さらに再生材比率を高めた新商品「ECOS NEO™(エコス ネオ)」を発売しました。「ECOS NEO™」では、表面糸にリサイクル繊維(ナイロン)を使用。「ECOS NEO™ EX」の場合は、国内最高水準の再生材比率81%、CO2削減貢献率61%を達成しています。
 住江織物㈱では、カーボンニュートラルの実現に向けて、再生材比率だけにこだわるのではなく、生産から使用、廃棄・回収までの製品流通の全体を通して、環境負荷が軽減できる最適な方法を考案しています。

写真
「ECOS®」の使用例
写真
タイルカーペットの製造現場 裁断の工程を経て完成する

タイルカーペットの水平リサイクル

 「開発当時は、世間一般では、リサイクル品は新品よりも高価で、品質が劣ると思われることが多くありました。そのためか、期待通りにはリサイクル品が普及していきませんでした」(奥村氏)
 リサイクル品の普及が進まない状況でも、水平リサイクルの取組みを継続し、リファインバース㈱と協業することで「ECOS®」が開発されました。
 リファインバース㈱は、オフィス等のリフォームに伴い発生する廃棄タイルカーペットを回収し、廃棄タイルカーペットからリサイクル塩ビパウダーを製造。一方で住江テクノ㈱は、リサイクル塩ビパウダーを活用して「ECOS®」を製造しています。積極的にリサイクル塩ビパウダーを採用し、使用量を増やすことで、両社のリサイクル事業がビジネスとして成り立つ仕組みが構築されました。また、製造工程で発生する端材もリサイクル塩ビパウダーとして再利用されています。
 「リサイクルタイルカーペットの普及には、廃棄品の回収と再生材を使いこなす技術の両立が不可欠です。両社共に社会的に非常に重要なミッションだと認識し、リサイクル推進への投資を継続した結果、『ECOS®』という製品に結実しました。そして、今後は、『ECOS®』の開発から10年以上が経ち、リサイクルカーペット自体も廃棄・回収される時期となるため、改めて製品の性能についても検討し、改良を重ねていきたいです」(富田氏)

写真
「ECOS®」のリサイクルシステム
写真
「ECOS®」の構造

高い環境性能と品質を兼ね備え、リサイクルを牽引する存在に

 「ECOS®」は高い環境性能が評価されて、新基準のエコマークを取得しました。また、サステナビリティへ取り組みが評価され、「令和4年度資源循環技術・システム表彰」経済産業省産業技術環境局長賞などを受賞されています。
 住江織物㈱は確かな技術力だけでなく、新分野へも挑戦する姿勢でタイルカーペットのリサイクルのパイオニアであり続けています。
 「『ECOS®』の発売で、タイルカーペットリサイクル品の流通が増えたのではないでしょうか。温室効果ガス削減(CO2削減)への気運が高まるなかで、これからも積極的にリサイクル製品の開発を進めていきたいですね」(奥村氏)

写真
「令和4年度資源循環技術・システム表彰」
経済産業省 産業技術環境局⻑賞
写真
お話しいただいた
富田氏、米村氏、奥村氏