特集 インフラと塩ビ レポート2
東京都が新たに掲げる無電柱化計画
自然災害のリスクに関心が高まるなか、期待を寄せられる「無電柱化」。50年以上の耐用年数を持つ塩ビ管で電線や通信用ケーブルを保護し、それらを地中に埋めることで無電柱化が実現。すると街は景観が改善され、通行がスムーズになるだけでなく、災害にも強くなります。今回はそんな無電柱化を計画的に進める東京都にお話を伺いました。
東京都 建設局 道路管理部
東京都では、「都市防災機能の強化」「安全で快適な歩行空間の確保」「良好な都市景観の創出」を目的に、無電柱化を進めています。
「東京都無電柱化計画」に基づき、2021年度から2025年度にかけて、1,407km(国道、都道、区市町村道)の道路で、無電柱化を行う計画です。安全安心で魅力ある東京の早期実現に向けて、都内全域の無電柱化を推進しています。
目標を定め、無電柱化をスピードアップ
東京都では「電柱を減らす」「これ以上電柱を増やさない」「無電柱化の費用を減らす」という無電柱化3原則のもと、以下の7つの戦略を掲げて無電柱化を進めています。
- 都道のスピードアップ(年間の整備規模を倍増させ、整備対象全線(延長2,328km)の2040年代の整備完了を目指す)
- 臨港道路等のスピードアップ(整備対象を東京港全エリアに拡大し、2040年度の整備完了を目指す)
- 島しょ地域の推進(島しょ地域の都道と港、空港で、2030年代の整備完了を目指す)
- 区市町村道への支援強化
- まちづくりでの取組強化
- 電柱の新設禁止の拡大
- 技術開発・コスト縮減の促進
都道の無電柱化の推進に当たっては、防災、安全、景観の観点に基づき、必要性の高い区間から重点的に事業を進めており、災害時の避難や救急活動、物資輸送を担い、行政機関の本庁舎や災害拠点病院、重要港湾、空港などを連絡する第一次緊急輸送道路や環状七号線の内側エリア、主要駅周辺で2035年度の完了を目指しています。
東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開催に向けて、無電柱化を推進したこともあり、東京都無電柱化計画(2021年6月改定)では、「センター・コア・エリア」(概ね首都高速中央環状線の内側エリア)の無電柱化がおおむね完了した旨の報告がありました。
「改定した計画では、都心の防災機能をさらに向上させるために、センター・コア・エリアから環状七号線の内側に重点整備エリアを拡大。一方で、今後は島しょ地域での事業も重点的に進めようとしています。令和元年の台風15号では伊豆諸島が甚大な被害を受けました。特に沿岸部では電柱が倒れたり、電線が切れたりと島民生活に大きな影響を与えました。被災履歴の多い島しょ地域においても、できるだけ早い無電柱化が必要だと考えています」(建設局 道路管理部 無電柱化担当課長 岡部氏)
島しょ地域でも計画的に整備を実施
島しょ地域の無電柱化を進めるための計画も策定、推進しています。2022年1月の「東京都島しょ地域無電柱化整備計画」の策定後、被災履歴などをもとに、今後被災リスクが高い区間や令和元年台風第15号による被災箇所など、被災リスクを大幅に低減させる上で効果が大きい区間を「緊急整備区間」に指定し、先行して工事を実施しています。
「緊急整備区間」の無電柱化は、2025年までに完成予定。岡部氏は「災害はいつ起きてもおかしくないので整備ペースをさらに上げていきたい」と必要性を語ります。
工事を進めるに当たっては、島しょ地域は都市部と同様に解決すべき点も多いのだそう。道幅の狭さ、急斜面が多いなどの地形的な影響への配慮や、必要な資材を本土から運び込むための輸送の確保が必要となるからです。
「島しょ地域での施工は比較的工事の規模が小さいので、一見容易に感じますが、島しょ地域ならではの特性を考慮して整備を進めていくことが必要となります。一方で都市部よりも電力需要が少なく、工事の支障となる埋設物も少ないので、簡易な構造を採用して工期短縮につながった例もあります。早急に整備を進めるために、島しょ地域に最適な手法を比較検討しながら施工しています」(岡部氏)
PR活動を通じて事業参入のハードルを下げる
無電柱化を進めながらも、11月10日の無電柱の日にあわせて電柱に関する風景写真を募集するフォトコンテストを開催。そこには、無電柱化を都民だけでなく、さらに多くの工事業者に周知してもらう狙いがあります。
「防災意識の高まりから、これから日本全国で無電柱化工事の必要性がさらに増えていくのではないでしょうか。そうしたなか、自治体の限られた財源の中では、工事費用がどうしても負担になってしまいます。だからこそ、無電柱化工事に関心を持ってもらい、資材のメーカーや多くの施工業者に参入してもらうことで、価格や人材の課題が解決につながるのではと期待しています。新規参入を検討している施工業者にとって高いハードルにならないよう、管工事の際に必要な工法に関する知識を広めるサポートもしていただきたいです。そして無電柱化を促進しながら、安心・安全な街を実現させたいですね」(岡部氏)