2022年11月 No.117 

特集 インフラと塩ビ レポート3

無電柱化が作る、安心安全な街

 無電柱化は街の景観向上や道路交通の利便性向上、災害時の停電や二次災害の防止にもつながります。無電柱化率はロンドン、パリ、香港、シンガポールが100%なのに対し、東京23区内は現在47.9%。まだ途上ですが、着実に無電柱化は進んでいます。今回は東京電力パワーグリッド株式会社にその取り組みについて伺いました。

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電線の地中化後に設置される地上機器。

東京電力パワーグリッド株式会社

 関東広域の電気供給を担い、世界最高水準の安定性と高品質な送配電環境で私たちの生活を支える企業。近年では送配電ネットワーク分野での豊富な知見を活かし、サスティナブルなエネルギーを推進するスマートシティづくりや無電柱化による防災、魅力ある街づくりへの参加などに積極的に取り組んでいます。

安心・安全な街につながる無電柱化

 無電柱化とは、電線を地中に収容する電線共同溝の整備などにより、電柱を地上からなくすことを指します。地上から電柱と電線がなくなることで、街並みが美しくなり道路上の通行空間も確保しやすくなります。そして地震や台風などの災害時には、自然災害による電柱・電線の被害を防止することが可能となり、倒壊した電柱による緊急車両の通行阻害を軽減させるなどの効果も発揮します。(※電柱倒壊は家屋・樹木倒壊などの2次被害によるものがほとんど)
 東京都における無電柱化工事は主要幹線道路から始められ、コアエリア(中央区、千代田区、港区の3区)では88.6%の電線が地中化しているものの、東京都23区全体では47.9%にとどまっています。今後はより一層、無電柱化を推進していく計画です。
 「2022年の事業計画では、2023年から2027年までの5年間で822km(電線共同溝方式)、60km(電線管理者による単独地中化)の無電柱化を目標としています。特に電線管理者による単独地中化では病院や医療センターなどの優先的に停電の復旧が必要な区間等を施工し、より安心・安全に暮らせる街になるよう、工事を推進していきたいと考えております」(配電部 無電柱化推進グループ 主任 田川氏)

無電柱化を支える塩ビ管

 無電柱化工事の工法はいくつかあり、もっとも実績が多いのは「管路構造」。
 この工法は、地中のケーブルを収容する「管路部」、変圧器や開閉器などが収容された「地上機器」、ケーブルと地上機器を地中で接続する「特殊部」などから構成されます。ケーブルの追加や交換が比較的容易な構造でもあるとのこと。
 この「管路部」は、鋼管、強化プラスチック管、合成樹脂可とう電線管及び塩ビ管が使われています。
 管路の材料は、地中埋設時及び埋設後、長期間経過しても劣化せず、ケーブルが高温になる際にも所定の強度が確保できる等の条件をクリアできる必要があるとのこと。
 さらに、管路部は50年以上の使用に耐えられる必要があるそうです。
 「かつては鉄の管路を主に敷設していましたが、現在は輸送や埋設工事、埋設後の地中で受ける影響、そしてコストなどをトータルで考え管路の材料を選定しています。ケーブルは送電量が大きくなると高温となるため、それに耐えうる材料である必要が有ります。また、数ある材料の中でも、無電柱化で使用する際には、さまざまな試験を経て規定をクリアした製品が使われています。一度地中に埋めた後は、何度も掘り起こすものではないからこそ、長期間安定して使える素材が必要ですね」(田川氏)

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管路構造のイメージ。 出典:国土交通省 ホームページ

地域の協力あっての工事。効率化も課題の一つ。

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左:工事前の様子、右:工事後の様子。

 無電柱化のメリットを示す例として紹介していただいたのは、巣鴨地蔵通り商店街の事例。巣鴨地蔵通り商店街は商店が軒を連ね、人通りが多く賑わいのある商店街。しかし、以前は歩道上に電柱が点在し幅員が圧迫されていました。
 施工後は、歩行者が通行しやすい道になり、景観も改善。設置場所が課題となることもある変圧器は、商店街のシンボルであるアーチの中へも格納されました。
 「無電柱化で電線は地下に埋設されますが、変圧器は地上に設置されます。道路の状況によっては、個人が所有する土地や住宅の前に設置させてもらう場合もあります。地上機器を街歩きマップなどの絵柄でラッピングしたり、公共用地にまとめて設置したりすることもありますね。工事の準備や工事期間を含めて、地域住民の皆様、自治体の皆さまにはご協力いただいており、本当に感謝しております」(田川氏)
 できる限り工期を短縮するべく、作業の効率化にも日々努めているとのこと。巣鴨地蔵通り商店街では、従来の無電柱化工事に比べると3年ほど工期を短縮し、計4年間で施工を完了しました。東京電力グループ全体で工事のトータルマネジメントを行って作業を効率化したり、すでに埋設されている管路を活用したりしながら、さらなる工期の短縮、そして、低コスト化を目指しているとのこと。
 「無電柱化を推進していく上での課題はコストと時間がかかることです。しかし、無電柱化が広まれば地震や竜巻、台風などの災害時に電力・通信インフラの喪失を防止できると共に緊急車両の通路を確保できます。私たちが扱う電線というインフラは、皆さまの生活に無くてはならないものの一つ。これからも行政や研究機関と議論を重ね、無電柱化の推進につながる技術を開発し、より広い地域の皆様に安全で快適な暮らしを提供できるよう、努力を続けてまいります」(田川氏)

写真:配電部 無電柱化推進グループ 主任 田川翔太氏
配電部 無電柱化推進グループ 主任 田川翔太氏