特集 インフラと塩ビ レポート1
日本電線工業会の
電線の今と未来をつくる取り組み
空気のような存在で私たちの生活を支えているのが電線。私たちの当たり前の生活を支える電力供給や通信用の電線は、生活家電やオフィス機器の電源コードから壁の中に隠れた配線、工業用ケーブルなど、様々な場面で使われています。今回は、そんな「電線」の業界を支えている一般社団法人 日本電線工業会から、業界団体としての取り組みを伺いました。
一般社団法人 日本電線工業会
日本の電線工業の健全な発展と日本経済の発展、国民生活向上への寄与を目的として設立された団体。110社を超える電線関連企業が所属しています。規格・標準化、技術検討、出版、機関誌発行、調査検討、広報普及、講習・人材育成などの事業を通し、企業の垣根を超えた技術向上、取引の適正化に務めています。2018年には創立70年を記念し「電線の日」(11月18日)を制定。
いかなる環境でも安心安全に使える電線づくり
電線には、発電所から各地に電気を送る送電線や海底通信ケーブルのような大型のものから、電化製品の内部で使用される小型・軽量のものまで、用途によってさまざまな種類があります。
使われる場所も多様で、ときに過酷な環境でも使われます。それでも、「きちんと使えて当たり前」が求められる電線。使う人の安全性を担保するため、光ファイバーなどの特殊なケーブルを除き、電線は電気を通す金属(銅やアルミ)とその被覆部分から作られています。
被覆部の一番外側にあるのが、電線全体を守る「シース」という層。被覆部の材料には主に塩ビとポリエチレンが使われます。
通電による発熱で70℃以上になる場合は架橋ポリエチレンと塩ビの二重の被覆構造をとり、660V以下の比較的発熱温度の低い電線には塩ビ製の被覆材が使用されています。
「1984年に発生した『世田谷局ケーブル火災』では、工事に使用したバーナーの炎が電話ケーブルを伝って、隣のビルや上階に燃え広がるという延焼事故がありました。その際に使用されていたのが難燃性でないシースだったということから、屋内やビルの壁面で使用される電線には塩ビに特殊な配合を施した延焼しにくい被覆材を使うようになりました。電線メーカーと連携して電線の安全性を高め、安心して暮らせる環境に繋げていくことも、私たちの役目ですね」(専務理事 金原氏)
業界全体で省エネルギー化を目指す
電線業界としての地球環境への貢献も進めています。日本電線工業会では、2013年度を基準に2030年度までに二酸化炭素の排出量を37.4%削減する目標を設定。電線メーカーと手を取り合い、達成を目指しています。
「電線の製造工場では、被覆材の塩ビやポリエチレンを電力による熱源で成形しています。だからこそ、電線メーカー各社では、省エネルギー化を目指した工場内の電力設備の見直しや節電方法を模索中です」(金原氏)
日本電線工業会自身も、省エネルギー化技術の情報発信を実施。現在、積極的に普及活動をしているのがECSO設計(Environmental & Economical Conductor Size Optimization)と呼ばれる技術。設計段階から最終的な廃棄費用までを含めたライフサイクルコストの最適化を目的に電線の導体サイズを選ぶ技術で、これにより長期的に環境と経済性に配慮した電線の使用が可能になるとのこと。
「電流が流れる部分である金属(導体)には『電気抵抗』があります。そのため、送電の際には電気が少しずつ失われていきます。電気抵抗と導体の断面積とは反比例の関係。導体を太くして抵抗を抑え、電力の損失を最小限にしようというのが、ECSO設計の考え方です。導体が太くなれば被覆材も多く必要になりますが、長期的な目線で考えるとエネルギー削減になり、地球環境への貢献にもつながります」(金原氏)
未来でも「当たり前を支える」電線であるために
石油資源枯渇問題が深刻化するなかで、電線・ケーブルの被覆材に使用されている塩ビ(PVC)やポリエチレン(PE)のリサイクルが課題となっています。導体の銅やアルミニウムは回収しリサイクルできていますが、被覆材については廃棄処分されています。
「被覆材は、メーカー以外の電線回収ルートでは、ほとんどが産業廃棄物として埋め立て処分されているのが現状。産業廃棄物処分場の規制強化や廃棄費用の高騰からも被覆廃材のリサイクル性(マテリアルリサイクル・サーマルリサイクル)の向上が求められています」(金原氏)
そして、電線産業のブランド力の向上も課題の一つ。「電線の日」制定やPRサイト「DISCOVERY DENSEN」での広報活動を行なっています。
「当たり前の生活を支える『電線』を作る現場では、技術も日進月歩で進化し、高度な製造技術を要しています。だからこそ、電線業界の未来を担う人材も必要ですね。エンドユーザーと直接やりとりする場面がないからこそ、業界の魅力を伝えながら、学生の皆さんから小中学生に至るまでに積極的なアピールを続けているところです」(金原氏)