2021年07月 No.113 

 日常生活に欠かすことのできないプラスチック。しかし、その不適正な処理が「海洋プラスチック問題」としてクローズアップされ、2020年7月にレジ袋の有料化が始まったことで、改めて身の回りのプラスチックごみを意識する機会が増えています。
 今回は、2020年に出版された「ごみから考えるSDGs」の監修者 上智大学の織 朱實(おり あけみ)先生にお話を伺い、「持続可能な開発目標(以下 SDGs)」に触れながら、プラスチック問題の解決策など「わたしたちが未来のためにできること」について考えます。

特集 地球環境と塩ビ インタビュー1

プラスチックごみ問題を通して SDGsを知り、 未来のために行動しよう

上智大学大学院 地球環境学研究科教授
おり 朱實あけみ
織 朱實 氏

プラスチックのでき方と行く末について、立ち止まって考える

-さまざまな場面でSDGsの17の目標を目にするようになりました。これらの目標のうち、特にプラスチックと関係する項目について教えてください。
 まず、12の「つくる責任 つかう責任」ですね。メーカーは持続可能な方法で製造し、消費者は持続可能な方法で消費する必要があります。また、多くの方に課題と認識されるようになった「海洋プラスチック問題」は14「海の豊かさ」を守ろうという目標に関係してきます。
 ただ、SDGsの目標は、1から17まで相互につながっています。プラスチックごみを大量に燃やせば、13の「気候変動に具体的な対策を」にも関係しますし、最終的には17の「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標にもつながります。

石油精製プロセスを活用するプラスチックリサイクル
 
 
身近なごみ問題を入口にして、SDGsについて考えられる一冊。
身近なごみ問題を入口にして、 SDGsについて考えられる一冊。

-書籍「ごみから考えるSDGs」の中で、特に読者へ伝えたいことを教えてください。
 日本が、中国や東南アジアに「汚れたプラスチック」を輸出し、現地の低賃金労働者の手で分別、リサイクルさせていたという事実は、心にとめていただきたいです(2017年、中国は輸入禁止措置を実行)。
 私たちは、プラスチックごみをきちんと分別していると思い込んでいますが、駅や公園など自動販売機の脇のごみ箱に捨てられている飲み残しペットボトルや、食べ残しのお弁当容器などは、原料にするためには手間がかかります。そこで、こうした手間がかかるプラスチックは、人件費が安い途上国に輸出されることになるのです。
 「お金を払って処理してもらっているんだから、いいじゃないか」という意見もありますが、現地で働く人たちの中には、職業選択の自由がない社会的弱者や、貧しい子どもたちがいます。そして、大量のプラスチックごみが不衛生な環境で分別され、リサイクルされてできた「安いプラスチック」が、100円ショップなどに並ぶ安価な商品になるのです。
 一度、「この安さの理由はなぜなんだろう」「駅で気軽に捨てるゴミはどこに行っているんだろう」と立ち止まって考えてみると、世界のどこかで、先進国の私たちのしわ寄せがいっている人たちがいることに思いをはせることができると思います。

「安全な水とトイレを世界中に」生活に必要な水を安全に運ぶ塩ビパイプ
「安全な水とトイレを世界中に」
生活に必要な水を安全に運ぶ塩ビパイプ
「つくる責任 つかう責任」廃パイプは再びパイプへリサイクル
「つくる責任 つかう責任」
廃パイプは再びパイプへリサイクル

-塩ビの場合、廃素材をこれまで10万トン近く輸出していました。塩ビ業界としても、国内のリサイクル企業や施設をサポートしなければと感じます。
 そうですね。寒冷地の暮らしを支える樹脂窓は、この先続々と取り換えが進んでいくと思います。ヨーロッパでは樹脂窓のリサイクルも進んでいるようなので、事例を参考にしてもいいと思います。
 廃プラスチックの輸出に関しては、「リサイクルビジネス」ととらえれば今後も続けられる可能性があります。きちんと処理現場を監査し「法に基づいてリサイクルされているか」「児童労働はないか」「衛生的な環境が整えられているか」などSDGs的観点も考慮しながら、チェックし、事業として成立させる方法はあるはずです。

プラスチックの使用量は、必要な場面を見極めることで減らせる

-途上国への「プラごみの押しつけ」が実際に行われていたことに心が痛みます。今から、わたしたちにできることはあるでしょうか。
 日本で経済的にリサイクルを成立させるには、
 ①きれいなプラスチックである
 ②素材別に分けられている    状態が必要です。
 まずは、自分が外で出すプラスチックごみはできるだけ持ち帰り、きれいに洗って分別しましょう。ペットボトルのキャップとラベルを取るかどうかは、自治体によっても異なるのでお住まいの地域の方針を確認するといいと思います。
 リサイクルの敵は、異物の混入と素材の混在です。ペットボトルのリサイクル率が高いのは、単一素材であること、お弁当容器などに比べて異物が入り込みにくいから。ラップやシートは、複合素材であるうえに汚れが付きやすく落としにくいのでリサイクルが難しい製品のひとつです。
 そして、根本的な解決策は、プラスチックの使用を減らすことです。「プラスチックでないとダメなものはなにか」をしっかり考えて選びましょう。
 たとえば、医療現場でのプラスチック製品、食品ロスを減らすためのラップは必要です。そういった必要不可欠なシーン以外は、ガラスで代用できないだろうか。紙でもいいんじゃないか? などと考えて、商品の購入を行うことが大切です。
 消費者が消費行動という形で意志を示せば、企業の方針も変わると思います。
 たとえば、小分けのお菓子が多いのは、消費者ニーズに応えてきた結果とも言えます。「不便かもしれないけど、小分けじゃなくても買います」と、大袋のお菓子を買い続ければ、それだけでプラスチックを減らせますし、企業も安心してプラスチック減へ舵を切れます。

(イメージ)配るのに便利な小分けのお菓子は、食べるとゴミが出てしまう
(イメージ)配るのに便利な小分けのお菓子は、食べると ゴミが出てしまう

SDGsを意識した行動は、未来を歩むための必要条件

-確かに、企業の「環境」への配慮も注目されていますね。
 今や、欧米でSDGsを意識しない企業は、消費者からはもちろん金融業界から見捨てられ、株価も下落し、融資も受けられず、保険にも入れません。
 「中小企業は利益が少ないから対応できない」という言い訳に終始して努力を怠ると、経営は立ち行かなくなります。日本でも、企業それぞれがSDGsを意識した経営を目指すことになるはずです。

-プラスチックごみ問題解決のため「日本にも取り入れたい」と先生が感じられている海外事例はありますか?
 海外事例を取り入れる前に、少しマインドを変化させることが先かなと思います。
 日本は大変きれい好きで、細やかな気配りが当たり前。しかし、リサイクル・リユースを進める際には、その美徳がマイナスに働きます。
 たとえば、お弁当のおかずを仕切るシートなどは海外にはほとんどありません。確かに見た目もキレイで味も混ざりませんが、「この品質を維持するために、誰かにしわ寄せがいっていないか」と考えてほしいのです。
 日本の品質へのこだわりは、ペットボトルのリサイクルにも影響を与えています。
 ペットボトルに使われるPETには微小の穴があり、その穴に飲料の風味がわずかに入り込んで匂いが残ります。欧米では洗浄後普通にリサイクルしますが、日本はそのわずかな匂いを気にしてしまう。優先すべきは、わたしたちの美徳でしょうか、世界の人々や地球の幸せでしょうか。

(イメージ)汚れのつきやすい弁当の容器は、洗ってリサイクルへ
(イメージ)汚れのつきやすい弁当の容器は、洗ってリサイクルへ

消費者に正しい情報を発信し、必要な場面で選ばれる存在に

-先生は産業界とのつながりも強く、VECも10年以上お世話になっています。最後に、塩ビ業界へのご提言をお聞かせください。
 塩ビは独特な機能を持っている素材で、塩ビだからこそできるパッケージングなどもたくさんあります。塩ビのメーカーさんには、素材の特性や必要性を消費者に伝えてほしいです。
 海洋プラスチックの問題で悪者にされがちですが、「なぜ、塩ビが必要なの?」「他の素材ではダメなの?」といった情報や、「実は、塩ビを使う方が環境負荷を下げられる」「企業努力の結果、リサイクル率が上がっている」といった情報を積極的に伝えることで、消費者に選択してもらえる可能性も高まります。
 もうひとつは、やはり業界を挙げて廃棄方法やリサイクル方法を進化させていくことが求められます。今は、色つきの製品とクリアな製品は分けてリサイクルされていますが、「少々色が混ざっても、リサイクル率が高まるなら気にしない。むしろ、そういった素材を使ってほしい」という消費者も多いはずです。
 業界と消費者とのコミュニケーションが生まれれば、誰も過度な我慢をすることなく環境負荷を下げられるのではないかと感じています。