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「顔の見える関係」にこだわり続けた20年。クリエイターのための一大拠点
/クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック(MEBIC)
大阪市中央区に、クリエイターとクリエイター、クリエイターと企業の出会いを生み出し続ける施設があります。2003年の開設から20年以上、「顔の見える関係づくり」というコンセプトを守り続け、クリエイターの支援を行うMEBICです。これまでに開催したイベントは2,419回(2026年3月時点)、この場をきっかけに生まれたコラボレーションは2025年度だけで601事例を数えるなど、確かな成果をあげています。今回は所長の堂野智史氏に、MEBICのこれまでの足取りと哲学、そして実際のコラボレーションの事例について伺いました。
クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック(MEBIC)
2003年5月、大阪市北区の旧水道局庁舎にクリエイター・デザイナー専門のインキュベーション施設として開設。現在は大阪市中央区・大阪産業創造館17Fに拠点を置く。設置主体は大阪市経済戦略局、運営主体は公益財団法人大阪産業局。クリエイターのネットワークづくり、情報発信、ビジネスマッチング、マネジメント能力の向上を支援している。
貫いてきた「インフォーマル」の哲学
MEBICが開設された2003年は、日本全国でインキュベーション施設が数多く生まれた時期でした。中でもMEBICはアート・演劇・デザイン・映像の拠点があり、クリエイティブな雰囲気を持つ大阪市北区東エリアという立地を活かし、「クリエイター・デザイナー特化」という特徴をもって開設されました。「公的なクリエイター専門インキュベーション施設としては、全国2番目」というように、注目を集めてスタートを切った一方、所長に着任した堂野氏は元シンクタンクの研究員であり、クリエイターの世界は完全に未知の領域。アウェーからのスタートでした。それでも堂野氏は自転車でオフィスを一軒一軒回り、施設の趣旨を説明してネットワークの仲間を増やしていったといいます。
堂野氏がMEBICで開設時から貫いてきたコンセプトは「顔の見える関係をつくる」というもの。「フランクにコミュニケーションを取って、そのつながりが結果的にビジネスになっていく」、そんな場の設計に挑んできました。
このコンセプトが試練にさらされたのが2020年のコロナ禍でした。人と人が顔を合わせるのが核心のMEBICに、「密」を避けなければならない緊急事態宣言が直撃したのです。オンラインでの対応を試みたといいますが、リアルな場で生まれる関係とは程遠いと感じたといいます。「リアルの場では50人が集まって、すべての人がそれぞれ話せば約2,500通りの出会いが生まれます。しかしオンラインMTGではどんなにルームを分けても、せいぜい数人話せるくらい」。逆にリアルな場の価値を再認識した経験となり、オンラインMTGが一般化した今も顔を合わせることにこだわり続ける理由になっています。
2026年3月時点でイベントの総参加者数は18万人を超える
現役クリエイターだからこそできる、実のあるサポートとコミュニティの充実化
MEBICの特徴は、クリエイターと企業とをつなぐコーディネーターに、現役クリエイターを起用していることです。多くの施設では、OB・OGクリエイターや、税理士・中小企業診断士といった士業の人材がサポートにあたりますが、MEBICでは現役クリエイターがその役割を担います。支援される側の人が、支援する側に回るという一見不思議な形態ですが、「現役なら同じ目線で、今の生の言葉で答えられる。これが大事なんです」と堂野氏はその意義を語ります。
コーディネーターは数年で入れ替わり、常に現役が担い続ける仕組みです。開設から20年以上、これまでのべ約300人がコーディネーターとして関わってきました。既存メンバーが新メンバーを呼び込み、その人がやがてコーディネーター側に回る――堂野氏が「友釣り方式」と呼ぶこの循環が豊かなコミュニティを育んできたのです。
あらゆる方向から出会い、つながる多彩なプログラム
MEBICの活動は、クリエイターが「出会う・発信する・つながる・学ぶ」の4本柱。中でも特徴的なのが「出会う」を担う交流イベント「Mebic Talk-in」です。テーマも決めず、何時に来ても帰ってもいいこの交流会は、開設時から続けていることの一つ。「テーマを決めると専門家同士の情報交換で終わる。そうでなく全く関係ない人同士が偶然引き込まれる、それが大事なんです」と堂野氏は語ります。このほか、企業が案件をプレゼンしてクリエイターが手を挙げる形式の「クリエイター募集プレゼン」、反対にクリエイターが企業に得意技をプレゼンする「シーズ発表会」、特定の課題について語り合うクローズドな「クリエイティブクラスターミーティング」など、出会いの形を複数用意しています。こうして設計された場から、様々なコラボレーションが生まれていくのです。
【メビック発のコラボ事例①】
クリエイター×企業|技術力をまっすぐ伝える、モノクロのカッティングマット
㈱ミワックスの「The Cutting Mat」は、MEBICのクリエイター募集プレゼンをきっかけに生まれたプロダクトの一つ。同社の取締役・美馬徹也さんが「カッティングマット以外の商品を作りたい」とプレゼンに登壇したところ、㈱モート商品デザインの正田勝之さんは「そうでなく、カッティングマットのブランディングをすべき」と切り返したといいます。同社のカッティングマットは、軟質のポリ塩化ビニル(PVC)で硬質のPVCをサンドした形の三層構造により、カッターの刃通りの滑らかさと、変形の起こりにくい強さを両立する、高い技術力が必要なプロダクトです。この構造で国際特許も取得し、定番品として愛されてきました。品質には問題がない一方で、当時はカラーラインナップが緑色しかありませんでした。そこで正田さんはブラックとホワイトの2色展開を提案。カッティングマットそのものの持つ完成度の高さを、まっすぐに伝えるためのデザイン・ブランディングでした。長らく緑色だけでやっていただけに社内では抵抗感もあったといいますが、発売後は大きな反響を得ることに。グッドデザイン賞ベスト100を受賞するなど、現在では多くの支持を集める存在になっています。

【メビック発のコラボ事例②】
クリエイター×クリエイター|異分野でチームを組んだメタバース開発
「目的がないということは、イノベーションのきっかけになりやすい」と堂野氏がいう通り、テーマのない交流会、「Mebic Talk-in」から生まれた新事業は多くあります。その一つがクリエイティブチーム「メタつく〜る」のプロジェクト。
メタバースに熱中する広告クリエイター・榛木富三さん(HARIKI ind.)が「Mebic Talk-in」に参加するようになったことがきっかけで、自身が主催するメタバースの勉強会にもクリエイターたちが集まるように。「もしメタバースがテーマのイベントで出会っていたらこうはならなかった」と堂野氏がいう通り、そこは、分野の垣根を超えた多様なクリエイターが集う場になっていきました。その後、古賀印刷㈱の竹田保さん、映像クリエイターの今西優太さん、イラストレーターの坂野愛子さん(aicopan)の4人でメタバース制作チーム「メタつく~る」を結成。大阪府柏原市「亀の瀬地すべり歴史資料室」のリニューアルに際し、展示室と地下空間を仮想空間で体験できるコンテンツを制作すると、続いてIT系4企業のメタバース展示場を制作・公開。異分野のクリエイターが集ったプロジェクトは次のステージへと進んでいます。
大阪からグローバルへ。リアルの価値が輝く未来に向けて
MEBICは以前から、大阪のクリエイターのクリエイティビティを刺激し、視野を広げるために、海外との交流の機会を大切にしてきました。イタリアへのデザイン研修ツアーもその一つ。デザインの本質を追求してきた現地の実践者たちとの交流は、参加者に「人が変わる」ほどの刺激をもたらしてきたといいます。
さらに、大阪・関西万博が転機となり、国内外から人や情報、ビジネスの機会が一気に集まる中で、都市間のクリエイター交流が加速。ドイツ・ハンブルグ市のクリエイティブ支援施設「ハンブルグ・クリエイティブ・ゲゼルシャフト」との交流が始まり、インドデザイナー協会ベンガルール支部とも相互訪問が始まるなど、国際的なネットワークは着実に広がっています。
刺激を受けるための海外から、ビジネスの機会としての海外へ――MEBICの視野と国際的な役割は、新たなフェーズに入りつつあります。
MEBICの今後について「リアルなコミュニケーションだけにこだわってきたMEBICの価値が、AIが発達するほど認められていく気がしています」と堂野氏は晴れやかに展望を語りました。
人と人とが出会い、つながりからビジネスが生まれる。そのコンセプトは設立から20年以上が経った今、より輝きを増しています。

