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客観的視点から生まれる機能性、社会性、
デザイン性のあるプロダクト
10本でも1本でも花をきれいに飾れる花器、「花巾着」はデザイナーの何気ない気づきと、PVCの特性が組み合わさって生まれた製品です。このシンプルなプロダクトの裏側には、どんなアイディアと思想があったのでしょうか。今回は花巾着開発のストーリーとプロダクトデザインの姿勢について伺いました。
株式会社memori
「新鮮な快適性をまとうデザイン」をコンセプトに掲げた、プロダクトがメインのデザインオフィス。製品のデザインをはじめとしたクリエイティブワーク全般を手掛け、商品やサービスなどの戦略的なアウトプットによるブランド構築や事業促進など、より高い完成度でクライアントの想いをカタチにするお手伝いをしています。
金魚すくいの袋がヒントの花器
巾着袋のように使える花器、「花巾着」は株式会社memori(以下、memori)のオリジナル製品で、PVC Award 2021を受賞(入賞)しました。巾着袋の表面は花器としての意外性やインテリアとの相性も踏まえて、合成皮革やコットン生地を採用。裏地は防水仕様(PVCシート)になっていて直接水を注げるようになっています。PVCシートは耐久性と防水性に優れているため、水漏れの心配はありません。また、素材を選ぶ際は素材の特性だけでなく、素材が環境に与える影響なども意識されているとのこと。
花巾着は、memori代表・チーフデザイナーの宮内氏が自宅で花を飾る際の気づきをきっかけに生まれたそうです。通常の花瓶に飾られた花は、萎れた花を取り除くにしたがって、残った花が花瓶の中できれいに立たなくなっていく。「花の本数が少なくなってもきれいに飾れる花器を作れないだろうか?」と考えはじめたのが、発想の原点でした。
「設計するときに参考にしたのは、金魚すくいで使われるプラスチックの袋。持ち手の紐を引っ張ると口の部分が閉まるという構造を使えば、口の部分の広さが調節できる花器になると思いました。それだけでなく、多くの人に親しんでもらいたいという思いから、直感的に使い方がわかる構造を目指しました」(宮内氏)
巾着の形状をしているので、「紐を引っ張れば口が閉じる」ということが分かりやすい。本体に水を入れると袋全体が押し広がり、安定した花瓶の底面が作られるようになっています。本体はPVCでできているため軽いですが、水が入ることで安定した直立が可能になります。
また、使用後は口を開いて内部まで手を入れて洗えるので衛生的。薄く折りたためるので保管するときは場所を取りません。
落としても割れる心配が無いので、お子様のいる家庭へ贈り物として使われることもあり、従来の花器よりも幅広い場面で楽しめるのも特徴。
客観性の純度を高めた先にあるプロダクト
花巾着の他にも魅力的なプロダクトを作り続けている宮内氏。あくまで自分は「アーティストではなくデザイナー」であり、客観的な目線を大切にものづくりをしているとのこと。
「クライアントには企画の段階からヒアリングを行いますが、いつも『本当に必要なこと』が言葉になって出てくるわけではありませんし、そこには主観も混ざる。だからこそ、様々な切り口から客観的な情報を集め、先回りをして提案させていただいています。そして、クライアントの事業に役に立ち、なおかつ機能性と社会性、デザイン性のあるプロダクトを実現していきます」(宮内氏)
「客観性」は常に重視しているという。社名の由来もそこにあると言います。
「客観的な純度の高い要素を使って、クライアントの要望や目標に高いレベルで交わるような提案を作り、裏付けのある構成要素からデザインを導きたいですね。そんな想いもあって、自社の社名は、『客観的に伝えられるもの』として『目盛り』から取って名づけました」(宮内氏)
最短距離で目標にたどり着けるように
数々のデザインを手がけてきた宮内氏は「デザインとは形を作るものではなく、整理すること」とも語ります。memoriが目指すのは、表面上の審美性を上げるためではなく、クライアントの最終目標を達成するためのより本質的なデザイン。
そして、デザインはツールであり、クライアントが最短距離で、コストと労力を抑えながら効率よく目標に近づくことを助けるもの。宮内氏が考えるデザインは単なるものづくりではなく、企業の在り方まで考えるものなのかもしれません。
現在、memoriの新たな取り組みとして、より多くの人にデザインの相談をしてもらえる「デザイナーに気軽に声をかけられる」ような場所づくりを考案中とのこと。
「プロダクトに限らず『デザイン』の依頼を敷居が高いと感じている方は多いと思います。しかし、ほんの少し企業としての見せ方、広報の仕方を工夫するだけで、劇的に好印象になることもあります。商品開発や新規事業の立ち上げで悩んでいる方々に、気軽にご相談していただけるような場を作っていきたいですね」(宮内氏)