2021年11月 No.114 

インフォメーション 4

安心・安全な可塑剤を供給するために

科学的根拠にもとづく可塑剤工業会の情報発信

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写真左から 技術部長 柳瀬広美さん 環境委員会委員長 鮫島政昭さん 事務局長 山口慎吾さん

 可塑剤業界の発展と可塑剤の安全を目指し、設立から60余年という長い歴史を重ねる可塑剤工業会(JPIA)。塩ビの加工性を高め、応用範囲が広いプラスチックにしてくれる可塑剤。その需要は、電線被覆材、建築材料、自動車と多岐に渡っています。
 今回は、可塑剤工業会の活動や、塩ビの加工に不可欠な可塑剤を取り巻く状況についてお話を伺いました。

科学的根拠をもとに、過剰な規制に声を上げる

-可塑剤工業会の活動についてご教示ください。
山口:現在、可塑剤工業会は8社の会員企業で構成されています。総会、理事会で活動方針を決め、月に一度環境委員会を開催しています。可塑剤は、1990年代から発がん性、生殖毒性を有するのではと、世界中で環境規制の対象に挙がりました。風評被害といえるものから、調査が必要なものまでありますが、過剰な規制に対しては、科学的に反論しなくてはなりません。
 わたしたちは環境委員会と各部会を中心に、海外の文献をチェックして世界情勢を把握し、安全性の研究や環境モニタリングに取り組んでいます。活動で得られた科学的根拠をもとに、パブリックコメントを出して可塑剤の安全性をアピールしています。環境委員会と各部会はコロナ禍で一年以上WEB開催でしたが、全国の会員が参加しやすくなってむしろ活発化したことはうれしい誤算でした。

-可塑剤工業会の役割は長年「安全性の追求」だったのですね。
鮫島:そうですね。塩ビは人々の暮らしを身近なところで支えていますが、そのことが逆に注目を集めやすく、規制の対象になりやすかったという一面があります。1950年代から輸血に使われる血液バッグにDEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)という可塑剤が使われていますが、生殖毒性などの問題は一度も起きていません。調査で得られた事実を積み重ねて、正しい情報を発信することがわたしたちの仕事だと言えます。

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⾝近な塩ビ製品に使われる可塑剤DEHP(DOP)とDINP

常に変動がある、欧米の可塑剤を取り巻く動き

-ヨーロッパでは、化学物質の登録・評価・認可・制限に関するEU法「REACH」による規制が厳しくなったと伺いました。
柳瀬:2020年7月に、DEHP、DBP(フタル酸ジブチル)、DIBP(フタル酸ジイソブチル)、BBP(フタル酸ベンジルブチル)が制限物質と定められ、これらを含む製品は輸入できないことになっています。DINP(フタル酸ジイソノニル)も規制の対象となりそうでしたが、専門家の調査研究で「生殖毒性はない」という結論が出たため、規制に向けた動きは沈静化しています。

-では、アメリカでの可塑剤に関する動きはいかがですか?
山口:アメリカでは、日本の化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)にあたるTSCAにより「優先評価物質」にDBPやDEHPといった可塑剤が指定され、どんな毒性があって、人や環境にどのくらい曝露するのかのリスク評価がされています。
 今回の評価では、可塑剤メーカー側からの希望で、DINPとDIDP(フタル酸ジイソデシル)も同時に調査されています。DINPはヨーロッパで安全だと結論付けられていますし、メーカーとしては、これらの可塑剤が安全だというお墨付きを得たいと考えているようです。

日本の可塑剤を取り巻く動きと今後

-では最後に、日本の可塑剤に関する規制の動きと今後についてご教示ください。
柳瀬:日本もアメリカと同様に、DEHPが優先評価物質に指定され、リスク評価を受けています。2021年3月に推計結果が公表されたのですが、「一次リスク評価」の中で更なる調査が必要な段階に進むことになりました。可塑剤工業会としては全く予想外の事態です。
 これは化審法においてDEHPの最小有害性評価値(D値)が変更になったためですが、D値を超える暴露が認められると、人や生活環境、動植物への被害を生ずるおそれがある化学物質「第2種特定化学物質」に指定される可能性があります。わたしたちは、D値の設定に使われたデータの信頼性に疑問を感じています。専門家の助言を得ながら、年内発行予定の「可塑剤インフォメーションNo.32」で正面から科学的な反論をしたいと考えています。

鮫島:これまでも、可塑剤工業会は海外の工業会と連携し、科学的なデータをもとに可塑剤の安全性を証明してきました。1995年から日米欧三極会議を開催しており、現在はヨーロッパ、中国、タイ、インドと連携し、可塑剤にまつわるレギュレーション・毒性・環境影響について話し合っています。今後も、安心して可塑剤を使っていただけるよう、正しい情報発信を行ってまいります。

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2018年に開催された会議の様⼦。ポーランド、中国⼭東省、インドで実施された。