特集 健康と塩ビ製品 レポート 3
㈱三洋の「べんけいガード」
車いす用フットレストカバー。
医工連携で生まれた「人にやさしい」塩ビ製品
高齢化の進展などで車いすの利用が増加する中、フットレスト(足置き)への接触による外傷事故が問題となっています。そこで開発されたのが、株式会社三洋(海渡清社長/東京都中央区)の「べんけいガード」。「合成樹脂素材の加工商社」として多彩な事業を展開する同社が、医療機関との連携で作り上げた「人にやさしい」塩ビ製品に注目!
徹底した「柔らかさ」への拘り
例えば、医療従事者が患者を抱えて車いすに乗り降りさせる際、誤って患者の下肢をフットレストにぶつけて傷を負わせてしまう。そんな不慮の事故を防止するのが「べんけいガード」の役割。フットレストに手軽に装着するだけで、その名のとおり、車イス利用者の「弁慶の泣き所」をガッチリ守り抜きます。
「べんけいガード」の最大の特長は、徹底して「柔らかさ」に拘った、「肌にやさしい滑らか作り」。芯材(緩衝材)のウレタンスポンジを塩ビシートで包み込ました。素材そのものの柔らかさはもちろん、一見シンプルな製品設計の随所に、柔らかさと安全を追求した同社ならではの加工技術が光っています。
高周波溶着で「継ぎ目感なし」を実現
そのひとつが、表地の塩ビシートを縫製ではなく高周波溶着(高周波で接合部分を暖めて溶着する方法)で接合していること。これは「皮膚の弱い人にとっては縫い目でさえ負傷の原因になる」という医療現場からの指摘に対応したもので、この技術を用いたことにより、どこを触っても継ぎ目を感じさせない、マシュマロのような柔らかさが実現しました。
さらに、芯材のウレタンにも細かい工夫が。ウレタンは三層を糊で貼り合せた構造になっており、下手をすると層外にはみ出た糊が硬化して、折角の柔らかさを損なう要因になりかねません。この問題を解消するために同社が考えたのが、中間層を小さめにして糊のはみ出しを防ぐという方法。誠に行き届いた工夫と言えます。
「合成樹脂70年」の技術と知見を生かして
1947年、セルロイド製品の製造販売業として発足。1950年、塩ビ生地および加工品の卸販売をスタートした後、合成樹脂全般を扱うようになり、樹脂素材の総合商社として発展した。1970年代には、自社の製品企画を外部のメーカーに委託製造する形で加工分野に進出し、2007年からは、大阪府に八尾工場を建設して自社加工の取り組みを本格化。文具・雑貨、販促用品、建材の3部門をメインに事業を拡大したが、少子高齢化に伴う需要構造の変化に対応して、2015年から健康・医療分野の製品開発に挑戦。以後、「べんけいガード」をはじめ、数々の注目商品を生み出している。
PVC DESIGN AWARD の応募にも積極的で、2015年度の入賞作品ドアストッパー「Door Cube」がヒット商品に。
国立国際医療研究センターとの連携
「べんけいガード」は、医工連携の取組みから誕生した製品です。開発の経緯を、三砂仁取締役(総合企画推進部管掌)に聞きました。
「『べんけいガード』開発のきっかけは、東京都医工連携HUB機構(ものづくり企業と医療・研究機関の交流を促進し、医療機器の開発・事業化を推進する都の委託機関)のサイトに参加したこと。このサイトには、都内の病院などから様々な医療機器開発のニーズが掲載されていて、それを見た企業が『自社の技術なら可能』と思われる案件を選んで応募する仕組みになっている。フットレストカバーのニーズは国立国際医療研究センター(東京都新宿区)から出ていたものだが、当社はこれなら塩ビで出来るという自信があったので、センターに提案して共同作業を進めていった」
次に、開発を担当した総合企画推進部の菅谷暢次長の説明。「まず相手の要望をしっかりと聞き取り、それを基に試作品を作り、話合いを重ねて細部を調整していった。とにかく柔らかく作ってほしいという要望だったので、高周波溶着は最初の段階で決めていたが、苦労したのはウレタンの問題。糊の硬化さえもダメだと言われて、試行錯誤を重ねた。開発に要した時間はほぼ1年半。『べんけいガード』は厳密には医療機器には該当しないが、センターの先生からは『塩ビ製のカバーという発想は画期的でとても新鮮だ』と評価して頂いた」
「べんけいガード」が発売されたのは昨年の11月。まだ1年に満たない実績ながら、介護施設や病院のほか、オンラインショップなどを通じて一般家庭での需要も増えているとのことです。
新型コロナ対応製品にも注目
文具や玩具、建材など主要品目としてきた同社が、健康・医療分野に事業を拡大したのは、今から5年ほど前のこと(P8の囲み記事参照)。玩具から医療へ、というと一見無縁な世界への挑戦とも思われますが、菅谷次長は「実はそうでもない。『べんけいガード』の塩ビシートは、元々ポーチやビーチボールなどに使っていたもので、塩ビ玩具を作ってきた経験が大いに役立っている。70年に亘って合成樹脂に携わってきた当社の技術と知見を応用すれば、健康や医療、介護の分野で我々が貢献できる製品はまだまだあると思う」と説明します。
同社では「べんけいガード」のほかにも、手術用の体位固定マット、車いす用座位保持マットなどの健康・医療系樹脂製品を開発していますが、コロナ禍の時節柄、ぜひ注目したいのが塩ビ製「ウイルスガードLP」と「抗ウイルス加工製品」。前者はインフルエンザやノロウイルスを念頭においた抗ウイルス性機能建材(化粧板用フィルム)で2016年秋に発売した製品で、後者はこの4月に発売されたばかり。いずれも抗ウイルス性と安全性が認められて、一般社団法人抗菌製品技術協議会の「抗ウイルスSIAAマーク」を取得しています。
三砂取締役は「ウイルスガードLP」は長い間鳴かず飛ばずだったが、新型コロナウイルスの広がりで最近各方面から引き合いが出ている。こういう製品は事が起こって初めて大切さがわかるものだが、平時において、ハザードを最小限に食い止められるような機能や製品を用意しておくことが、我々にできる最大の社会貢献であり、こういう仕事は今後も継続的にきちっとやっていきたい」と語っています。