特集 健康と塩ビ製品 レポート 1
太陽工業㈱の 「医療用陰圧テント」
簡単設営でウイルスの拡散をストップ。
注目高まるコロナ対応製品
今号の特集企画は「健康と塩ビ製品」がテーマ。医療や介護の現場で人々の健康維持に貢献する塩ビ製品をピックアップしました。初めにご紹介するのは、テント・膜構造物のトップメーカー・太陽工業株式会社(荒木秀文社長/本社=大阪市)の「医療用陰圧テント」。新型コロナ感染症の広がりを受けて、国内外の注目を集めるスグレモノです。
国内外で多くの実績
太陽工業の「医療用陰圧テント」は、もともと2007年に感染症対策のために開発された製品で、優れたウイルス拡散防止能力と、軽量でコンパクトな設計が最大の特長。陰圧機能を備えた医療スペースを、安全かつ短時間で確保できるため、新型インフルエンザばかりでなく、2015年のMERS(中東呼吸器症候群)流行の際にも、国内外で多くの実績を挙げています。
そして今。医療逼迫が懸念されるコロナ禍の中、その役割に改めて大きな期待が集まっています。
世界に広がる、太陽工業の膜材
1922年、能村テント商会として創業。1947年、株式会社に組織変更するとともに、太陽工業株式会社に社名変更している。
産業用テント倉庫や膜天井施設など、膜構造建築物で世界トップクラスのシェアを誇り、東京ドームや埼玉スタジアム、さらには、FIFAワールドカップをはじめとする国際競技大会や博覧会等の各種施設など、同社製品の使用例は枚挙に暇がない。このほか、セルフクリーニング機能を持つ光触媒テントや港湾工事で海面の汚染を防止する汚濁防止膜、テント生地をリサイクルしたファッションバッグなど、多彩な製品・サービスを展開している。
必要な時、必要な場所に
周知の通り、感染症対応の医療施設にとって重要なのは、受診者が持ち込むウイルスを施設の外に出さないこと。「医療用陰圧テント」は、陰圧フィルターシステムの働きで、内部の気圧を下げることにより(外気との気圧差10Pa)、ウイルスの外部拡散をシャットアウト。また、頻繁に換気を行ない(換気回数は1時間12回以上)、テント内で空気の流れを作ることで、診療を行なう医療従事者が感染しにくい環境を作ります。
設置方法も至ってシンプルです。エアビームと呼ばれるチューブに空気を注入するだけで素早く立ち上がる「一体型構造」なので、部材のはめ込み作業や支持材も不要。必要な時、必要な場所に、医療従事者でも素早く簡単に設営することができます。1ユニットのサイズは幅4m×奥行5m×高さ2.5mで(連結可能)、収納時は85cm×85cm×50cmのコンパクトサイズに収まるのも大きな魅力です。
コーポレートコミュニケーション・高谷裕美氏の説明。「コロナの広がりに伴って反響が高まっており、全国の自治体や病院などから切れ目なく問い合わせが来ている。韓国やドイツなど海外からの受注もあり、今年に入ってからの出荷台数は国内外を併せて既に100基以上に達する。お客様からは、梱包を解いて立ち上げるまでの所要時間が短い(10分弱)、一度空気を入れるだけで手間が掛からない、居住性も優れている、などの評価を頂いており、第二波の到来に備えて、備蓄を考える自治体も増えている」
「マク・クイックシェルター」の発展型
「医療用陰圧テント」は、同社が2006年に発売したハイブリッドエアテント「マク・クイックシェルター」の発展型となる製品です。「マク・クイックシェルター」は、「備蓄できて、すぐに立ち上げられる、小型の緊急・災害時用テント」というコンセプトで開発されたもので、軽量でコンパクトな構造、設営の容易さなどの基本仕様はすべてこの製品がオリジナル。この画期的なテントに陰圧フィルターシステムを組み合わせたのが、「医療用陰圧テント」というわけです。
コーポレートコミュニケーションの上田テツヤ課長によれば、医療用テントの発想は「新型インフルエンザ流行の際に立ち上げられた企業コンソーシアムに参加して、陰圧装置の技術や膜材との組み合わせ方などを学んだことがきっかけだった」といいます。
「単に2つを組み合わせただけではなく、医療用として用いるための気密性強化など、工夫や苦労した点も多い。本体に接続してエアロック機能を果たす『前室』(オプション)を考案したのもそのひとつ。『医療用陰圧テント』は、細部まできっちり作り込んだ完成度の高い製品と自負している」
熱中症対策エアテントの開発も
「マク・クイックシェルター」の発展型としては、専用エアコンや日除け用フライシートなどを組み合わせた熱中症対策エアテント「COOL MQ」も昨年9月に発売されており、健康・防災分野の製品開発に対する同社の強い意欲がうかがわれます。
「『医療用陰圧テント』に対する反響の大きさについては、状況が状況なので手放しでは喜べないが、当社が培ってきた技術が社会に役立っているという意味ではやり甲斐を感じている。今後はスピード重視で量産体制を整えていくことが課題になるが、同時に、お客様のニーズやご要望にお応えして、カラーやサイズ、付属品のバリエーションなど、カスタム化した製品をラインナップに加えていきたい。用途についても、発熱用外来の待合室とかドライブスルー検査用の施設とか、いろいろな展開を考えている」(高谷氏)