特集 建材(省エネ)レポート 2 樹脂窓の現場から
省エネ・省CO2の実現に取り組む、
JA長野厚生連
浅間南麓こもろ医療センター
前項では高断熱窓開発の最先端事情を概観しました。続いては施工現場からのレポート。実際に施工した現場で、樹脂窓はどう役に立ち、どんな評価を得ているのか。取材したのは、官民一体のプロジェクトの中で省エネ・省CO2の実現に取り組む、長野県小諸市の浅間南麓こもろ医療センター(黒栁隆之院長)。寒冷地の病室を快適・安全に維持するのも、樹脂窓の大切な役目です。
ZEBホスピタルのリーディングモデル
長野県東部、浅間山の南斜面に位置する小諸市は、夏場の最高気温が35℃、冬は氷点下10℃を下回る日も珍しくないという、高原地特有の寒暖差の激しい地域です。
そんな小諸市で、60年近く地域の医療を支えてきたのが浅間南麓こもろ医療センター。樹脂窓をはじめとする外皮の高断熱化や下水熱利用など、各種の最先端省エネ技術を導入した、文字通りZEBホスピタルのリーディングモデルと言える施設です。
「小諸市低炭素まちづくり計画」
2017年に現在の場所に移転・新築される以前、同センターは小諸厚生総合病院として、市内の近接地で営業を続けていましたが、老朽化などの問題を受けて2009年に再整備計画に着手。一方、病院の動きを契機に、小諸市も「小諸市低炭素まちづくり計画」を策定し(2013年3月)、CO2削減と循環型社会の構築へ向けた地域ぐるみの取り組みをスタート。市庁舎の新築と合わせて、病院の再整備についても、この計画の中で一体的に進められることとなりました。
「小諸市低炭素まちづくり計画」は、都市機能(病院と市庁舎)の集約化、建築物の低炭素化、緑地の保全・推進などにより「魅力あるコンパクトシティ」の実現を目指す官民一体のプロジェクトで、病院の新築に関しては、①高断熱化の徹底やヒートポンプ排温水の活用等による病室外皮暖房負荷のゼロエネルギー化、②下水管路内熱交換による下水熱利用、③隣接する市庁舎との一体的なエネルギーシステムの運用(電力一括受電や建物間熱融通)などの最新技術を組み合わせて、「環境性能に優れたエコホスピタルの実現を目指す」ことが計画のポイント。
「小諸市低炭素まちづくり計画」は、「寒冷な気候に対応した省CO2削減の取り組みとして先導的」と評価され、国土交通省の「平成26年度第2回住宅・建築物省CO2先導事業」に選定されています。
浅間南麓こもろ医療センター
JA長野厚生連が経営する総合病院。1960年佐久病院小諸分院として開設し、1973年に独立。数度の改名を経た後、建物の老朽化と狭隘化、耐震性強化の必要などから、移転・新築計画を推し進め、2017年浅間南麓こもろ医療センターとして、同時期に新築された市庁舎の隣に新装オープンした。小諸市唯一の公的病院として、質の高い医療・保健サービスを提供し、市民生活の安全と安心の確保に取り組んでいる。
住宅・建築物省CO2先導事業
増加傾向にある家庭部門・業務部門のCO2排出量削減に向けて、国土交通省が2008年度からスタートした補助事業。省エネ・省CO2のリーディングプロジェクトとなる住宅・建築プロジェクトを公募・選定し、整備費等の一部を補助することで、省CO2対策の強力推進、住宅・建築物の市場価値向上、居住・生産環境の向上などを図るのが目的。2014年に一旦事業を終了した後、2015年から「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」として継続されている。
複層Low-Eガラスの塩ビ製樹脂窓
こうして新装成った浅間南麓こもろ医療センターは地下1階地上6階の7階建てで、一般病床数246床、延べ床面積21,100㎡。地上階の4階から6階までの高層部分が病棟となっており、各病室に複層Low-Eガラスの塩ビ製樹脂窓が施工されています。また、窓の下には廃熱を利用した温水パネルヒーターを設置しているほか、壁についても厚み50㎜の断熱材を使うなどして、徹底した高断熱化とゼロエネルギー化が図られました。
設計を担当した石本建築事務所によれば「寒冷地における建物の断熱性を高めるため、サッシの熱伝導率を検討した上で、樹脂窓の採用を決定した」とのことで、その効果については「冬季の窓、樹脂サッシ表面温度は高めだと認識している」と評価しています。
下の写真は、同事務所が行った測定結果を示したもの。1月中旬の日中、パネルヒーターを止めた状態で、窓のガラス面や窓枠、室温などを含めて25℃程度から30℃前後で分布しており、温暖な室内環境であることが分かります。
樹脂窓は寒冷地に適した建材
浅間南麓こもろ医療センター施設課の土屋勝課長は、樹脂窓を導入した後の状況について次のように語っています。「小諸市のような寒冷地にとって、樹脂窓は非常に適した建材だと思う。冬でも結露が見られないし、窓際に立っていてもひんやり感じることがなくなった。以前の小諸厚生総合病院時代には、すべてアルミ枠の窓を使っていたが、アルミ窓だと枠の下のところに水が溜まって、カビが生えてきたりする。外の冷気がそのまま室内に来るので、マイナス16℃以下になると霜がつくこともあった。患者さんが窓際のベッドを嫌がって、外側にもう一枚アルミ窓を付けたりしたこともある。樹脂窓は確かに重いが、24時間換気なので基本的に窓を開けることはない。見た目も悪くないし、解放制限もできるので使い勝手もいい」
開設当初は「他の病院の見学者も多かった」とのこと。同センターの取組みがエコホスピタルの新しいモデルとして、全国各地に波及していくことが期待されます。