塩ビ工業・環境協会(VEC)の「ZEB/ZEHの実現を考える会」が3年がかりで取り組んできた研究成果がパンフレット「ZEB の実現のために〜樹脂窓による省エネルギーと快適・健康な室内環境の実現」としてまとめられました。これに合わせて、今回の特集はZEB/ZEHと樹脂窓がテーマ。はじめに、「考える会」の委員長を務めていただいた芝浦工業大学の秋元孝之教授に、取り組みの成果と課題、業界への要望など伺いました。
特集 建材(省エネ) インタビュー
ZEB/ZEH進展の鍵は「標準仕様になること」
窓業界はより良い製品の開発に努力を
- 芝浦工業大学 建築学部
- 教授 秋元 孝之 氏
省エネ効果とウェルネスの向上
─3年間の研究で樹脂窓のどんなことがわかってきたのでしょうか。
「考える会」では、ZEB/ZEHを進めていく上で樹脂窓にはどんな効果があるのか、あるいはどんな課題があって、それを解決するにはどうしたらいいか、といったことを議論したり研究したりしてきました。
実際にホテルや老人ホーム、集合住宅などで樹脂窓を使用した場合の温熱環境測定なども行っていますが、そうした取り組みから確認できたのは、樹脂窓を使うことで得られる効果は、単に省エネだけに留まらず、ウェルネスの向上、つまり、より快適で健康な生活への貢献も期待できるということです。
魔法瓶のようなビルや住宅
建物の外皮(壁、屋根など)の断熱性能を確保するとともに、樹脂窓で開口部の断熱性能と気密性能を確保すると、魔法瓶のようなビルや住宅が出来上がります。その結果、冷暖房のエネルギー消費が抑えられ、しかも部屋の中の温度分布を均一な状態にしやすくなるわけです。
例えば、先に触れた温熱環境の測定結果でも、樹脂窓を採用した住宅は、アルミ枠単板ガラスの窓を使用した場合に比べて、室内温熱環境の改善(室内の上下方向の温度差、窓際と室内中央部の温度差が小さいこと)や結露防止効果があることなどが、実測データにより明らかになっています。このことは、アレルギー疾患の発症や循環器系の健康被害、さらには家の中でのヒートショックの発生といった生活リスク低減に繋がることを意味しています。
今回のパンフレットの中には、これらの測定結果はもちろん、樹脂窓の効能、その使い方などZEB/ZEHの技術的なことが分かりやすくまとめられています。樹脂窓業界の人だけでなく、建築業界など多くの関係者に、ぜひいろいろな場面で活用していただきたいと思います。
ホテル施設の冬期の窓表面温度の熱画像実測結果
樹脂窓を使った時のほうが、窓の表面だけでなく部屋全体が暖かくなっていることが見て取れる。
(「ZEBの実現のために」から)
COP21パリ協定、SDGsの実現へ
─メディアでもZEB/ZEHへの注目が高まっています。今なぜZEB/ZEHが求められるのですか?
地球環境問題の解決のためには、二酸化炭素などの温室効果ガスを減らしていかなければならないということは世界共通の課題です。日本政府も、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)のパリ協定で、2030年までに二酸化炭素の排出量を26%(2013年比)削減するという野心的な国際公約を行っていますが、その実現には、ビルや住宅などからの二酸化炭素排出量を4割削減しなくてはならないと言われています。日本のエネルギー消費は、特に民生部門(業務・家庭)での増加が大きく、最近になって少し伸びが少なくなっているものの、基本的には増加基調が続いています。これを減らしていかないと環境負荷の削減はできません。
また、最近では、SDGs(Sustainable Development Goals。持続可能な開発目標。2015年9月の国連サミットで加盟193か国により採択。2016年〜2030年の15年間で達成すべき17の目標などを掲げている)の中でも、地球環境問題と並んで、省エネ、さらにはビルや住宅の中で暮らす人の健康・福祉も重要なテーマとして挙げられています。大まかな言い方をすれば、こうした課題解決の決め手の1つとして、ZEB/ZEHへのニーズが高まっているわけです。
窓のソムリエになれ
─ZEB/ZEHを進展させる上でキーポイントとなることは?また、業界への要望があればお聞かせください。
最も大切なのは、ZEB/ZEHが標準仕様になるということです。現在は国も補助金を設けてZEB/ZEHの普及に取り組んでいますが、本当は補助金などなくても、市場原理に基づいて成り立つビジネスモデルを目指さなければなりません。ビルや住宅を作ろうと思ったら市場にはゼロエネルギーの建物しかない、ということが普通にならなければいけないのです。
建築分野では、建築物省エネ法がこの5月に改正され、延べ床面積300㎡を超えるオフィスビル等に省エネ基準への適合の義務化が決まりました。また、それ以下の小さなビルや住宅については、建築主に対する建築士の省エネ技術説明義務化という制度が、早ければ2021年頃からスタートすると見られています。つまり、建築士はワインソムリエのように、こういう技術を採用すればこれだけ省エネできるといった情報を、建築主に対して明確に説明することが義務づけられ、建築主はその説明を聞いてどんな建物を作るかを選択することになるわけです。こうした制度の中で、建築主や住まい手が目利きになってくれば、自然と省エネ性能の高い建物だけが市場に残って、ZEB/ZEHが標準仕様になっていくだろうと期待しています。
幸い、戸建て住宅の樹脂窓は近年普及が進み標準仕様に近づいてきています。この傾向が非住宅部門にも広がっていけば更なる効果が目に見えてくるはずです。そのためには、建築士だけでなく、窓業界の人も窓のソムリエとして、どういう製品をどういう場面で使うとどういう効果があるということを、正しく分かりやすく説明していただきたい。非住宅の窓については、耐風圧や防火など難しい問題もあるとは思いますが、そこを技術開発でクリアしてほしい。美観も重要です。風合い、色合などを含めてデザイン性を高めること。そういう課題を見据えて、さらに良い製品を開発する努力を続ければ、それが標準仕様になって大量生産が進み、ビジネスモデルとして十分に成り立つと思います。
ZEB/ZEHと、「ZEB/ZEHの実現を考える会」
ZEBネット・ゼロ・エネルギー・ビル。断熱・日射遮蔽、自然換気等や高効率設備の導入により、冷暖房や換気、照明、給湯、エレベー タ等に使うエネルギーを50%以上低減するとともに、太陽光発電等の再生エネルギーの導入により、年間の消費エネルギーが正味ゼロ以上になるビル。
ZEHネット・ゼロ・エネルギー・ハウス。高断熱化を行ったうえで、高効率設備の導入により20%以上の省エネを行うとともに、太陽光発電等の再生エネルギーの導入により、年間のエネルギー消費量が正味ゼロ以上になる住宅。
ZEB/ZEHの実現を考える会ZEB・ZEH実現のためVECが2016年6月に発足させた産官学連携の委員会。芝浦工業大学の秋元教授を委員長に、日建設計総合研究所、国内主要サッシメーカー、空調メーカー、建築設計士らが委員として参加。ホテル・老健施設・集合住宅などのZEBを中心に、窓と高性能な空調設備に特化して3年間をかけ、各種シミュレーションや建築物での試験等実証実験などを行った。『ZEBの実現のために』は、その研究結果をまとめたもの。(ダウンロードはVECのサイトから http://www.vec.gr.jp/lib/lib4.html)