2026年03月 No.126 

トピックス 3

半世紀続くPVC製品が拓いた、新たな可能性/信越ポリマー株式会社

 信越ポリマー㈱は、これまでPVC加工で培った基盤技術を応用し、半導体関連の精密成形品や自動車用入力デバイスなど、多岐にわたる分野へ事業を拡大してきました。一方で、創業間もない時期から続くPVCラップフィルムにおいても、常識を覆す「青いラップ」の販売やバイオマス素材の活用など、時代に合わせた進化を続けています。こうした事業の多角化の歩みや、PVC製品に新たな価値を吹き込む挑戦について、信越ポリマー㈱ 営業本部 営業第四部部長 白方浩輔氏にお話を伺いました。

写真:白方部長
白方部長

信越ポリマー株式会社

 1960年に信越化学工業株式会社グループの樹脂加工メーカーとして設立。塩化ビニル(PVC)加工から始まった事業は、その技術を応用してシリコーンゴムや各種樹脂へと素材の幅を広げてきた。現在は、半導体や医療機器向け等の「精密成形品事業」、自動車用入力デバイス等の「電子デバイス事業」、そしてPVCラップや建設資材を含む「住環境・生活資材事業」の3つの領域で事業を展開している。創業以来培ってきた素材配合技術や各種加工技術を核に、最先端の半導体分野から日々の生活を支える資材まで、社会の多様なニーズに応え続けている。

塩ビ加工から多角化へ。信越ポリマー㈱の歩み

 信越ポリマー㈱は塩ビ加工メーカーとしてその歩みをスタートさせました。1960年の創業当初は塩ビ管、塩ビ板、塩ビコンパウンドの製造販売が主軸でしたが、現在では、祖業であるPVCラップや塩ビ製波板を含む「住環境・生活資材事業」を安定基盤としつつ、時代の先端を行く分野へも挑戦を続けています。
 その一つが、半導体製造に不可欠なウエハー搬送に用いられるケースで高い世界シェアを誇る「精密成形品事業」です。高度な加工技術とクリーン環境管理技術が求められるこの分野では、同社が長年培ってきた設計や加工における強みがいかんなく発揮されています。また、自動車のタッチスイッチや液晶接続用コネクターなど、機器の進化を支える「電子デバイス事業」も、同社の多角的な事業展開を象徴する柱の一つです。
 この多角化の転機となったのが、シリコーンゴム加工への進出でした。本来は絶縁材料であるシリコーンに導電性を持たせるというイノベーションに成功。この技術革新は、パソコンやリモコンの「キースイッチ」の開発へとつながり、現在の「電子デバイス事業」の礎を築きました。
 PVC加工で培った「材料・配合」「設計」「加工プロセス」等の基盤技術のノウハウを、シリコーンや他の樹脂加工へと応用・展開していく。絶え間ない技術の連鎖により、信越ポリマー㈱の事業の多角化と高付加価値化は進んできました。

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ウエハー搬送ケースとラバーコンタクト

PVCラップの革命。透明が常識の世界で色をつけた理由

 長い歴史の中で変革を続けてきた同社の中でも、定番と言える製品があります。1972年に発売された食品用ラップフィルムです。「ポリマラップ」を中心に、半世紀以上ほとんど変わらない姿で生活に根付いてきました。
 食品用ラップフィルムの世界では、「無色透明」であることが長年の常識でした。その常識を覆したのが、㈱キッチニスタ(2021年子会社化、2025年吸収合併)が開発した、日本で初めての青いラップ「キッチニスタラップ 抗菌ブルー」です。

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 開発のきっかけは、ある有名ホテルのシェフから寄せられた現場の声でした。ラップフィルムが透明であることは、中身が見えるというメリットがある一方で、ラップそのものが見えなくなるという側面があります。これは、万が一ラップ片が食品に混入した際、発見が遅れるリスクにつながるのです。そこで、食材には少ない「青色」のラップを開発することにより、混入しても破片を見つけやすくするというアイデアが生まれました。
 しかし、当初は「違和感の塊だった」と白方氏が語るように、技術的なハードルよりも心理的なハードルが高い挑戦でした「透明な製品を作る工場に色を持ち込むのはタブー」という製造現場の常識があったのです。透明性が求められる製造ラインにおいて、異物(着色剤)となりかねないものを持ち込むことは、品質管理の観点から大きな決断が必要でした。
 それでも現場の「食の安全」を求めるニーズに応え、2013年に製品化を実現。その後、赤や黄色のカラーラップもラインナップに加えました。2018年にはカラーラップがグッドデザイン賞等を受賞するなど反響は大きく、年々売り上げを伸ばすヒット商品へと成長しました。

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使い方の可能性は無限大。半世紀を経て進化するラップ

 ラップに「色」がついたことで、その価値は異物混入防止だけに留まらず、大きな広がりを見せています。
 例えば、赤の「デコラップ」は、保育園などでアレルギーを持つ子どもの食事を区別するために活用されています。「自分のだけ可愛いラップ」と子どもたちが喜ぶという、識別機能にポジティブな情緒的価値が加わった事例です。また、同じ規格の容器が並ぶキッチンの中で、遠目でも中身が視覚的にわかることは、今後外国人労働者が増えていくと予想される飲食業界において、オペレーションのミスを防ぐ新たな価値を生むことが期待されています。
 現在は、シェフや管理栄養士といった食品に関わるプロフェッショナルたちとタッグを組み、製品という「ハード面」だけでなく、その使い方という「ソフト面」の開発にも挑んでいるといいます。
 さらに、2024年1月には「キッチニスタラップ 抗菌ブルー」をリニューアルし、植物由来のバイオマス原材料を10%配合しました。バイオマスマークも取得し、環境負荷低減への貢献を目指すなど、PVCラップはその姿を進化させ続けています。

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オフィス入り口の一角。
デコラップで工作を楽しむこともできる。

革新的なアイデアで新しい価値を

 信越ポリマー㈱は、PVC加工という祖業から受け継ぐDNAを、シリコーンゴムや各種素材へと展開し、時代が求める半導体、自動車、医療といった最先端分野で価値を創造し続けています。
 その一方で、PVCラップフィルムのように50年以上続く製品においても、革新的なアイデアで新しい価値を掘り起こしています。樹脂加工メーカーとしての高い技術力と総合力で多様なニーズに応え、社会と産業の発展に貢献する同社の挑戦は続きます。