2021年03月 No.112 

特集 リサイクル レポート 2

バーゼル条約附属書の改正と塩ビ系廃棄物の輸出について

改正のポイントは?手続き上の注意点は?-VEC進藤専務理事に聞く

 2021年1月1日、バーゼル条約(*1)の改正附属書が発効し、廃プラスチックの輸出が網羅的にバーゼル条約の規制を受けることとなりました。なかでも塩ビ系廃棄物の輸出については、汚れの有無等と関係なく規制対象となり、大きく影響を受けることが予想されます。今次改正のポイントや塩ビ系廃棄物の輸出承認申請を受ける際に注意すべき点等について、塩ビ工業・環境協会(VEC)の進藤秀夫専務理事にお話を伺いました。

(*1)正式には「Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal(有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約)」。1989年採択、1992年発効。締約国は186か国1機関(EU)。米国は非締約国。

写真:VEC進藤専務理事

Q1.バーゼル条約の附属書改正はなぜ行われたのですか。

A1. そもそもバーゼル条約は、先進国由来の有害廃棄物が発展途上国に放置されて環境汚染をもたらす問題を越境移動管理で克服する目的で1992年に発効した条約です。バーゼル条約の規制対象になると、輸出に先立つ事前通告・輸入国からの同意(PIC=Prior Informed Consent)取得が必要です。なお、相手国の同意があれば輸出可能であり、完全な「輸出禁止措置」ではありません。
 さて、2017年、中国が国内での環境汚染等を理由に廃プラの輸入を禁止する規制を導入したことを契機に、「リサイクル資源」として先進国から発展途上国に輸出されたはずの廃プラが、輸入国における再生過程で不適切に処理され環境汚染を引き起こしてしまうリスクが認識されました。海洋汚染など環境破壊の深刻化につながるこの問題に対処するため、2019年のバーゼル条約第14回締約国会議(COP14)において、同年5月10日、廃プラを新たに網羅的に条約の規制対象に追加する条約附属書改正が決議されました。

Q2.バーゼル条約の附属書改正のポイントを 教えてください。

A2. 今次附属書改正では、バーゼル条約の3つの附属書に廃プラに係る規定が新設され、全ての廃プラが、規制対象(附属書Ⅱ又はⅧ)又は規制対象外(附属書Ⅸ)という形で網羅的に規定されました。附属書Ⅷには「有害性がある規制対象品の例示(A3210)」、附属書Ⅸには「規制対象外品の例示(B3011)」、そして両者いずれにも入らない廃プラは、附属書Ⅱ「特別の考慮が必要である廃棄物(Y48)」として規制対象に位置付けられました。
 この中で特徴的なのはY48の規定です。従来はこうした規定がなく、有害性を個別に判断してきたのですが、今次附属書改正以降は、廃プラは、A3210(有害・規制)かB3011(非有害・規制対象外)に入るか、又はY48(特別の考慮・規制)に分類されるわけです。
 国内的には、同条約はバーゼル法(*2)、バーゼル法範囲省令(*3)等にて担保され、規制品の輸出に当たっては、環境大臣による確認手続きを経たうえで経済産業大臣による輸出承認が必要となります。今次改正を担保するため、環境省は2020年10月1日にバーゼル法範囲省令の改正省令を公布したほか、B3011に含まれる廃プラを判断するための「該否判断基準」(*4)を定め公表しました。

(*2)正式には「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」
(*3)正式には、「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律に基づく特定有害廃棄物等の範囲等を定める省令」
(*4)環境省「プラスチックの輸出に係るバーゼル法該非判断基準について」
(概要)http://www.env.go.jp/recycle/yugai/pdf/r021130.pdf
(本文)https://www.env.go.jp/recycle/yugai/law/r02basel_law02.pdf

Q3.その包括的なY48の規定は、法改正や省令改正では何と規定されているのですか?

A3. 実は、今次改正においてはバーゼル法範囲省令の改正でY48についての言及はないのです。これは、もともとバーゼル法の第二条(定義等)第1項第一号ロにおいて、「特定有害廃棄物等」に「条約附属書Ⅱに掲げる物」が含まれるとされ、法律や省令を改正しなくとも条約附属書ⅡにおけるY48の新設が自然と読み込めるためです。

Q4.塩ビ系廃棄物の輸出はどうなるのですか?

A4. 塩ビ系廃棄物は、B3011の例外リストでは読み込めないため、すべてがバーゼル条約の規制対象となるので、注意が必要です。
 通常の廃プラは、B3011(附属書Ⅸ)に含まれれば規制対象外となります。しかし、B3011規定における規制対象外品の例示には、「主として一のハロゲン化されていない重合体から成るプラスチック廃棄物」と書かれていて、「ハロゲン化プラスチック」である塩ビ系廃棄物はこの例外の対象とならないと解釈されます。B3011に入らない廃プラはY48(ないしA3210)の対象となるわけですから、「塩ビ系廃棄物はバーゼル条約上の廃棄物である限り、バーゼル法の輸出承認規制の対象となる」ということになります。なお、リサイクル目的にて有価で輸出される「塩ビ物」であっても、再生過程にあるものは、バーゼル法上の「特定有害廃棄物等」であり規制対象です(ペレット、製品原料の余材等は例外)。

Q5.塩ビ系廃棄物の輸出に当たって輸出承認を取るために、注意すべきことは何ですか?

A5. 輸出先と相談して、多数の必要書類を準備する必要があります。具体的な手続きは、「特定有害廃棄物等(バーゼル法の規制対象貨物)の輸出に関する手引き」(*5)(以下「手引き」)をご参照下さい。

(*5)「特定有害廃棄物等(バーゼル法の規制対象貨物)の輸出に関する手引き」
   https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/kankyokeiei/basel/pdf/r1_tebiki_yusyutsu.pdf

 これら「塩ビ物」の輸出にあたり具体的に必要となる資料は、バーゼル法範囲省令の第七条に規定されています。
 中小事業者の負担軽減のため、VECは塩化ビニル管・継手協会と連携して環境省・経産省に度々相談に伺い手続き簡素化等要望を行い、以下の回答(下の表)を得ましたので参考になれば幸いです。

Q6.リサイクル推進の立場から、本規制導入をどう見ておられますか。

A6. 塩ビ業界はかねてよりリサイクルを推進しています。今次規制導入は、従来の輸出実態を大きく変えるもので、国内リサイクル市場開拓の重要性を高める一方、合理的な越境リサイクル活動をむやみに破壊しかねないリスクもあります。VECとしては本規制に関係者が何らかの形で対処できるよう、関係官庁・団体・企業等と連携して説明会の開催や意見交換等を通じた情報共有に努めてまいります。

(表)

要望 環境省回答
輸入先会社からの貸借対照表、損益計算書(3年分)等の入手・提出の免除・簡素化 省令指定のため免除は不可。営業秘密理由の場合は直接輸入先会社から環境省への提出可。翻訳については相談あれば応じる。
排水・排ガス・残渣が出ない場合/相手国に関連法制不在の場合の提出資料の減免 排水・排ガス・残渣が出ないことをフローや工程図で示す資料/現地法制の不在を説明する資料があればよい。
排水・排ガス・残渣が出る場合に遵守すべき日本側法規・基準の明確化 水質汚濁防止法(排水)、大気汚染防止法(排ガス)は「輸出の手引き」で排出基準情報の提示を検討。残渣については鉛の溶出基準を遵守していることが確認できる場合は、埋立処理ならその旨示せばよいが、焼却処理の場合は個別相談。
ペレット、製品余材、JIS適合再生原料などは製品扱いでバーゼル法の規制対象外という理解でよいか。 原則その通り。事前相談(地方環境事務所又は日本環境衛生センター)での確認を推奨。