●ワンダーミュージアムで驚き体験
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らせん階段を下りて、驚きの国へ |
「理解と創造は驚きに始まる」。これは私がこの財団に入ったとき先輩から教えていただいた言葉ですが、ワンダーミュージアム(※沖縄こども未来ゾーンのメイン施設のひとつ。右の記事参照)でこどもたちの相手をしていると本当にそのとおりだと思います。
ワンダーミュージアムでは、幼児からたくさんのこどもたちを対象に、いろいろな科学実験やワークショップを開催しています。科学の面白さを伝える展示物もたくさん揃っていますが、ただ単にモノが目の前あってそれを説明するというだけでは、こどもたちはあまり面白がりません。
沖縄こども未来ゾーン(沖縄こどもの国)
1972年、本土復帰の年に沖縄こどもの国としてコザ市(現沖縄市)胡屋に開設。2004年4月から沖縄こども未来ゾーンとして新装オープンした。現在も「沖縄こどもの国」の名で親しまれている。理事長は東門美津子氏(沖縄市長)。
「人をつくり、環境をつくり、沖縄の未来をつくる」ための全県的な人材育成施設として、@約200種類の動物がいる動物園、Aさまざまな展示やワークショップなどを展開するワンダーミュージアム、Bボランティアの活動拠点となるチルドレンズセンター、などを中心に「遊んで学べる参加型プログラム」を提供。こどもたちの知恵と感性と想像力育成の応援活動を行なっている。
http://www.kodomo.city.okinawa.okinawa.jp/ |
モノを自分の手で確かめて、それが急に光ったとか足が生えてジャンプしたなんてときに初めて、これって何なんだろ、気になる、もっと知りたい、と思うようになって、そこから生き物じゃないか、ロボットだよ、突然変異だろ、いや幻かもって、いろんな答えが出てくるんです。正解か不正解かということよりも、まずは考えることが大切だと思うので、その後にちょっとずつヒントを出していくと、事象の関係に気づいてくれたり、その中からまた新しい発想が出てくる。ですからここの展示物は、こどもたちが自由に触って遊びながら、音や色彩や映像の不思議さを体験できるハンズオンのものばかり揃えています。
●新たな発見にこどもを導く「プレーヤー」の役割
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蛇口から音の模様が出てくるよ。何でだろ、フシギだね(ハンズオン展示「サウンドフレークス」) |
ワンダーミュージアムにはプレーヤーと呼ばれるスタッフがいます。プレーヤーとは文字どおり「遊ぶ人」のこと。科学の知識や原理を教えるんじゃなくて、展示物を使ってこどもと遊びながら、より多くの発見や発想に近づけるのが役目です。ですから、必ずしも科学の専門家である必要はありません。大事なのは、あれしちゃだめ、これもだめじゃなく、こんな遊び方もあるよ、やってごらんというスタンスで、こどもに何かを感じてもらうことなんです。
私もプレーヤーから始めたんですが、最初のころは「この展示は、これが面白いんだよ」なんて言ってもこどもが思ったような反応をしないんです。それで先輩方のやり方を見てみると「君はどう思う?不思議だね」といった形で問いかけながらやっている。そうするとこどもたちも「ぼくはこう思った」「わたしはこう」とグイグイ押してくるくらい考えや思いが言葉や表情になって出てきて、しかも全く予想外の言葉が返ってきたりするんです。それで、私も段々楽しくなってきて、「プレーヤーという仕事に出会ってしまった」と運命を感じるくらい入れ込んでしまいました。
全国に科学ミュージアムのような施設は一杯あって、それぞれ雰囲気やスタッフとお客様とのスタンスも違っていますが、ここはここ。独特の雰囲気と理念、尊敬する上司や同僚の存在、私はそれが誇りなんです。ただ、こどもは敏感ですから、こっちが本気で遊ぼうと思っていなかったりするとすぐに見抜いてしまいますね。「今日のたかごん(私の愛称)はつまんない」なんて言って、すっと離れていく。それはもう超能力を持っているかと思うほどで、そういう意味ではこども達にも鍛えられています。
●「沖縄市こども科学力向上事業」に取り組む
私がいま担当している「沖縄市こども科学力向上事業」は、科学を市の柱にしたいという東門市長の思いから3年前にスタートしたもので、うちの財団が沖縄市教育委員会からの委託を受けて、日本科学技術振興財団とも連携しながら、様々な科学体験プログラム(ワークショップ)や実験ショー、企画展示、出前科学教室など多くのプログラムを展開しています。
昨年までは、理科の授業が始まる小学3年から中学3年までが対象という決まりにしていましたが、平成23年度からは、理科がまだ授業にない小学校低学年から科学に触れる機会をもってもらおうということで、市と協議して1年生から対象なるように変えてもらいました。やってみると1年生だってちゃんと科学的な好奇心を発揮するし、「実験好き?」と聞けば元気よく「好きっ!」って答えてくれます。
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出前教室の模様(講師は宮城さん) |
出前教室のほうは、昨年までは外部から講師の先生を招いてプラスチックとか琉球弧(諸島)の生き物とかをテーマに授業をしてもらったんですが、今年度は趣向を変えて、専門家の方のプログラムに加えて、私たちにできることを基本に、空気の実験とか磁石の工作実験とか全部で17のプログラムを用意して、学校に選んでもらうようにしています。11月から市内の小中学校を回って、これまでにもう30コマ(1コマ45分)の出前授業を実施しました。
●興味の芽を摘み取らないで
こんなワークショップも─
「鳥とコウモリのヒ・ミ・ツ」
2月18、19日、ワンダーミュージアムで開催されたのはスペシャルワークショップ「ゲッチョ先生とその仲間たち〜いっしょに探そう!鳥とコウモリのヒ・ミ・ツ」
今回は、ゲッチョ先生として知られる盛口満沖縄大学人文学部准教授のゼミの学生(こども文化学科)がプログラムを担当。
こどもたちは、鳥やコウモリが空を飛べるわけや、コウモリが暗闇でも飛べるわけを教えてもらって、また一歩、不思議の世界へ。 |
科学力向上事業と銘打っている以上、私たちの取り組みで理数系好きのこどもが増えてくれたらもちろんうれしいわけですけど、何もそれだけが科学力じゃないと私は思っています。例えば出前授業で実験をして料理に興味を持ったとか、色に興味を持ってアートの世界に進んだということになっても、その子がそこに興味を持ったなら、それはそれですごく面白いことだと思うんです。
他のこどもが興味を示さないことでも、「ほかの子と違うから止めなさい」とか「今はそんなこと勉強する時間じゃないでしょ」なんて注意するんじゃなくて、「ああ、そこに興味を持ったんだ。もっと調べてごらん。君が第一人者になるかもよ」という言い方をすれば、折角出てきた興味の芽を摘み取らずに済みます。そして、その興味を突き詰めて自分の感性に自信を持つ人になってほしいというのが私の願いです。
●沖縄に生まれ育った自覚と誇りを育てたい
私たちがやっていることは一般の科学教育とは違って、科学を通じた人づくりのようなものだと言えるかもしれません。さらに言えば、その根底には沖縄に生まれ育った人間としての自覚と誇りを育てたいということも含まれています。
私自身沖縄生まれの沖縄育ち、100%ウチナーンチュです。沖縄に生まれたことに誇りを持っていますし、かつては「こどもの国」のリピーターでした。ここの動物園には沖縄の生き物もいるし、昆虫もいる。沖縄の昔の民家を移築した「ふるさと園」もあります。それにワンダーミュージアムでの体験を加えることで、本土と違うからあれがない、できない、じゃなくて、沖縄だからこれがある、沖縄だからこれができる、そんなふうに沖縄を発信できる力が少しでも多く養われればと思います。私たちの仕事はそのキッカケ作りなんです。だから、ワークショップでも出前教室でも、できるだけ沖縄のものを使いたいと考えています。水溶液の実験で紫キャベツの代わりに紅芋を使うのもそのためです。
なんて、文字とか言葉にするとカッコよく聞こえますよね。でも実際はそんなことはなくて、四苦八苦の毎日です。だから、あんまり立派に書かないでくださいね。
こどもたちの心情を掴み取る天性のセンス(高田勝専務理事・施設長の話)
わたしたちの仕事は、こどもたちが驚いたり、これはすごいなと感じたする力の「芽出し」を手伝うことです。そのためには、教科書に書かれているような知識を教えるより、こどもとのやり取りの中で、その心情を掴み取れるタイプの人材こそ必要になります。「沖縄こどもの国」にはそういう力を持ったスタッフが揃っていますが、中でも宮城さんは、こどもと無闇に仲良くするわけでもないのに、そういう点ですごい才能を持っていると思います。
小学校の出前教室でも、声のメリハリ、言葉のやり取り、目の配り方や表情の使い方まで、天性と思えるセンスがあって、強制することなく、こどもを集中させ引きつけることができる。しばしば感心させられます。こどもの感性の窓を開けることはサイエンスの基本です。私たちは今後とも、こどもが自主性を持って科学に目を向けるようスタッフ一同で研鑽していきたいと思います。 |
略 歴 |
みやぎ たかこ
沖縄県南風原町生まれ。沖縄国際大学卒業後、浦添市社会福祉協議会で地域福祉の仕事に携わった後、2006年から(財)沖縄こども未来ゾーン運営財団に勤務。「たかごん」の愛称でこどもたちに親しまれている。現在、「沖縄市こども科学力向上事業」担当として、予算折衝、講師との交渉、プログラム企画・実施まで、パワフルな行動力を発揮している。 |
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