2004年3月 No.48
 
《ファクター4》の実現へ向けて、VECが初の研究

冷蔵庫の塩ビ製ドアガスケットリサイクルで、ミサワホームなどとの共同開発進行中

 

  電気冷蔵庫のドアガスケット(ドアパッキン)を再生木材の原料に利用するユニークなリサイクルが、塩ビ工業・環境協会(VEC)、株式会社松下エコテクノロジーセンター、ミサワホーム株式会社などの共同で進められています。話題の環境指標《ファクター》を用いた評価では、ファクター4を超えるサステイナブル社会にふさわしい高い環境効率が実証されました。

 

●再生木材「M-Wood2」の原料に

 
  電気冷蔵庫のドアガスケットは、プラスチックマグネット(フェライト磁石粉を塩素化ポリエチレンで固めたもの)を内蔵する塩ビ押出し製品です。
 使用済み電気冷蔵庫については、現在「特定家庭用機器再商品化法」(家電リサイクル法)に基づきシュレッダー技術などを用いて再利用が進められていますが、塩ビ製ドアガスケットについては、シュレッダー工程に支障をきたさぬよう、予め冷蔵庫本体から分離して、焼却や埋め立て処分するのが一般的で、リサイクルにはほとんど手が着けられていません。ガスケットに内蔵しているプラスチックマグネットについても同様の状況です。
 このため、今後、電気冷蔵庫の再商品化率を向上させるには、重量の約2%を占めるドアガスケットのリサイクルを実現することが大きな決め手になるものと考えられます。
 塩ビ工業・環境協会(VEC)が取り組んでいるマテリアルリサイクルの開発は、使用済みのドアガスケットを粉砕してミサワホーム株式会社(東京都新宿区)の開発した再生木材「M−Wood2」の原料に利用するもので、塩ビのリサイクルとしてだけでなく電気冷蔵庫の再商品化という点でも注目すべき試みと言えます。
 開発にはVECとミサワホームのほか、松下電器の家電リサイクル部門である株式会社松下エコテクノロジーセンター(兵庫県加東郡社町)、リサイクル企業の成本コンテナー株式会社(大阪府大阪市)などが参加、それぞれの技術を結集してリサイクルシステムの確立へ向け作業が進められています。
 

●プラスチックマグネットもリサイクル

 

  ミサワホームのM−Wood2は、使用済み木材の粉末と塩ビのリサイクルコンパウンドを成形した新時代の木質系建築材で、耐候性、耐久性などに優れる上、建物解体後の再リサイクルも可能であることから循環型社会にふさわしい再生木材として高く評価されています。
 リサイクル実験のフローの概要は次のとおり(詳細は別掲図)。
(1)松下エコテクノロジーセンターに集められた使用済み冷蔵庫からドアガスケットを外して塩ビ部分とマグネットに分別⇒(2)塩ビ部分を成本コンテナーで粉砕⇒(3)ミサワホームの関連工場(長野)で再生木材に加工
 なお、再生木材に加工する際、耐候性の良好な硬質系の塩ビコンパウンドを混合していますが、この原料にも、半導体工業で用いられるICチップ輸送容器(ICマガジン)の粉砕品が再利用されています(粉砕処理は成本コンテナー)。
 一方、技術的にリサイクルが難しいとされてきたプラスチックマグネットについても、ガスケットメーカーの野村化成株式会社(埼玉県岩槻市)の技術研究により、微粉砕して再成形しガスケットの磁石に再利用できる可能性が確認されています。

 

●環境指標《ファクター》による評価

 
  VECでは、今回のリサイクル実験に関連して、再生木材がサステイナブル社会にふさわしい製品であることを確認するため、近年注目を集めている環境指標《ファクター》を用いて環境効率の評価を行いました。
 《ファクター》は、「製品・サービスの価値」を「環境負荷」で割った値=環境効率がどれだけ改善したかを表す指標で、旧製品に比べて新製品の環境効率が何倍改善されたかを定量的に評価することができます。従来のLCAとは異なり、「環境負荷」という負の側面だけでなく、「製品・サービスの価値」という正の面をも同時に評価できるため、豊かさと環境保全の両立を目指すサステイナブル社会づくりには最適の指標と言えます。
 《ファクター》には、達成すべき目標によって《ファクター4》《ファクター10》など様々な考え方が提案されていますが、《ファクター4》は、「豊かさを2倍にし、環境負荷を半分に減らす」ことを目指す考え方です。
 今回の評価作業では、バージンの塩ビ樹脂を原料にして作った再生木材の原料と、リサイクル品を原料とした再生木材の原料、またプラスチックマグネットはバージン製品と粉砕・再成形した磁石の環境効率の比較を行いました。環境負荷の因子としては、大気汚染物質の代表である二酸化炭素(CO
2)のほか、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の合計値を計算しています。製品の価値には、長寿命性、省エネ性、物性、リサイクル性などの要素が含まれています。
 

●リサイクルシステム確立へ、実験を継続

 
  評価結果をグラフに示しました。再生木材の環境効率はバージン材料を用いた場合の計算値に対して約5倍、マグネットの場合は約2倍という評価で、全体として《ファクター4》の思想が目指している環境負荷の低減が期待できることが分かりました。
 また、今回は塩ビ製ドアガスケットとプラスチックマグネットがリサイクルによって埋立て処理されなくなることから生じる環境負荷低減効果を考慮していませんが、これも含めて評価を行えば、それぞれの環境効率はいっそう向上するものと考えられます。
 今回の評価作業は、塩ビ業界としてファクターについて研究した最初のケースとなりますが、昨年開催された「びわ湖環境ビジネスメッセ2003」(滋賀県長浜市/11月5日〜7日)では、東京大学国際・産学共同研究センターの山本良一教授が指導したテーマゾーン「ファクター4をめざして」の中で、研究事例のひとつとして紹介され、来場者の関心を集めていました。