2004年3月 No.48
 
 

 関西電力(株)の廃プラスチックリサイクル事業
   塩ビ電線被覆材を再び被覆材に。リサイクルの出口はグリーン購入で自ら確保

 

    循環型社会の構築に向けた関西電力株式会社(〒530−8270 大阪市北区中之島3−3−22 関電ビル/電話06−7501−0235)の取り組みが活発になっています。塩ビ電線被覆材を再び被覆材にして自社でグリーン購入するなど、クローズドリサイクルのモデル事例というべき「プラスチックのリサイクル事業」の現状をレポートします。  

 

平成11年「グリーン購入推進方針」策定

 
  関西電力では地球温暖化防止をはじめとする地球環境問題を重要な経営課題と位置づけ、平成2年に環境保全活動の理念となる「地球環境アクションプラン5原則」を、翌平成3年には行動指針となる「地球環境アクションプラン」を策定し、事業活動全般にわたる環境負荷低減に向けた取り組みを進めてきました。循環型社会の構築に向けた活動としては、廃棄物の3R活動(リデュース、リユース、リサイクル)および環境負荷の少ない製品・サービスを優先的に購入するグリーン購入活動を展開してきました。
 グリーン購入については、平成11年に「グリーン購入推進方針」を策定、オフィス用品や業務用の自動車、作業服にいたるまで、それぞれのガイドラインに基づいて環境保全型製品の購入に努めており、平成14年からは対象を配電設備用資材にまで拡大して、再生塩ビ電線(屋外用再生低圧ビニル絶縁電線)など再生プラスチック資材の採用に取り組んでいます。

 

■ 再生塩ビ電線300kmを購入(平成15年度)

 
  今回ご紹介する廃プラスチック資材のリサイクル事業は、配電設備のプラスチック資材リサイクルとグリーン購入運動をシステム化した関西電力独自の試みです。
 現場から撤去した塩ビ電線被覆材やポリエチレン系資材(保護管、電線接続箇所カバーなど)を、再び電線被覆、ポリ管、あるいは電線を巻き取る樹脂ドラムなどにリサイクルし、これを再資源資機材として自社購入する、というのがその基本的な枠組みで、平成14年度の下期から本格的に購入をスタートした結果、再生塩ビ電線については当初50km程度だった購入量が15年度にはおよそ300kmにまで増加するなど、順調な進展を見せています。
 関西電力では年間約110トンの撤去電線が発生しますが、これまでは、すべて非鉄金属メーカーに売却しており、金属部分は再生利用されていましたが、被覆部分については大半が産業廃棄物として焼却処分されてきました。
 こうした資源を有効利用し、グリーン購入という形でリサイクルの出口を確保する同社の取り組みは、文字どおり循環型社会へのモデル事例と言えます。

■ マテリアルリサイクルを最優先

 
  リサイクルの具体的な仕組みを見る前に、配電設備の環境対策について、事業を担当する関西電力お客さま本部ネットワーク技術運用グループの原英也氏に説明してもらいました。同氏によれば、「ネットワーク技術部門の環境アクションは4Rの優先順位を基本に進められており、リサイクルはその最後の段階に位置づけている」といいます。
 4Rとは、(1)リデュース(省資源・省エネ資機材の使用)、(2)リユース(寿命を全うしないで撤去された資機材の再使用)、(3)リペア(そのままリユースできないものに手を加えて再使用)、(4)リサイクル(修理不可能な資機材の再利用)という4つのステップを意味し、一般の3Rの考え方とは異なって、リペア(修理)というステップを組み込んでいる点に特徴があります。
 このうち、リデュースでは電線保護のために電柱に取り付ける塩ビ管の短尺化、リペアでは保護管(ポリ管)の修理再使用などの取り組みが進められています。
 リサイクルについては、「マテリアルリサイクル最優先」が基本コンセプトとなっており、現時点ではケミカルリサイクルやフィードストックリサイクルは行われていません。また、マテリアルリサイクルの用途についても、(1)同一製品へのリサイクル、(2)同一製品にできないものはネットワーク技術部門で使用する他の製品へのカスケード(下垂)リサイクル、(3)ネットワーク技術部門外の製品でのリサイクル、(4)社会のリサイクルシステムに組み込んだオープンリサイクル、という明確な優先順位が決められており、「基本的にはネットワーク技術部門でコントロール可能な(1)と(2)を重点にリサイクルを進める」ことになっています。 n>

   

■ クローズドシステムで資源循環

 
  プラスチック資材のリサイクルフローは図2に示したとおり。関西電力または施工業者により撤去されたプラスチック資材を加工メーカーで粉砕、再生原料として電線メーカーなど各種電力設備の製造メーカーに販売し、各社が製造したリサイクル製品を関西電力が購入する、という流れで、完全なクローズドシステムの中で資源が循環することになります。
 「現在のところ、廃プラスチックの排出量のほうが圧倒的に多く、リサイクル製品の購入量と排出量のバランスが取れない。製造メーカーには再生原料を50%以上使ってもらうようお願いしているが、今後使用割合をさらに増やして再生用途のメニューを広げていくことなどで問題に対応する」(原氏)。
 塩ビ電線被覆材のリサイクル技術については、(株)ジェイ・パワーシステムズ(住友電気工業と日立電線が共同設立したケーブルメーカー)との共同研究が行われました。電線には長さ10メートル以上の長尺品と10メートル未満の短尺品の2種類があり、それぞれで異なったリサイクル手法が採用されています。

 

■ ケーブル電線のリサイクルにも着手

 
  このうち、長尺品は被覆材と銅線に解体した後、被覆部分を切断、粉砕して再び電線被覆材にリサイクルしますが、この際、添加剤を補充して新品電線と同等の性能を確保しています。
 再生塩ビ電線は価格面でも新品より安価で、LCAの調査でも二酸化炭素の排出抑制が可能であることが確認されています。平成14年度の本格導入以来、購入量が順調に増加していることは前述したとおりで、原氏は「新たにリサイクルに参加を希望する電線メーカーも出てきている。関西電力の事業の中で再生電線の使用がやっと一般的になってきた」と自信をのぞかせています。
 短尺品の場合はそのまま粉砕して被覆部分と銅粉に比重分離されますが、相当厳密に分離しても微量の銅粉混入が避けられないため、電線被覆材以外の用途への利用が検討されています。リサイクルのコンセプトで言うと、長尺品は前述(1)の同一製品へのリサイクル、短尺品は(2)の他の製品へのカスケードリサイクルということになります。
 なお、関西電力では、新たな取り組みとして、ケーブル電線のリサイクルに着手する予定。ケーブル電線の外皮(シース)に使われている塩ビを取り出して再びケーブルシースに戻すというもので、既に技術的な可能性は実証されており、まもなくグリーン購入がスタートする見通しとなっています。リサイクルの輪は確実に広がっているようです。

 

■ 電力業界としての取り組み

 
  配電用資機材のリサイクルについては、(社)電気協同研究会(東京都千代田区神田須田町)を中核に、業界全体としての研究も平行して進んでいます。
 同研究会では平成12年10月から14年9月まで、東京大学地球システム工学科の石谷久教授、京都工芸繊維大学物質工学科の奥彬教授ら学識経験者のほか、電力10社、関連資材業界の代表らが参加して、配電資機材リサイクル技術専門委員会(委員長=多山洋文関西電力お客さま本部副本部長)を設置、平成15年4月には2年間の研究成果を報告書にまとめています(「配電資機材のリサイクル技術」/『電気協同研究』第58巻第6号)。
 お客さま本部ネットワーク技術運用グループの久保員章氏の話。
 「報告書では電線に限らず、碍子、計器、変圧器、ケーブルなど配電に関するすべての資機材を対象に個々のリサイクル手法がメニュー化されている。関西電力と同様、LCAを用いた環境影響を把握した上で、4Rの優先順位を基本的な方向としているが、中にはマテリアルリサイクルが難しい資機材も多く、より上流のリユース、リペアを重点的に取り組んでいる。ただ、この仕事は循環型社会とはどういうものかが理解されないと実際にモノが動かない。そういう意味で業界全体の意識づけ、意識の高揚が何より重要だと感じる。関西電力で言えば、本店、支店、営業所まで『循環型が必要な社会的な背景』『循環させることで環境負荷低減とコストダウンを同時達成できること』などを説明して啓蒙活動を進めている」。
 原氏は、「リサイクルはやはり回収がポイント。実際に動かして見たことで問題点が見えてきた。現地分別、効率的な輸送方法など、より使いやすいシステムをめざして改善していくのがこれからの任務。関係メーカーの協力も得て頑張って取り組みたい」と、今後への抱負を語っています。