続いて、リスクコミュニケーションを行う上で陥りがちな「思い込み」(別掲)の問題に話を進めた浦野教授は、「最も重要なことは、すべての化学物質にリスクがあるという大前提で物事をスタートしなければならないということ。リスクとは『被害の出る可能性』であって、イエスかノーかでは割り切れない、程度の問題だ。企業は『安全なのか危険なのか』という市民の問いに対して、しばしば『絶対に安全だ』と答えたがるが、こういう答えはリスクコミュニケーションにおいては決してあり得ないことを認識する必要がある」と述べる一方、「だからと言って『リスクはゼロにはできない』と答えたのでは、コミュニケーションはそこから先に進まない。『いまの時点ではこの程度だから大きな被害は出ないと思われるが、こういう減らす努力をしている』という姿勢、ゼロにはできないが可能な限りゼロを追求する『際限のない努力』こそ、リスクコミュニケーションの基本的なカギになる」として、次のように「思い込み」の危険に対する注意を促しました。
「自分たちに都合のよい一方的な情報だけで市民を説得しようとしたり、専門的な難しい知識を細々と並べて説明すれば合意してもらえると考えたりするのは、コミュニケーションではなく押し付けに過ぎない。また、技術者や科学者は、『化学物質のリスクは科学的に十分解明されている』とか、『自分たちは客観的にリスクを評価している』と信じたがるが、化学物質のリスクには未解明の部分が確実に残っているし、科学者のリスク評価には自分の現在の立場や価値観が必ず入ってくる。『市民や地域住民は科学的にリスクを評価できない』と考える科学者も多いが、市民の中には学習により専門的な知識を蓄積し、驚くほどの情報収集力、分析力を備えた人・団体も少なくない。そう考えると、化学メーカーが自社製品の毒性情報を外に説明する場合、自分たちの価値判断だけでやるのは非常に危険だと言える。『思い込み』の危険を免れるには、必ず外部の意見を聞くことが必要だ」
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