●新たなリサイクル手法「モジュール・リユース」
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今日はこれからの廃棄物対策の在り方とメーカー(製造者)の取り組みの方向について、産業廃棄物と一般廃棄物に分けてお話ししてみたいと思います。
ご承知のとおり、廃棄物対策の原則として排出抑制→リユース→マテリアルリサイクル→サーマルリサイクルという優先順位がありますが、マテリアルリサイクルの場合、平成7年度における産業廃棄物のリサイクル率は、一般廃棄物の9.9%に対して37%に達しています。実は、産業廃棄物のほうがマテリアルリサイクルに向いているのです。
これは排出源の集約性と廃棄物の性状の均一性、再生品の需要先確保の容易性などのほか、排出者と利用者が連携して協力関係のもとにリサイクルを行う「閉じた系」の作りやすさによるところが大きいためです。産業廃棄物については、これからもできる限りその特性を生かしたマテリアルリサイクルを第1としていくべきでしょう。また近年、これに加えてモジュール・リユースという新しいリサイクルの手法が登場してきています。
モジュール・リユースとは、廃棄された製品を基本的な構成単位である部品(パーツ)に分解し、そのパーツごとの消耗度に応じてメンテナンスした後、再び自社製品の部品として利用していく手法です。リユースする部品の点数にもよりますが、廃棄物の有効活用度、投入エネルギー量を考えると、ビールびんなどで行われている本来のリユースとマテリアルリサイクルの中間に位置する方法と言えます。
日本でも、多くの部品からなる組み立て型耐久消費材に馴染みやすい方式として、既に自動車やOA機器メーカーなどを中心にその試みが始まっていますが、私はこの新しいリサイクルの方法に大きな期待をしています。製造者が外部の再生業者に処理を委託する現在の「委託型リサイクル」ではなく、製造者が主体的にリサイクルに関与する、言わば「自力型リサイクル」と言うべきモジュール・リユースの基本思想が、今後の廃棄物対策のひとつの方向を示していると思えるからです。 |
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●製造業型発想からサービス産業型発想へ
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モジュール・リユースには、容易に解体できる設計技術と余寿命の判定技術、製品間の共通化設計技術といった、これまでのリサイクル技術を超えた発想の転換が求められますが、こうした要素技術だけでなく、ここでも「閉じた系」を作ることが重要なカギとなります。市場に出した製品が、利用者から製造者の元に戻ってくるシステムがなければ、効率的なリユースを行うことはできないからです。
モジュール・リユースの最大の効果は、「自社の製造した製品に最後まで責任を持つ」という姿勢を企業に促すことで、製品のアフターサービスやメンテナンスが充実することです。結果として「モノを長く使う」という思想を広く社会に根付かせることが期待できます。
残念ながら、我が国は依然として「大量生産、大量消費、大量廃棄」のパラダイムから脱却しておらず、国の廃棄物政策も基本的にはそうしたパラダイムを前提としています。しかし、大量生産、大量消費を前提とした大量リサイクルには、リサイクル過程でのエネルギー消費の増大や、二次廃棄物の発生という問題があります。この限界を克服するには「長く使う」という思想を育てる必要があります。
モジュール・リユースは、「モノを長く使う」という思想を製造者自身が体現化する取り組みであり、アフターサービス体制の充実や、回収・再利用の促進が実現されれば、消費者の意識も必ず「壊れたから捨てよう」から「壊れたから直そう」に変化していくはずです。
大量生産による利潤拡大という従来の製造業型発想から脱却し、商品の修理、メンテナンスによる収入に重点を置くサービス産業型発想へ移行することで、新たな成長産業を生み出すことも期待できます。つまり、モジュール・リユースは、経済成長と環境保全を両立させるひとつの方向を示しているわけです。
塩ビ業界の中でも、廃棄後の塩ビパイプ等を自ら回収し、マテリアルリサイクルを行っているようですが、「閉じた系」に着目したリサイクルシステムは、今後も拡大の余地が大きく、ぜひ続けてほしいと思います。
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●一般廃棄物ではサーマルリサイクルが必要
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以上のように、産業廃棄物については、マテリアルリサイクルとモジュール・リユースがこれからの主要な対策になると考えられますが、一般廃棄物の場合は、マテリアルリサイクルできないものに限ってサーマルリサイクルを組み合わせていくのが、現状では最も妥当な対策だと思います。
最近はダイオキシン汚染の問題から、住民の焼却処理に対する不信感が高まって、何が何でもマテリアルリサイクルでなければならないといった声が強くなっていますが、これは冷静さを欠いた感情的議論に基づく誤解のひとつだと思います。実際、マテリアルリサイクルを増やせば、ダイオキシン問題が解決するというものでもありません。
一般廃棄物の場合、リサイクル技術が未成熟であり、再生品はバージン商品に比べて高価格、低品質という課題を抱えている上、産業廃棄物と違って前述の「閉じた系」を構築することも困難です。そうした状況の中で、マテリアルリサイクルに向いていないものにまで無理やりこれを適用することは、逆に大きな弊害をもたらしかねません。マテリアルリサイクルが最も進んでいると言われるドイツでさえ、一般廃棄物のマテリアルリサイクル率は30%程度に過ぎず、『循環経済・廃棄物法』(94年)の中で条件付きでサーマルリサイクルを認めているのです。
むろん、マテリアルリサイクルできるものまで安易に燃やしてしまうことは許されませんし、原料として常に一定量の廃棄物を必要とするサーマルリサイクルは、廃棄物の発生抑制につながらないという一部の意見ももっともだとは思いますが、だからといってマテリアルリサイクルだけでいくのは、やはり時期尚早だと思います。 |
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●完全燃焼こそダイオキシン対策の要
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一般廃棄物の焼却とダイオキシンの問題について言えば、脱塩によってダイオキシン問題を解決できるというのも、ダイオキシンに関する正確な知識を欠いた誤解のひとつだと思います。一般廃棄物の中には、生ごみから紙製品まで塩素分を含む物質が非常に多く、完全な脱塩は困難であること、また、極くわずかの塩素分によっても相当濃度のダイオキシンが生成し得るという事実から考えても、脱塩によってダイオキシンを完全になくすことが、現実的に不可能であることは明らかです。
塩ビを除去すればダイオキシン問題が解決するかのような議論もありますが、ダイオキシンの発生に塩ビが何らかの形で関与しているとしても、塩ビを除くだけで問題が解決するという安易な認識は誤りと言わねばなりません。欧米の研究機関も「特定の廃棄物を取り除いてもダイオキシンの発生量が減るわけではなく、廃棄物を完全燃焼させることで初めて抑制できる」としています。
ダイオキシンを抑制するには、完全燃焼を実現する焼却システムを構築することが必要です。完全燃焼を推進するためには、サーマルリサイクルを全面的に導入することが有効となります。サーマルリサイクルの効率を向上させることが、燃焼効率の向上を促し、完全燃焼を促進するからです。欧米では、サーマルリサイクルと完全燃焼の好循環により、ダイオキシン発生が低いレベルに抑えられています。 |
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●もっとリスクコミュニケーションを
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サーマルリサイクルの普及にあたっては、住民に廃棄物処理システムの構造を説明し、サーマルリサイクルが避けて通れないことに理解を求める活動も不可欠なものだと思います。
廃棄物の焼却に対する住民の理解が混乱しているのは、なぜサーマルリサイクルを選んだのかという判断理由、裏を返せば、なぜマテリアルリサイクルに限界があるのかを、きちっと説明してこなかったからで、行政や企業にも責任があります。「リサイクルの優先順位はこうだが、現状ではマテリアルリサイクルには、こういう問題があるので焼却は避けられない」ということを、住民に分かりやすい形で説明する努力、つまり、情報公開とアカウンタビリティー(説明責任)に基づくコミュニケーションが不足しているのです。
マテリアルリサイクルの問題に限らず、これからの企業は環境リスクに対応した情報公開と適切なコミュニケーションなしで消費者の支持を集めることはできません。PRTR(化学物質排出量・移動量登録制度)が実施されれば、規制の対象になるような危険物質の排出を、自分たちが知らなかったでは済まない時代がくるのですから・・。
それと、対策をサーマルリサイクルで停めてしまわずに、より環境負荷の少ないリサイクルを行うには、どうしたらいいかを常に考えていくという姿勢も大切です。例えば、現時点では塩ビラップの処理にサーマルリサイクルが不可欠だとしても、もっと先に進むためにはどんな手法が可能で、現時点で何が問題なのかを、消費者や関係業界を巻き込みながら、業界が率先して明らかにしていくことです。
メーカーのイメージが重要視される時代に、「自社の製品は最後まで自分たちが責任を持つ」という姿勢は、消費者に対して強力に訴える力を持つはずです。私も日常生活の中で塩ビの恩恵を受けているわけですから、塩ビ業界も、より最適なリサイクルシステムを模索していく中で、「これからも、こういう形で塩ビを有効に使っていこう」という積極的な姿勢を示してほしいと思います。 |
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■プロフィール 石田 直美(いしだ なおみ)
1972年生まれ。1997年東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程終了。同年、株式会社日本総合研究所に入社。現在、事業企画部産業インキュベーションセンター研究員。廃棄物処理・リサイクルシステムの最適化および廃棄物発電に係る電熱供給事業などの研究活動を行う。過去の研究レポートに「ダイオキシン問題解決に向けたサーマルリサイクルの推進」(Japan Research Review 収録)など。 |