1999年3月 No.28
 

 JPEC講演会から

 『循環型社会をめぐる技術と社会経済システムについて』

  

    当協議会主催の講演会『循環型社会をめぐる技術と社会経済システムについて』が、昨年12月3日午後、千代田区平河町の麹町会館で開催され、京都大学大学院経済学研究科の植田和弘教授が、循環型社会を成り立たせる技術と経済システムについて持論を展開しました。  

 

環境対策は競争力の源泉

  講演の中で植田教授は、まず廃棄物問題 ・政策における内外の動向(最終処分場や焼却施設をめぐる地域紛争、ロンドン条約やバーゼル条約などの国際ルールづくりの動き)を整理した上で、「"都市鉱山"とも言われる廃棄物を、新しい資源エネルギーとして再活用する社会経済システムの構築が求められている」と指摘。そのためには、廃棄物政策における基本的な考え方の枠組みを、@大量廃棄社会から循環型社会へ、A市町村責任から、市民 ・企業を含めたパートナーシップへ、B事後的対策から予防原則へ、といった方向に転換していくこと(パラダイムシフト)が必要であるとの考えを示しました。
  また、こうしたパラダイムシフトの中で企業の環境対策を考えるには、@民間の自主規格であるISO14000シリーズが国際市場への参加資格になると同時に、資格を取得することが経営効率の改善につながっていること、A環境対策を通じて社会とのコミュニケーションを形成していない企業は、地域社会、さらには従業員との信頼関係も失って大きな経営リスクにつながりかねないこと、など近年の状況変化を考慮することが前提になるとして、「環境対策は利益を生まないと企業は言うが、こうした変化を前提とすると、環境への取り組みは利益を生まないどころか競争力の源泉になる可能性が出てくる。大量廃棄から循環型へ転換することで高炉原料化のような新しい技術が開発される余地は大きい」と、環境対応に対する企業の発想の転換を求めました。

 

適切なインセンティブで企業の対応支援

  続いて、企業の環境対策を促進する具体的な経済システムの問題に触れた植田教授は、その前提として、「ごみを増加させるメカニズムを理解して対策を立てる必要性」を強調。「これまでの経済学は消費を最終過程に位置づけて、実はもうひとつごみ処理という過程があることを埒外に置いてきた。生産、消費の段階で、ごみ処理やリサイクルを考えなかったことがごみ増加の根本原因であり、この部分をどう考えていくかが今後の最大の課題だ」と述べ、そのための具体的なシステムとして、「使い捨て容器に賦課金をかけるフィンランド方式、事業者の自己責任型のDSD方式(ドイツ)、途中に自治体が噛む日本の容器包装リサイクル法などがあるが、DSD方式は事業者自身に工夫・改良の意欲を起こさせるという点で効果が大きい。同時に、企業が最も環境負荷の少ない方法(ごみになりにくいなど)を選べるような、あるいはリサイクルが得になるような経済的インセンティブを適切に与えることも大事だ」と、炭素税など環境対策に取り組むことを支援する経済的メカニズムを作ることの重要性を訴えました。
  また、技術的な対策としては、衛生処理を基本としてきた日本の焼却施設を、サーマルリサイクルを念頭に置いたヨーロッパ型の大規模施設に転換(集約化)するとともに、「固形燃料化(RDF)をはじめとするいろいろな技術情報を皆の共通の資産として共有化した上で、地域ごと、企業ごとに適切な技術が選択される基盤を作っていくことが必要だ」との考えを示しました。