1996年9月 No.18
 

 無機塩素化合物からの塩化水素発生を「定量的」に確認

  −都市ごみ焼却に伴う塩化水素ガス発生実験結果から−

 

    都市ごみ焼却に伴う塩化水素の発生源は塩ビだけなのか。長年の疑問に決着をつける注目すべき研究結果が、このほど当協議会の調査委員会から発表されました。塩化ナトリウムなど一般の無機塩素化合物からも塩化水素が発生していることを高精度かつ定量的に解明したこの研究は、極めて貴重な試みと言えます。  

 

未解明だった定量的データ

  ごみを燃やすと塩化水素(HCl)が発生します。これまではその発生源として塩ビなどの塩素系樹脂の存在が重視されてきましたが、食塩(塩化ナトリウム=NaCl)など他の無機塩素化合物がどの程度塩化水素の発生に関わっているのか、その実態は十分に解明されないままになっていました。
  熱力学的な面から理論的な研究が行われたことはあるものの、ごみの成分が時々刻々と変化する実炉で燃焼前後の収支バランスを取ることの難しさ、さらには分析手法の問題などから、定量的な研究はこれまでにも例がなく、説得力のあるデータは少ないのが現状となっています。

 

実燃焼に近い正確な研究結果

  今回、調査委員会が取り組んだ研究は、実燃焼炉(流動床炉)に近い実験炉により、実際の都市ごみ成分にできるだけ近い疑似廃棄物を燃やして、無機塩からの塩化水素発生状況を定量的に把握しようとしたものです。
 実際の燃焼実験はNKKグループの鋼管計測(株)への委託という形で実施されましたが、燃焼条件や分析方法の確定、試料の成分など、実験は極めて精密な条件設定の下で行われており、「ある意味で異論を許さぬ正確さ」と、今回の研究結果に関してWG関係者は強い自信をのぞかせています。?
 

 

紙、厨芥、食塩の混合試料

  実験では、家庭から出る一般ごみの性状を代表するものとして紙と厨芥(ペットフードで代表)をベースとし、これに塩化ナトリウムを特定の濃度になるように添加して造粒した5種類のペレット(3〜5mm)が試料に用いられました(試料1〜5の配合内容は表1、それぞれの元素成分については表2参照)。

  また、実験は1種類の試料につき1回ずつ計6回(最後の1回は試料5の再実験)実施され、排ガス、ダスト、流動床炉の砂それぞれについて、発生した塩素化合物を塩化水素とアルカリ金属塩に区分して塩素の物質収支などを明らかにしています。

 

塩化水素発生量は食塩の添加量に比例

  実験結果のポイントは次の3点。
  (1)ごみの焼却に伴って発生する塩化水素の量は、ごみに添加した塩化ナトリウムの量にほぼ比例し、80%以上が塩化水素に転化した(図および表1参照)。
  (2)排ガス中の塩素の形態は、ほぼ95%以上が塩化水素であり、アルカリ金属塩は痕跡程度の微量に過ぎなかった。
  (3)塩素の移行割合は80%以上が排ガス中、次にダスト、流動床砂の順であッた。
  以上は、都市ごみに含まれる食塩のような塩素化合物も明らかに塩化水素の発生源となっていること、しかもそのほとんどが排ガスの中に含まれることを初めて定量的に確認したデータであり、世界的にも貴重な実験結果と評価できるものです。

 

硫黄も塩化水素の発生に寄与

  このほか、今回の実験では、塩化ナトリウムの添加量が多くなるに従って、排ガス中の亜硫酸ガス(S02)濃度が減少していることなども確認できました。このことは、亜硫酸ガスと塩化ナトリウムが一定の条件下で反応していることを推測させるもので、塩化水素の発生に都市ごみ中の硫黄(S)が寄与していることを証明するデータと考えられます(表3参照)。