確かに、以前は私たちの身の回りでもLPレコードのジャケット袋などいくつかの用途にビニル袋(塩ビ製袋)が使われていました。しかし、その用途は限られたもので、しかも年々減少し続けているというのが実態です。現在では文房具や人形といった雑貨品の一部に塩ビが使われているに過ぎず、一般に見かけるプラスチックの袋で塩ビ製のものはほとんどないと言ってもいいでしょう。代表的なものを挙げてみると、スーパーから持ち帰る買い物袋は直鎖ポリエチレン、最近話題の半透明ごみ袋は炭酸カルシウム混合のポリエチレン、<塩ビメモ>で取り上げた米の袋もポリエチレンが大半といった具合。今では、夜店の金魚を入れる袋までかつての塩ビからポリエチレンが主流になってしまいました。
にも拘わらず、「ビニール袋」という言葉が広く他の樹脂と混同して使われているのはなぜなのか −。もちろん、プラスチックの種類を見分けるのが難しいという事情もありますが、より大きな原因は、塩ビが汎用樹脂として戦後いち早く出回ったために、その後に登場したプラスチック製品、特に柔らかいフィルムはすべて「ビニール」と総称するようになってしまったことです。つまり、生活の中に広く普及した結果、塩ビがプラスチックの代名詞と化してしまったわけで、ある意味ではこれも誇るに足る塩ビの歴史と言えるのかもしれません。
しかし、使い捨てにされるような袋に限って言えば、既に述べたとおり非塩ビ製品が大半を占めるということは間違いのない事実。従って、ごみ問題の論議の中で時に見かける「散乱するビニール袋」といった表現も、正確には誤解である場合が少なくありません。そういうことを考えると、「ビニール」の代名詞化は私たち業界人にとってはやや“痛し痒し”の歴史だとも言えるのです。
● 「ビニール」と「ビニル」、正しいのはどっち?
既にお気づきのように、上の記事では「ビニール」と「ビニル」というふたつの言葉を意識的に使い分けています。いったいどちらが正しい言葉なのでしょうか?結論から言えば、この問題について厳密な定義があるわけではありません。ただ、一般には「ビニール」という言葉のほうが日常生活の慣用語として幅広く使われているようですが、昭和30年3月に刊行された文部省の学術用語集では「ビニル」のほうが統一用語として採用されています。文部省学術課の説明では「正確にいつの時点で、またどういう理由から統一したのかは審議記録が失われていて分からないが、教科書などの記述は基本的に『ビニル』を用いているはずだ」とのことで、業界としても最近は「ビニル」を採用するケースが一般的となっています。ちなみに他の国々を見ても[vinil]あるいは[v inil]がほとんどで[vini:l]という発音は見当たりません。
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