1994年6月 No.9
 

 ドイツ「デュアルシステム」の動向

      事業の危機克服へ、新たな打開策打ち出す

  包装材の回収とリサイクルを目的に、1991年からスタートしたドイツのデュアルシステム。その概要については、本誌第6号(平成5年9月号)でも詳しくお知らせしたところですが、最近になって運営母体であるデュアルシステム・ドイチュラント社(DSD)の経営危機が伝えられるなど、デュアルシステムをめぐる動きは改めて欧州各国の重大な関心の的となっているようです。

 

● 通産省が欧州調査班、デュアルシステムの現状などを視察

  そうした中、去る2月26日〜3月6日まで、ヨーロッパにおけるプラスチック廃棄物の規制と再生利用の現状調査を目的に、通産省の調査班(佐藤二三男合成樹脂製品係長に、日本プラスチック工業連盟の平林隆治事務局長と硬質塩化ビニール板協会の足立三郎専務が同行)がフランス、ベルギー、ドイツの3カ国を訪問。デュアルシステムの現状についても様々な情報を持ち帰りました。
  デュアルシステムの詳細については説明を省きますが(本誌第6号参照)、手短に言えば、1991年に発布された「包装廃棄物規制令」に基づき、メーカー自らが販売用包装材(ガラス、紙、プラスチックなど7種類)の回収とリサイクルを行うというのが取り組みの概要です。システムは90年9月に設立されたDSD社により運営されますが、95年までに最低50%、同年7月以降は80%の回収を義務づける厳しい規制内容が、同様に包装廃棄物処理のあり方を模索する欧州各国の熱い注目を集めることとなったわけです。


 

●  参加企業の「只乗り」で財政悪化、一時は倒産の危機も

  しかし、各国の注目を集めて華々しいスタートを切ったDSD社も、93年の夏以降、財政事情の悪化から再三にわたって倒産の危機に瀕するなど、かなりの紆余曲折に見舞われたようです。その最大の原因は、包装材の90%にまで「グリュネプンクト(緑の点)」(システムに参加する企業が自社製品に表示するライセンスマーク)が表示されるようになったにもかかわらず、その使用料を払わない企業が50〜60%にも達したことでした。このため、DSD社の委託を受て実際に回収・分別を担当する自治体や回収業者に対して、手数料を支払うことができなくなってしまったのです。また、消費者が専用の回収ボックスに誤って生ごみや非包装材(人形やラジオなど)を投棄するケースが意外に多かったことも、分別作業を妨げて事業を困難にした一因となったようです。

 

● ライセンス使用料の改定を実施、プラスチックは大幅引き上げ

  こうした危機を克服するため、DSD社では回収業者への手数料の支払い額を20%削減するなど様々な対策を打ち出す一方、昨年10月からは回収〜リサイクルまでに要するコスト計算に基づき、ライセンス料金の改定を実施しました。従来の一律方式から排出者の責任に応じた公平な料金体系を採用したもので、包装材を少なくするほど料金負担が軽くなる仕組となっているため、包装の減量化が促進されるものと期待されています。プラスチックの場合、以前の1kg当たり0.16ドイツマルクから3マルクへと大幅な引き上げになっていますが(ガラスは0.16マルク、アルミは1マルク)、これはプラスチックが回収・分別に最も手間のかかる素材と判断されたためです。
  以上のように、グリュネプンクトのライセンス使用料金の回収が順調に行われるかどうか、そして新しいライセンス料金がうまく機能するかどうかが、デュアルシステムの今後にとって最大の問題となっているわけです。

● 高まるケミカルリサイクルへの関心

  一方、プラスチック包装材の場合、回収量が増加するのに伴いリサイクル能力の限界という問題も深刻になっています。特に、選別しにくい混合プラスチック材については、これまでのマテリアルリサイクル中心の考え方から、ケミカルリサイクル(油化)が「唯一機能する処理方法」として重視されるようになってきており、BASF社のように1万5000トン規模のパイロットプロジェクトをスタートさせて油化の研究に着手する企業も現れ始めました。ケミカルリサイクルは、デュアルシステムの選択肢としてはまだ認められていませんが、ドイツ政府も既に検討を始めており、これに伴って、日本の焼却・油化技術に対する関係者の関心もこれまで以上に高まっているということです。

  足立専務談 「ドイツの取り組みは国民性を反映した理念先行型の厳格なものであり、緩やかな規制をめざすヨーロッパの他の国々の考え方と比べるとかなり異色と言える。コストの検討などは後回しになっているため、リサイクルされずに山積みになっている回収品も多くいろいろな批判が出ているようだ。しかし、相当量のものが回収されているのは事実であり、実際に自治体の財政負担の軽減に役立っているという報告もある。ともかくもドイツ独自の理念で徹底的に動いているという印象を受けた」。