1994年6月 No.9
 
 

 船橋市北部清掃工場のごみ処理事業
   最先端の無公害焼却、熱回収・残渣リサイクルでも意欲的取組み

    本シリーズでは、これまで2回にわたって産業廃棄物処理の現状をレポートしてきましたが、今回は自治体のごみ処理事業に目をむけてみます。塩ビを含むプラスチック廃棄物を「可燃ごみ」として安全焼却する一方、エネルギー回収や焼却残渣のリサイクルにも意欲的に取り組む船橋市の北部清掃工場(小川五男工場長)。その近況を取材してみました。  

最新の流動床式焼却施設に県外の自治体からも高い評価

  東京のベッドタウンとしてめざましい成長を続ける船橋市。人口の急増にともない、ごみ処理対策は同市にとって最大の行政課題となっています。船橋市では現在、南部と北部2カ所の清掃工場でごみ処理を行っていますが、市全体で処理するごみの量は年間21万トン。うち今回レポートする北部清掃工場だけでもその量は11万トンに達します。
  北部清掃工場が稼働を始めたのは昭和58年のことで、当初は熱分解処理方式のプラントによりガス化処理が行われていました。その後、「経済的、技術的により一層安定処理する」との目的から、直接焼却する旋回流動床式燃焼施設への改造計画に着手、約3年の歳月と61億円の資金を費やして、平成4年4月から日量435トンの処理能力を有する現在のプラント(145トン×3基)が動き始めました。
  同工場の長尾光義副主査は、「もともと埋立地が少ない上に、ごみの量は増える一方。これではたいへんだという危機意識が積極的なごみ処理行政につながった」と、市の姿勢を説明していますが、最新の大型流動床炉を持つ北部清掃工場の焼却施設には、県外の自治体からも高い評価が寄せられており、「毎日のように行政担当者が見学に訪れている」とのことです。

 

■ 徹底した排ガス対策でプラスチック廃棄物も無公害焼却

  北部清掃工場の焼却施設の第一の特長は、最新技術の粋を駆使した環境対策により、塩ビなどのプラスチック廃棄物も含めて高度の無公害焼却を実践している点にあります。
  船橋市では、以前はプラスチックを不燃ごみとして分別回収して埋め立てていましたが、現在は資源ごみ(びん、缶、新聞・雑誌)以外はすべて可燃ごみとしてまとめて回収、焼却しています。このため、住宅地区にある北部清掃工場には日々さまざまなプラスチック製品のごみが集まりますが、その量は全体の約15〜20%ほどで、さらにその10分の1程度が塩ビ製品と見られています。
  こうした廃プラスチックなどを安全に焼却できるのは、同工場のプラントが徹底した排ガス設備を完備しているためで、消石灰を利用した「高度排ガス処理方式」(半乾式有害ガス反応塔とバグフィルターを組み合わせた排ガス処理方式)により、塩化水素や硫黄酸化物、煤煙などが極めて効率的に除去されています。
 また、プラントは完全なクローズドシステムとなっており、臭気・汚水対策にも細心の注意が払われています。実際に工場内を歩いてみても、異臭は意外なほど感じられず、工場全体が清潔なイメージを漂わせていることに驚かされます。このほか、コンピュータによる焼却炉の自動運転や中央操作室を中枢とする集中監視方式などで運転管理の安定化、効率化が図られていることも、安全焼却を可能にしている見逃せない要素と言えるでしょう。

■ 廃熱利用で工場に電力供給、日本初のリサイクルプラントも稼働

 
  北部清掃工場のもうひとつの特長は、廃熱利用と焼却残渣のリサイクルが積極的に進められていることです。
  焼却時に発生する熱は炉の上部に設置された廃熱ボイラーに回収され、タービン発電機の動力として利用されますが、その発電量はおよそ1500kW/h。これで工場内の電力消費の3分の2を賄っているほか、暖房用として隣接する福祉施設への給湯も行っています。同工場では「熱エネルギーの利用は、ごみ処理事業の中でますます大きなテーマになってくるだろう」と予測していますが、発電機の出力はなお3000kW/hまで可能とのことで、今後は温水プールなどの新たな利用法も検討されているようです。
  また、残渣の中の燃え残ったガラスや陶器片などは分別してリサイクルに回され、コンクリート用の砂利や透水性ブロックなどに活用されています。今年の4月からは、残渣の再利用を目的とする施設としては日本初のリサイクルプラントも敷地内で稼働を始めており、「リサイクル率80%」を目標に現在本格的に取り組みが進められています。

   

■ ごみ減量キャンペーンの展開などで市民の理解も向上

 
  ところで、こうした北部清掃工場のごみ処理事業を地域住民はどう評価しているのでしょうか。長尾副主査の説明では「この工場では排ガス対策により塩化水素は20ppm以下、ダイオキシンも厚生省の定めた基準値をクリアしている。工場の裏側に隣町の公団住宅があるが、特に苦情はなく理解を得ていると思う」とのことですが、一方で、「ダイオキシンが全国的な問題となった時は、工場の数値を検査して市民に公表したこともある」といった率直な広報活動も、市民の理解を高める要因となっているようです。
  「バブル崩壊後、船橋市のごみの量はむしろ減少する傾向にあるが、これは経済の影響ばかりでなく、ごみ減量キャンペーン“ダイエット船橋”の展開により市民のリサイクル意識が向上したことも無視できない」と、小川工場長は言います。北部清掃工場の取り組みは、当協議会の活動にもさまざまな示唆を与えてくれそうです。