●日本企業のリサイクルの現状
|
|
環境問題がますます深刻化する中、産業界のリサイクル対策は焦眉の急です。すでに一部の業界、企業では取り組みを始めていますが、現段階では企業メリットを生む形になっていません。そのため多くのリサイクルの試みが中途で挫折しているケースがあります。これまで企業は、大量に生産し、消費することを前提に「モノづくりの生産性」向上に取り組んできました。設計段階でも、組立などのプロセスを重視し、合理化し、高い生産性を上げてきました。その結果、日本の製造業は世界の頂点を極めました。
ところが、大量生産、大量消費のツケは環境破壊、資源の枯渇といった事態を招き、いま企業は新しい道である「環境保全を重視した事業」の在り方を模索しています。
しかし、このような行動をとろうとしても、リサイクルに配慮した製造システムが確立していない、回収の仕組みも十分ではない、製品の解体も容易にはできないという情態です。製品の一部を再利用しようと思っても、理屈に合わないコスト増となってしまいい、経営に重くのしかかってしまいます。
自動車のバンパーについて考えてみましょう。修理する時、まずバンパーをはずし、次に新しい部品を取り替えます。しかし、この作業はメーカーや車種によって、作業工程に大きな開きが生じており、修理工場では工数に大きな差が出てきます。これはメーカーが「組み立てる」ことや「デザイン」を重視している一方、設計段階で「外す」ことを十分に考えていないことを示しています。つまり「解体」という点を除外したモノづくりに励んでいることになります。環境先進国のドイツでは最初からリサイクルを前提にした設計をしているため、解体の工数が少ないことをご存知の方も多いと思います。
しかし、日本企業の製品リサイクルのレベルは、自動車に限らずすべての製品においてやっと重い腰を上げた段階です。かつて、公害問題が発生した時と同じような認識下にあり、経済性に合わないため実際はネガティブに取り組んでいるとは言えないでしょうか。アメリカでマスキー法が制定されたとき、日本の自動車各社は、環境問題こそこれからの必須テーマだということで取り組み、結局は自動車産業全体を伸ばしてきました。
そのように考えると、リサイクルに対する日本企業の現段階は、リサイクル社会へ展開する可能性を最も内包しているともいえるわけです。 |
|
●経済性を視点に新たに構築されたリサイクルシステム
|
|
まず、市場に出回っている製品を「回収」するためには、集める・仕分ける・運搬するといった作業の効率性に問題があります。また、集められた製品を「解体・保管」するために、前処理や分離・分解は容易か、取り出した部材の後処理は楽か、といった問題もあります。さらに、分離・分解されたモノに再度「技術投入」がなされ、新しい製品となるために、使用先と量はどれくらいか、リサイクルされた製品は汎用性、転用性、時代性にかなったものか、保管スペースと管理の問題はどうか、といった問題をクリアしなければなりません。もちろん、これには設備、人手、リサイクル製品の技術開発、マーケティングなど、さまざまなコストが生じてくるわけです。
例えば、デポジット制を採用したり、拠点を設けて集める方法などがあります。神戸製鋼所は、会社の働きかけによって、従業員が業務の空いた時間、空きトラックを利用して、社宅や工場周辺の地域を巡回して、鉄やアルミの回収をしてもらっています。一見、ムダなように見えるシステムですが、会社にとっては空いた経営資源の有効利用であり、従業員にはリサイクル対策に関わっているという参加意識を持つことができる新しい試みではないでしょうか。このように、回収という点に知恵を絞ってコストを下げる方法もあります。
また、ゴミを出さないことを前提に工夫した、リサイクル過程と製品販売がうまく結びついた例としてレンズ付きフイルムがあります。これは、使用済みのものをそのまま販売店に返し、販売店からメーカーに回収されて再生利用するというリサイクルシステムが設計段階から組み込まれており、設計段階から再利用を考慮に入れた発想の転換が行われた成功例でしょう。
他分野でもリサイクルに成功しつつある製品は数多くあります。これらの例から、リサイクルを考慮した製品開発を学ぶ点はたくさんあります。これらの技術が他分野で生かされることで、トータルシステムとして、あるいは部分的であっても、コストの低減を可能にし、企業としてメリットを生み、経済効果があるからやろうという方向へ動き始めていくのです。
一方、このようなリサイクル技術が存在しても、知られていなかったり、すぐに使える形に整理されていないので、企業が採用するにはまだ距離があるというのが現状です。 |
|
●リサイクルをしやすくする技術と方法(「解体容易化方法」の考え方)
|
|
リサイクル対策を阻むものに、「使用/回収」「解体」「再技術の投入/保管」の3つの壁があります。解体容易化技法とは、この3つの壁を取り払うべくさまざまな手法を用いることで、設計段階から解体に考慮せよ、ということなのです。
解体容易化技法というのは、1つの手法ではなく、さまざまな段階(工程)でさまざまな手法を使って解体を容易にしていくための「概念」を、一つにまとめあげたものです。
リサイクル技術の情報に関して技術者が上手に使いこなせ、その評価と改善の方策を見いだすことが、問題解決への第一歩です。
その意味で、解体用意化技法は、リサイクルを進めていく上での技術情報を、業界を超えて研究者や技術者に提供していこうというものです。国内外、多分野でリサイクル対策に役立ちそうな情報を約800件程を集め、これを技術マップという方法で分析し、技術内容とそのプロセスを検討し、技術インデックスとしてまとめました。そのうち、特にリサイクル対策にかかわる要素技術を120余に集約しました。
また、部材などの利用については、IE、QC、VEという科学的分析方法を用いて、その経路や難易度、使用機材、人手(工数)などとプロセスを定量分析し、そのデータに基づき、先の要素技術に評価点をつけ、リサイクル対策要素技術をランクづけし、簡単な表にして作業量を評価できるようにしたのです。この表の100点満点から、それぞれの技術要素を減点し、残った点数が85点以上の技術であれば、解体時に自動化も可能という評価が与えられます。
「解体容易化技法」は、具体的なリサイクル技術を整理し、技術情報の抽出が容易に行えるので、設計段階でコストのかからない利益体質を生み出すリサイクルシステムが構築できるのです。
先日、この手法で自動車の部品数か所について同じ部品の分解から再取付までを分析してみました。その結果メーカーによって、1.5倍から2倍、分解効率に開きがありました。電気製品についても、同様の結果でした。
加えて、評点が高かったメーカーの製品を分析比較するだけでなく、分解効率がさらに高めていくための改善点もこの手法によって指摘できました。この例からわかるように、まだまだ開発、製造においては改善を行う余地があります。
これからの社会、産業界の在り方を考えますと、いくつかのリサイクル技術が一企業では活用しきれず埋没してしまうことは、社会的な大損失です。さまざまな技術を積極的に活用する仕組みづくりへ、企業は早急に取り組まなければならない時がきたのです。
貴協会が、本レポートでリサイクル技術の紹介や普及活動を行っていることは、産業界へ新しい風を呼び起こすでしょう。ますますのご活躍を期待しております。 |
|
■略歴 中村 茂弘(なかむら・しげひろ)
1970年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。日立金属に入社し、日立グループのIE研修講師や、海外進出企業の建設から事業展開の指導。91年から(社)日本能率協会でTPマネジメントのコンサルタントとして現在活躍中。『解体容易化技法』(日本ビジネスレポート社刊)など著書、論文多数。 |