2024年04月 No.121 

特集 PVCアワード レポート3

長年の業界課題を解決!シート同士が密着しない「サラリアシリーズ」/アキレス株式会社

 文具・事務用品の分野で、半世紀以上にわたって製品開発を続けてきた、アキレス㈱。近年、個人で手帳などをデコレーションする楽しみ方が広がっているのを受け、製品本体のデザインを邪魔せずに、綺麗に長く使えるようなカバー製品の開発に取り掛かったのが「サラリアシリーズ」開発のきっかけです。
 今回は、「PVC Award 2023」に入賞した「サラリアシリーズ」の開発までの道のりと、製品化を支えた技術について、化成品事業部 フイルム販売部 部長 鈴木浩介氏と、課長補佐 山川元氏にお話を伺いました。

写真:サラリアシリーズ

アキレス株式会社

 1948年から塩ビ製品の製造・販売を開始、プラスチック加工をコアとし、シューズ製品やプラスチック製品、産業資材製品などを展開。住宅資材や生活用品、自動車内装材、半導体周辺部材、さらに防災関連、インフラ土木技術まで幅広い分野に素材、製品、技術を提供。
 汎用性塩ビフィルムにおいては、多数の製品ラインナップを持ち、透明性、意匠性、機能性と豊富な規格で多彩な用途に対応している。

粉ふり不要の塩ビシート「サラリアシリーズ」が誕生するまで

 今回「PVC Award 2023」に入賞した「サラリアシリーズ」は、透明軟質塩ビフィルム。重ねてもフィルム同士が密着せずに解れやすいのが最大の特徴です。
 塩ビは、傷がつきにくく、透明性があり柔らかいので、これまでも広くカバー製品の素材として使用されてきました。一方で、従来の塩ビシートは重ねるとシート同士が密着してしまうので、加工時に扱いづらい場面も多かったといいます。
 「これまでの透明の塩ビシート製品では、粉を振ってシート同士を密着させないための対策が必須。そのため、粉が表面にめり込んで塩ビ本来の透明性が失われることや、粉が製品中に残って製品価値を低下させるなどの問題がありました」(山川氏)
 透明塩ビシートが生まれて以来、長年にわたって関係者を悩ませてきた、シート同士が密着してしまうという問題。アキレス㈱は、あえてこの課題に忍耐強く取組み、解決にこぎつけ、画期的な製品「サラリアシリーズ」を開発しました。
 開発のブレイクスルーは、シート表面に凹凸を形成する発想と配合・加工技術。その発想に加えて、実現を可能にした高い技術力、安定した生産力が「PVC Award 2023」の審査で高く評価されました。

〈「サラリアシリーズ」の特長〉

  1. ① 作業効率の向上:サラリア表面の微細な凹凸により、裁断適性や裁断後の解れ性が良好なので、加工時に粉をふる必要がありません。
  2. ② 良品率の向上:粉ムラ、粉のめり込み跡がありません。
  3. ③ 商品の付加価値の向上:商品に粉残りがなく、スリップ性が良好なので、本体の出し入れが快適です。
    ※ケース・カバー等に加工した場合の使用感です。
写真
写真

 「従来の塩ビシートでは、ブックカバーなど製品同士がくっついてしまい、使用感が損なわれて商品価値を下げてしまうこともありました。
 しかし、『サラリアシリーズ』は、シートそのものに密着防止性能がありますので、製品寿命が来るまで、製品同士がくっつくことはありません。加工プロセスにおけるストレスを軽減し、エンドユーザーにとっても、使いやすい製品です」(山川氏)

加工業時の扱いやすさのバランスも実現

 「『サラリアシリーズ』の開発では、特殊な配合によって表面に微細な凹凸を施すことで、従来の粉の役割を再現し、シート同士がくっつかないようにしました。面ではなく点で接触することで、空気の層を形成し、滑りやすさを実現しています」(鈴木氏)
 そのため、「サラリアシリーズ」に施された表面の凹凸は、数と大きさのバランスが重要だといいます。凹凸の数が多すぎると光が乱反射し、塩ビ本来の透明性が出にくくなり曇りガラス状態に。逆に、凹凸の数が少なすぎると、透明性は維持できる一方で、シート同士が密着してしまいます。
 試行錯誤の末、裁断時にはブロック状に重ねられる一方で、製品化する際にはパラパラとばらけるよう、微細な凹凸の形状と密度をコントロール。視認性や裁断性、ウェルダー加工性など、複数の観点で最適な性能を実現し、定番品として販売開始されました。
 「原料メーカーや加工業者など、さまざまな企業の協力のもと、当社のコア技術である配合や設計についての長年のノウハウを活かした新製品になったと感じています。長年の現場課題を解決できたという点でも、業界に貢献できたのではないかと思います」(鈴木氏)

写真
高い視認性を保ったまま、付着しにくさを実現

手帳カバー以外でも、色々な場面での活躍を期待

 現在、「サラリアシリーズ」はチャック付きケースやブックカバー、手帳カバーなどの多くの製品に採用。さらに今後は、加工作業中でも付着しにくいという製品特性を活かして、別の用途での販路開拓も進めていきます。

写真
写真
印刷物のインク移りも低減しているので、手帳と共に長く使用できる

 「大型のカバー用途や複雑な加工を必要とする製品で『サラリアシリーズ』を採用すれば、格段に作業効率が向上。密着防止のために複数の素材を組み合わせる必要がなくなるため、デザインの幅も広がると思います。視認性を保ちながら、ツール同士が付着せずに便利に作業できるという点で、使用現場でも重宝されるのではないでしょうか。そのほかにも精密機械や電子機器向けカバーなど、産業向けにも用途を拡大していき、『サラリアシリーズ』の便利さを活用していただきたいです」(山川氏)

写真:お話しいただいた山川氏、鈴木氏
お話しいただいた山川氏、鈴木氏