1994年12月 No.11
 
リサイクルのための経済システム論

  行政・事業者・消費者が平等に処理コストを負担する社会づくりへ
 

 早稲田大学政治経済学部教授 寄本 勝美

●避けられない「負担の公平化」

 
  去る10月に、厚生省の生活環境審議会から包装廃棄物のリサイクルに関する第三者機関設置構想が提言されましした。私も審議会の委員として提言づくりに参加したひとりですが、これは食品や清涼飲料などの製造業者が共同出資により第三者機関を設置し、そこを受け皿にして、自治体が分別回収した資源ごみ(空き缶や空き瓶、紙類などの包装廃棄物)のリサイクルを進めていこうというもので、現在公共サービスのみに頼っている廃棄物処理コストの一部を事業者に負担してもらうことを狙いとしています。
  コストの問題はリサイクルを進める上で非常に難しい問題です。コストがかかり過ぎてリサイクルが難しいという話を産業界などからしばしば耳にします。しかし、リサイクルしないで廃棄物として処理するのにもコストはかかっているわけで、だから何とかしようとしなければ何事も前に進まない。結局は、リサイクルに消極的な製品は製造自体を制限するしかないとうことになってしまいます。そうならないためには、これからは事業者にも、そして消費者にも処理コストを負担してもらわなければなりません。これまで公共サービスだけに頼ってきた家庭系の廃棄物処理については、行政、事業者、消費者それぞれが応分の処理コストを負担する、すなわち「負担の公平化」がどうしても不可欠なのです。それには、製品価格の中に処理コストを内部化して、最終的には消費者もその一部を負担するというシステムをつくるが必要があります。
  また、包装容器の中には既に公共処理とは別に独自のシステムでリサイクルが進められている製品もあります。この場合、ビールびんのような経済的メリットが得られるものについては問題はないでしょうが、同じリターナブルびんでもコスト高になっているものは、ワンウエイびんやペットボトルのように公共処理に依存しているものとの間でアンフェアな関係が生じてしまいます。こうした点を是正して、包装容器の間に負担の公平化を実現することも今回の提言において重要な政策課題になっています。
 

●システムはできるだけ単純に

 
  どの製品にどれだけの負担を課すのかといった具体的なことは、自治体ごとの状況もあり、今後の議論に任せるべき問題です。ただ、あの提言は決して「ゴミを引き取ってくれ」と言っているわけではない。あくまで再利用する資源を引き取るということですから、当然、資源ごみには何が含まれるのか、マテリアルだけでなく焼却(エネルギー回収)も含めて再利用できるものは何なのかということが焦点になってくるでしょう。また、先に言ったように、完全に民間でリサイクルしていてしかも経済的に成り立っているものはあのシステムには直接関係がない。提言にあるリサイクルシステムの対象となっているのは、現在のところ、プラスチックやびん、缶、紙などでこれらの包装容器については一応すべて含めるという考えです。包装容器だけで一般廃棄物の60%をカバーできる計算になります。
  ただ、私見として言わせもらえば、あまり複雑な包装廃棄物処理システムにするのは私は賛成ではありません。当面はできるだけ単純化したシステムのほうがいいと思うし、業界間にあまり大きな摩擦をもたらすような方法はどうかなと思います。簡単で単純化した方法を採用して、しかも現状の改善につながるシステムにすること。例えば、あまり細かに品目別に負担金を変えるということになると、そこでまた様々な議論が起こってきます。びんとプラスチックを比べてどういう理由で負担額が違うのかといった問題は、人によっていろいろな議論があるでしょうし、社会的メリットとコストの関係を明確に規定することは容易ではありません。重量から見ればかえってプラスチックのほうがメリットが大きいという人もあるし、全体の合意を得るには時間がかかりすぎます。
 

●処理コスト踏まえた価格設定を

 
  繰り返しますが、回収と再利用のコストの一部を製品価格の中に内部化することが、まず第一歩なのです。単品当たり何銭か何十銭かが価格の中に入っているという仕組みを考えることが肝心なので、その程度の額であれば消費者の納得も得られるはずだと思います。もっとも、これから消費税や公共料金の値上げが予定されている中では、その上のリサイクルコストということになると市民の負担感に影響を与えることも考えられます。しかし、ある意味ではこれまでの製品の値段は安すぎたと言うこともできるのです。安いというのは有り難いことであって、私も消費者の一人ですからそのことを単純に批判するつもりはありません。しかし、これからは、市場原理ばかりでなく、環境問題やリサイクルの費用負担を踏まえた製品価格を設定せざるを得なくなってくることだけは動かしようのない流れだと思います。
  これは世界的な傾向であって、日本国内だけで何か異質な論理を組み立てても、もはや国際貿易がそれを許しません。例えば今ではDSDを無視してドイツに輸出することはできない。だから、日本もヨーロッパがそうなってしまったからやるという受け身の考えではなくて、率先してリサイクルの経済的なシステムを作り出していくことが必要なのです。そういう意味での先進国になっていかなければならないと思います。少なくとも、環境問題を無視して企業や消費者だけが栄えていくなどということは最早あり得ないでしょう。
 

●プラスチック業界に期待すること

 
  最後に、プラスチックのリサイクルという問題についてちょっと触れておきましょう。今年の4月にプラスチックリサイクルに関する検討委員会が「廃プラスチックリサイクルの促進について」という報告書をまとめましたが、私としてはここに示された対策を実施してもらうことがプラスチック業界に何よりも期待したいところです。この報告書ではプラスチックの再利用をマテリアル、ケミカルそしてサーマルの3種類に分けて提言しており、これまでどちらかといえば焼却中心だった再利用の方法を多様化した点がまず注目されます。やはり、マテリアルリサイクルなりケミカルリサイクルなり、可能なものはできるだやってみて全体としてバランスを取りながらリサイクルを進めていくという姿勢が大切だと思います。
  もっとも、私自身は焼却によってある程度のものをカバーすることは決して反対ではありません。焼却もひとつのリサイクルの手段なのですから、分別できる部分は徹底的に分別した後最終的にどうしても漏れてしまうものは焼却せざるを得ないだろうと思います。ただ、廃棄物全体のうち大体何%なら焼却が許される範囲なのか、炉の性能にもよるでしょうが、例えば10%程度なら問題はないとか、それ以上では環境の問題が出てくるとか、そういう一種のコンセンサスを探って、その中に押さえ込む努力はしてもらわなければなりません。
  プラスチックはともするとマイナス面が強調されがちですが、プラスチックにはプラスチックのいい面があるわけで、包装材や他の資源の節約という点で社会全体に大きく貢献している事実は否定できません。但し、一方で適正処理、リサイクルという面から何らかの規制、制限を受けることはやむを得ないと思います。どんどん作ればいいということではなく、やはり、処理の能力あるいは環境全体の容量といった枠の中で作っていくことが必要だと思います。
 

●災い転じて福となす

 
  塩ビ業界も、農業用フィルムのリサイクルなどはかなり進んでいると聞いていますが、それ以外にもリサイクルのための技術開発に全面的に取り組んでもらいたいと思います。私は化学技術の専門家ではありませんが、桶川でやっているような油化の実験には大いに注目しています。塩ビ業界も、すべてのプラスチックを一緒に油化できるような技術開発をどんどんやってほしい。そのほうが、リサイクルできるとかできないといった議論に時間を費やすよりは、遥かに生産的だと思います。社会的に全く無意味な製品なら別ですが、塩ビもいいところがあるから使われているわけですし、そのことを否定する気持ちは私にはありません。私が言いたいことはそういうことではなくて、専ら売るだけに止まってきたことの問題なのです。
  それと、重要なのはやはり処理コストの問題です。コストがかかるから止めてしまうというのではなくて、適正処理のためのコストダウンをどうやって図っていくかということを考えてもらいたい。回収システムができてある程度の量がまとまれば処理コストも少しは押さえられるでしょうが、そのためにはどうしたらいいのか。例えば素材を識別できるようなマークを表示することも有効な手段でしょう。中には環境に悪い製品には特別なマークを表示しろといった意見もあるようですが、そういうネガティブな議論だから反対する業界も出てくるわけで、表示することによって分別を容易にしリサイクルを向上させるといった積極的な意味であれば実施する価値がある方法だと思います。
 
  「災い転じて福となす」という言葉どおり、廃棄物問題も危機的な状況にあるからこそ優れた対策が生まれてくる可能性があるのです。塩ビ業界もそういう気持ちで頑張ってください。
 

 

■略歴 寄本勝美(よりもと かつみ)
1940年和歌山生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、78年から現職。専攻は地方自治・環境政策。著書に「ごみとリサイクル」「自治の形成と市民」「自治の現場と参加」など。