2016年12月 No.99
 

日本における樹脂窓のリーディングカンパニー YKK AP株式会社 代表取締役 社長  堀 秀充 氏

好調続くAPWブランド。断熱から健康効果まで、理解されてきた樹脂窓のよさ

 高断熱の樹脂窓は、ゼロ・エネルギー建築を実現する決め手のひとつ。その樹脂窓の日本におけるリーディングカンパニーがYKK APです。同社を率いる堀秀充社長に、樹脂窓開発に賭けた思いと事業の現状、これからの課題などを伺いました。

●前年度比70%増(2015年度実績)

■YKK AP(株)と樹脂窓の足取り

YKK AP(株)

 YKKグループでファスナー事業と並ぶAP事業(AP=Architectural Products)を担う、グループの中核企業。
 1957年7月、東京・日本橋に吉田工業(現・YKK)の子会社・「吉田商事」として発足。当初は吉田工業が製造するスライドファスナーの輸出などを業務としていたが、1960年代からビル用、住宅用アルミサッシの製造・販売に進出。急成長を遂げた。樹脂窓については、1983年に北海道など寒冷地向けの「プラマード」を発売しているが、2009年、新世代の窓ブランドとして、樹脂+Low-E複層ガラスの「APW330」を発売。以後、世界最高レベルの断熱性能を実現した「APW430」、アルミと樹脂の複合窓「APW310」、国土交通大臣認定の「APW33 防火窓」などを次々にラインナップ。2016年にはAPWシリーズとして第25回「地球環境大賞」の経済産業大臣賞を受賞した。

 お陰様で、日本でも樹脂窓がだいぶ使われるようになってきました。昔は「何で樹脂なんか」という人もいたんですけど、最近は皆さん抵抗感がなくなってきたというか、樹脂のよさが理解されてきたのだと感じています。もちろん、どうしても樹脂は嫌という人もまだありますが、やっぱり断熱性能が圧倒的に高いし、結露を抑えますからね。
 2015年度の出荷数量は前年度比70%増を記録しました。当面の目標としては、2020年までに樹脂窓の出荷量を窓全体の4割にして、樹脂4、樹脂とアルミの複合4、アルミ2という比率にしたいと思っています。それと同時に製造拠点のほうも、運搬コストを圧縮するために出来るだけ消費地に近い場所に置こうということで、北海道、埼玉、宮城のほかに一昨年は関西(兵庫県神戸市)でも窓工場を操業させました。いずれは九州にも展開していきたいと考えています。

●それはアメリカで始まった

 本当を言いますと、樹脂窓というのは日本が手を出してはいけない分野なんです。というのは、海外のほうが絶対的に強いんですから。ドイツもフランスもアメリカも韓国も、メインはみんな樹脂窓です。トルコだって普及率7割程度いってますし、中国も樹脂窓のメーカーが山ほど出来ていて、ものすごい勢いで作っています。アルミメインというのは日本ぐらいなんです。

各国のサッシ普及率

 そんな中で、何でまた弊社が樹脂窓に力を入れるようになったのかと言えば、その始まりはアメリカでした。私は89年から2006年までアメリカで勤務していて、2000年にファスナーと建材の両部門を統括する現地法人のトップになったんです。ちょうど、アメリカのアパレル産業がどんどん縮小して、ファスナーの売上が急速に落ちてきた時期で、大変な思いをしながら構造改革に取り組んでいたのですが、幸い建材部門のほうでビル用のアルミサッシがそこそこ伸びてきたんですね。それで、もうひとつ新しい事業をやろうということになった時、アメリカの住宅では樹脂窓の需要が大きいということで、それまで全然手を着けていなかった戸建住宅の窓に挑戦することになったわけです。

●APWブランドの全国展開へ

 そういうことで、2002年の終わりから2003年にかけて、アメリカで樹脂窓の事業を立ち上げて日本に帰ってきたんですけど、そしたら今度は、当時の吉田忠裕社長(現 YKK(株)/YKK AP(株) 代表取締役会長CEO)から、これからの窓事業は樹脂も必要になってくるんじゃないか、という話が出てきましてね。
 私は、ひょっとしたら外国の製品が日本に入ってくる可能性もあると思っていたんですが、調べてみると、外国のメーカーは日本の複雑すぎる市場を嫌って殆ど日本に興味を持っていない。それならやってもいいなとういう手応えを得たので、一気に事業をスタートすることになりました。弊社では既に1983年から北海道と北東北で樹脂の窓はやっていたわけですが、今度はAPWという新たなブランドで全国展開してくことになったわけです。それにファスナー自体メタルと樹脂で出来ているので、もともと弊社には樹脂に対して抵抗感がないというか、樹脂は得意中の得意なんです。

■エコで健康な「樹脂窓のある暮らし」。各地でさまざまな普及活動

 YKK APでは、樹脂窓の普及に向けて様々な啓発活動に取り組んでいます。そのひとつが、今年6月に東京港区の品川インタシティホールにオープンした提案型施設「YKK AP 体感ショールーム」。断熱性・防露性・遮音性など、樹脂窓の価値を実験装置と実物展示でダイレクトに体感・体験できる施設で、中でも、断熱効果については、巨大な冷凍庫の中に、20年以上前の一般的な断熱仕様の部屋(窓は単板ガラスのアルミサッシ)から、最新の高断熱仕様の部屋(窓は高性能トリプルガラス樹脂窓「APW430Kr」)まで5つの断熱仕様の部屋で、その違いを比較体感することができます。
 一方、全国各地域の主要都市に設けられているショールームでも、窓を身近に感じてもらうための親子ワークショップ「窓から考えるエコハウスづくり」の開催など、地元に密着した活動を展開。親子ワークショップでは、サーモカメラを使った窓の断熱実験やエコハウスのミニチュア作りなどが行われ、親子で楽しみながら窓の大切さを学べるイベントとして人気を集めました。
 このほか、ビルダー・設計事務所を対象とした「APWフォーラム」の全国開催など、樹脂窓のリーディングカンパニーならではの取り組みが繰り広げられています。

断熱効果を体験できる 「YKK AP体感ショールーム」   楽しみながらエコを学習
(親子ワークショップ)
断熱効果を体験できる
「YKK AP体感ショールーム」
  楽しみながらエコを学習
(親子ワークショップ)

●窓を使い分ける時代

 樹脂窓というのは高断熱で結露の抑制効果が大きい。ZEHのような快適な省エネ住宅を実現するには、やっぱり樹脂窓がいちばん安心です。健康的にもヒートショックを防ぐし、室内の湿度が維持されるので肌が潤います。品川の体感ショールームは、そういうことを全部実際に体験してもらうために作ったんです(コラム参照)。
 ただ、私はこれからはひとつの家で樹脂窓と複合窓(樹脂アルミ)、複層ガラスとトリプルガラス、また開閉形式など、適材適所に使い分ける時代になると思っているんですよ。全部トリプル、全部樹脂というのではなくて、ここだけはトリプルで、ここだけは樹脂窓でといった具合に、材質もガラスもいろいろな使い方をする時代になってくる。特にトイレとか脱衣場は、お年寄りにとっては高速道路を歩いて渡っていると言えるほど危険な場所ですから、こういう場所の断熱性能をまずきちっと上げるべきなのです。それで今「家全体の中の窓」ということをトータルに捉えて、使い分けをしながら快適な住まいを作っていきましょうという提案をしています。

●課題はリサイクル、そして価格

APWシリーズの先陣を切った「APW 330」
APWシリーズの先陣を切った「APW 330」。
樹脂+Low-E複層ガラスで、国内最高レベルの断熱性を実現した。
(写真提供:YKK AP)

 すごい勢いで伸びている樹脂窓ですが、今後に向けて課題もあります。そのひとつがリサイクル。今は誰も気にしていませんが、10年20年先を見通せばリサイクルは絶対に欠かせません。もちろん工場内の端材は今も回して使っていますが、問題は市中回収したものをどうするか。樹脂窓のメーカーが1社や2社でやっても量的にはタカが知れているし、コストも高くなってしまいます。最初はうち1社でもやろうかと考えたんですが、それは現実的ではありません。やはり窓業界全体でまとまると同時に、塩ビ業界と連携していくことが必要だと思います。塩ビ工業・環境協会のような団体が運営する大きなリサイクルシステムがあれれば、ぜひ参加させてもらいたいと考えています。
 とにかく、ものづくりに携わる会社として、リサイクルはCSRのど真ん中の課題です。産廃として廃棄するなんてことは、この先社会が許してくれないでしょう。
 もうひとつの課題は価格ですね。日本の樹脂窓は性能はいいが価格がまだ高い。日本はアルミサッシの設計、設備をそのまま使って樹脂用に置き換えたという経緯があるので、構造が複雑なのです。これがコスト高の要因になっている。
 欧米の窓枠は木から直接樹脂に変わったんです。アルミなど金属製品は窓辺には使えないっていう感覚で、また写真を置いたり人形を飾ったりして窓辺を楽しむ。窓辺の文化が違うんです。日本はアルミサッシという独特の窓文化が途中に入ったことで、ちょっと変わった展開になりましたが、これからは樹脂のよさを生かして、簡単に安く作れるようにしなければなりません。そういうことを含めて、ベストの樹脂窓をどう提供していくか。これが次の課題ですね。

【取材日2016.10.17】

略 歴

ほり・ひでみつ

プロフィール写真

 1957年、福岡県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。1981年、YKK(旧吉田工業(株))入社。1989年から17年間にわたって米国勤務を続け、2000年、YKKコーポレーション・オブ・アメリカ上級副社長(経営企画担当)として、米国での樹脂窓事業を立ち上げる。2006年、YKK AP経営企画室長、2007年、執行役員 経営企画室長、2009年、取締役上席常務事業本部長などを経て、2011年6月、54歳で代表取締役社長に就任。創業家出身者以外では初の社長就任で、「メーカーに徹する」を基本方針に、徹底してモノづくりにこだわる経営を続けている。