山本ビニター(株)に見る、高周波加熱技術の驚きの進化
樹脂溶着から木工・建築、医療、食品加工まで。「内部加熱」の原理を応用
軟質塩ビなどの溶着(ウェルダー)方法として開発された高周波加熱技術。その利点(内部加熱)を応用した新技術が様々な分野で活躍しています。高周波加熱のリーディング・カンパニー・山本ビニター(株)(山本泰司社長、本社=大阪市天王寺区)の取り組みから、その進化の足どりを辿りました。 |
●「内部加熱」の技術的可能性を追求
プラスチックのフィルム、シートなどに高周波の強い電界を与えると、分子レベルで衝突・振動・摩擦が起き、自己発熱する。この熱を利用してプラスチックを溶着するのが高周波ウェルダー加工の原理です。この方法は、外部の熱源から加熱するのではなく、樹脂の中から発熱させるので「内部加熱」と呼ばれ、破れにくく仕上げが美しいこと、そして作業効率を大幅アップできるのが最大の特長です。
山本ビニターは創業直後から、欧米の先端技術だった高周波ウェルダーに注目。研究の末、自社生産に成功したのを皮切りに、半世紀以上にわたって「内部加熱」の技術的可能性を追求。世界のどの国も成し得なかった分野にまで、その使用領域を発展させていきました。
●木材の乾燥・接着に高周波を利用
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高周波蒸気複合乾燥装置による作業風景 |
その嚆矢となったのが、家具や楽器などの木工用に開発された木材の乾燥接着加工技術(1972年)。これは、木材に塗布された接着剤を高周波で発熱させ、瞬時に乾燥、接着するもので、従来の接着方法に比べて、木工作業の生産性を飛躍的に向上させることとなりました。
「当初は試行錯誤の連続で、木材そのものの研究から、厚みや含水率の分析、接着剤の開発まで、様々な課題を克服して開発に至った。今では世界の木材工場でで当社の機械が使われている」(プロダクト営業グループの梅本等課長代理)
その後この技術は、住宅用木材の乾燥技術に発展。(社)日本住宅・木材技術センターの革新的技術開発促進事業の一環として2000年に開発された高周波蒸気複合乾燥装置は、「通常の蒸気による外部加熱と高周波の内部加熱を複合させることにより、短時間で割れや変色の少ない高品質な木材乾燥を実現した」ものとして、第48回木材加工技術賞、第1回木材利用技術開発賞林野庁長官賞などを受賞しています(2003年度)。
■世界が注目する山本ビニター(株)
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技術開発の拠点、山本ビニター・八尾工場 |
1953年、山本晴敏氏が大阪市南区に設立した山本ビニール鰍ェ前身。当初は塩ビ生地の卸売と加工を行っていたが、1954年には販売先のニーズに応えるため高周波ウェルダーの自社生産向けて研究開発に着手。電波障害の問題などを克服して国産化に成功して以降、一貫して我が国のプラスチック溶着の分野をリードする一方、飛躍的な発想力と開発力を武器に、高周波による内部加熱の原理を木工、建築、医療、食品加工などの分野に応用。世界が注目する製品を次々に生み出している。
2015年には、長年の功績により創業者の山本晴敏氏が従六位に叙せられた。
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●異次元への挑戦。がん温熱治療装置の開発
木材加工に続いて山本ビニターが取り組んだのが、内部加熱の医療部門への応用でした。1985年に公開された「がん温熱治療装置サーモトロン-RF8」は、世界初の高周波ハイパーサーミア(温熱療法)装置として内外の反響を呼び、山本ビニターの技術力と高周波利用技術の可能性を強く印象付けるものとなりました。
温熱療法は、正常細胞と比べて熱に弱いというがん細胞の性質を利用したもので、医療機関では1960年代から研究が始まっていますが、人体深部のがん細胞だけを狙って加熱するという難しさが技術的な壁となっていました。
同社では、京都大学医学部からの働き掛けに応えて高周波加熱の有効性を検討した上で、1977年から共同開発に着手。1982年に新技術開発事業団よりハイパーサーミア装置の開発委託を受け、1983年には治験用試作機を完成し、その改良型とななる4号機を使って京都大学など7病院で臨床試験を行った後、1984年には医療器具(現在の法律では医療機器)として厚生省の製造承認を取得しています。
「さらに1990年に健康保険の適用となったことで、新しいがん治療法としてのサーモトロン-RF8の地位が確立した。温熱療法は、手術・化学療法・放射線治療との相乗効果も得られる上に、副作用もなく、QOL(生活の質)の向上も得られることから、国内の病院だけでなく、ロシア、中国などへの輸出も進んでいる」(高周波テクノ営業技術2グループ・グループ長の山崎信吾次長)
医療部門への高周波技術の応用は、まさに異次元への挑戦と言うべき取り組みです(今は製造されていませんが、前立腺肥大症に対する高周波加熱治療装置も開発されています)。
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高周波がん温熱治療装置
「サーモトロン-RF8」 |
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【高周波による加温の仕組み】
がん病巣を中心に、体表から一対の電極をセット。体の内部に8マイクロヘルツの高周波電流を流し、患部の温度を上昇させる。加熱すると、正常な血管は膨張して放熱するが、腫瘍の中を通る血管は膨張せず高温になる。 |
●食品加工分野に進出。高周波解凍装置の開発
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山崎次長 |
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梅本課長代理 |
最後にご紹介するのは、1997年に開発された業務用冷凍食品の高周波解凍装置。一般に冷凍食品の解凍には、スチームや熱風、あるいはマイクロ波などが用いられますが、こうした方法では「時間がかかり過ぎる」「表面だけ加熱されて焼けてしまう」「ドリップが出て旨みが逃げてしまう」など多くの難点がありました。
これに対して、山本ビニターの高周波解凍装置は、厚みのある冷凍ブロック肉でも短時間で均一解凍できるため(−20℃程度で冷凍された牛肉、鶏肉、豚肉などは5分から30分)、旨み成分の流出が少なく、冷凍品の鮮度を落としません。効率性の高い食品加工を可能にしたことで、食肉加工メーカーや外食産業に急速に普及が進んでいます。
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高周波解凍装置 |
以上、高周波加熱技術の進化の足どりをざっと見てきましたが、山本ビニターではこれ以外にも様々な新技術を開発しており、本来のプラスチック溶着の分野でも、ポリオレフィン系の素材を安定的に溶着させる「ハイブリッド高周波ウェルダー」をさらに進化させたモデルを開発し、インターフェックスジャパンで公開するなどの成果を積み重ねています。この先、高周波加熱技術にはどんな進化形が現れるのか。「この技術を展開できる隠れた分野まだまだある」と山崎次長は自信を覗かせています。
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