世界でオンリー・ワンの「フライターグ」バッグ
トラックの塩ビ幌をリサイクル。廃棄物に新しい命を吹きこむデザインの力とは
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塩ビ製のトラックの幌(ターポリン)を再利用した、世界にたったひとつのマイ・バッグ。スイス生まれのアップサイクル・ブランド『フライターグ』のバッグが人気を集めています。エコを基本に、デザインの力で廃棄物に新たな命を吹き込む同社のものづくりは、ある兄弟デザイナーの夢から生まれたものでした。 |
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●フライターグ誕生のものがたり
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「フライターグ」の メッセンジャーバッグ第1号 |
時は1993年、場所はスイスの都チューリッヒ。窓の下に高速道路が横切るアパートに2人の兄弟が住んでいました。2人はまだ駆け出しのデザイナーで、兄は商業デザイン、弟はグラフィックデザインが専門。名に負う環境先進都市で仕事をする2人は車の免許を持たず、移動手段はいつも自転車でした。自分達が描いたデザイン画や製図を持ち運ぶのに適したバッグを作ろうと合作していたある日、高速道路の上を、色とりどりの幌をつけたトラックが行き交う様子を眺めていた2人の頭に、ひとつのアイデアが閃きます。「あの幌は使い終わったらどうなるんだろう?」運送会社に行って尋ねてみると、「産業廃棄物として埋立処理する」という答え。廃棄される幌を一枚譲り受けた2人は、部屋に帰ってさっそく試作品の制作に取り掛かりました。バスタブでごしごし洗って、お母さん譲りの大切なミシンを壊しながら−。こうしてマーカス&ダニエル・フライターグ兄弟の成功物語が始まりました。
●汚れも傷もデザインに取り込む
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生地の擦れや傷が独特の味わいに (ショッパー) |
「2人が証明したのは、一度役目を終えたものでも、形や使い方を変えることで新たな命を吹き込むことができる、ということ。廃棄されるものをデザインの力で蘇らせるという試みは、今で言うアップサイクルの一種ですが、当時はリコンテクチャライズ(再文脈化)という言葉が使われていて、ヨーロッパでもまだ衝撃的な出来事でした。しかも、幌の生地に浸み込んだ汚れも傷も摺れもデザインとして利用する。そこに独特の表情、味が出るのです。2人の作ったバックは次第にデザイナー仲間や取引先の人の注目を集め、それカッコいいね、私にも作ってくれない、ということでひとつずつ増えていきました」(フライターグ銀座店の内藤醇チーフストアマネージャー)
バッグのベルトには自動車のシートベルト、縁の部分には自転車のインナーチューブをリサイクルしていて、「ゴミを生み出さない」という2人の基本理念が細部にまで息づいています。今でこそ、ヨットのセールやシートベルトでバッグを作ったり、使い古しのタイヤでサンダルを作ったりといった事例も増えてきていますが、フライターグこそ、そのパイオニアだったというわけです。
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チューリッヒ北郊のフライターグ工場に搬入されたトラックの幌の山。この中からバッグとして再利用できるものとそれ以外を選別する。 |
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作業台に幌を広げ金具や補強テープ等をはずして、手作業で規定の大きさにカット。この後、洗浄(雨水利用)、品質チェック、保管と続く。 |
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スタッフ・デザイナーが型に合わせてバッグの大きさに生地をカット。素材の柄をどう出すか、異なる厚みをどう使うか。デザイナーの腕の見せ所 |
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デザインの決定。デザイナーによって様々な柄や色が組み合わされ、デザインの指示書が作られる。 |
●機械にはできないデザイン性の高さ
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マネージャー" |
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内藤チーフストア マネージャー |
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フライターグ東京銀座店 |
同社の製品は、チューリッヒにある工場で一括生産されています(縫製のみ国外発注)。前述のとおり、素材となるトラックの幌は塩ビターポリンで出来ていますが、トラック輸送が盛んなヨーロッパでは、幌メーカーや運送会社の数も多く、会社によって幌の組成やデザイン、劣化具合もさまざま。同社は、そうした多様な原料をヨーロッパ中から集めて、それぞれの違いを見極めながら、きちんと人手を掛けて製品のデザインを組み立てていきます(主な製造工程は上の写真を参照)。
「うちのバッグは幌に印刷された企業ロゴもデザインとして取り入れます。熟練のデザイナーがどの部分を生かすか判断して、一つずつ手でカットしていくのですが、それによって機械にはできないデザイン性の高さが生まれるのです。その点、塩ビは加工性も高くデザインしやすい素材だと思います。それと、ナイロン糸などの生地が中に入っているターポリンは丈夫で簡単に破れません。そのこともブランドに対する信頼に繋がっています」
●銀座と渋谷に直営店
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バッグのほかに、ポーチや財布、アイフォンケースなどの小物類も人気。素材はすべてトラックの幌 |
現在、同社が展開する直営店は世界に10店舗。うち2店が日本にあり(2011年の銀座店に続いて、2013年には渋谷店がオープン。他にスイス4店とドイツに3店。ウイーンに1店)、両店の相乗効果で業績は年々高まってきているといいます。
「日本に入ってきた当初は、汚いとか重たい、くさいとか言われることもありましたが、デザインに敏感なアーティストやデザイナー、建築家などが興味を示して挙って買い求めてくれた。中には街で見かけたうちのロゴをネットで検索して店舗を探したというお客様も。最近はインバウンドのお客様も増えています」
ファッション、エコ、リサイクル、実用性と多彩な魅力を備えた「フライターグ」ブランドに、塩ビ関係者もぜひ注目を。
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