アップサイクル(廃材や使われなくなった物をより価値あるモノによみがえらせること)のクラフトづくりを、障害者支援や環境保護に結びつけた独自の活動を展開する[VVV]ヴィークラフト。モノづくりの新しい在り方に挑戦する同会代表の坂井さんに、活動の現状やアップサイクルとの出会いなどをお話しいただきました。
●足掛け4年の活動で順調な成果
[VVV]ヴィークラフトの活動
大阪府箕面市のNPO。2012年10月設立。企業から出る包装材や布地の端材などの不要品を利用して、ショッピング・バッグやポーチなどのクラフトを制作する「アップサイクル」に取組む。単なる廃棄物の再利用に留まらず、製品の部材加工を障害者団体に委託して、ワークショップや講演会などで教材・製品として一般に販売、収益の一部を森林や動物の保護運動に役立てるなど、モノづくりと社会貢献をリンクさせた点が大きな特徴。
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洗剤の詰め替えパック(左)がオシャレなフォトフレームに |
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2012年10月に仲間と一緒にヴィークラフトを立ち上げてから足掛け4年。苦労もありましたけど、比較的順調に活動を広げてくることができたのかなぁと思っています。
商品の包装材などのアップサイクルを軸に、様々な人を思いやりの心で繋ぎ、みんながうれしく幸せになる、それがヴィークラフトのコンセプトです。私たちの活動は、廃材を提供していただく企業をはじめ、その廃材の加工をお願いしている障害者団体、製品を買ってくれる一般の人、そして環境運動に携わる人など、大勢の人たちの繋がりで支えられています。箕面市や大阪府など地元の行政からも多くの面でご支援をいただいています。
この4年間で、そういう繋がりの形を少しずつ作り上げてきたんです。最初は廃材を提供してくださる企業も殆どありませんでしたけど、今では、洗剤メーカーのサラヤさん(サラヤ梶A大阪市東住吉区)や、アウトドア製品のモンベルさん(潟c塔xル、大阪市西区)など、CSRの一環として積極的に協力してくれる会社も増えてきました。2014年には、クラウドファンディングで活動費用の援助を一般に募ったところ、目標の60万円を達成することもできました。
モノづくりによる社会貢献という私たちの活動への認知は着実に広がっていると思います。
●障害者の仕事を考える
アップサイクルと出会ったのは偶然のことでした。私は小さい頃からモノを作ったり絵を描いたりするのが好きで、京都の美術大学を出て一時グラフィックデザイナーの仕事をした後、印刷会社で企業の販促ツールのデザインや企画をしていました。出産を機に会社を辞めて、子どもが1才の時にフリーでデザインの仕事を再開したんですが、子育てをしてると仕事人間だった私の価値観が少しずつ変わってきて、子どもの未来や社会に役立つクリエイティブな仕事って…なんだろうって考えるようになったんです。その内に不景気で注文が少なくなって、緊急雇用の形で、箕面市の障害者事業団に勤めることになりました。それは障害者の店舗づくりを応援するような仕事で、務めたのは1年半だけでしたけど、この経験は、私の中に「障害者の人たちの仕事を考える」という意識を芽生えさせることになりました。
●メキシコ製ポーチとの衝撃的出会い
アップサイクルと始めて出合ったのは丁度その頃、阪急百貨店で開かれたニューヨークフェアのチラシを見たのがキッカケでした。そのとき会場で眼にした、メキシコ製の可愛いポーチ。お菓子の包装材のミスプリントで出来ているらしいんですけど、そんな感じは全くなくて、廃材とはかけ離れたおしゃれなデザインに私の目はクギ付けになりました。衝撃的でしたね。
それはアメリカのデザイナーが、フェアトレード(発展途上国の原料や製品を継続的に購入することで、現地の生産者や労働者の生活向上と自立をめざす運動)を活用してメキシコで作ってもらったもので、見た瞬間、これこそ障害者の人たちの仕事になるんじゃないか、という考えが浮かびました。障害者支援だけでなく、廃棄物のリサイクルにもなるし、私も再びクリエイティブな仕事に戻ることができる。そんな思いがどんどん膨らんできて、買って帰ったポーチを分解して、自分なりの作り方を研究してから、少しずつワークショップや子ども教室などの活動を始めていくことになったんです。2011年秋のことでした。
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ポーチの作り方。
@短冊状に切って折りたたんだ基本パーツを、A帯状に組み合わせて輪を作り、Bこの輪をいくつか糸で繋いで、ポーチの形を仕上げていく。 |
●最初の一歩、そして本格的活動へ
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チョコレートの包み紙で作ったテント
(2012大阪リビング&デザイン展) |
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食品包装材で作ったコースター |
障害者への支援については、障害者事業団の仕事で付き合いのあった市の中途障害者作業所に主に仕事をお願いすることにしました。ここは脳卒中や事故などで障害が残った人たちが職場復帰をめざして創作・販売活動に取り組んでいる施設で、ここで廃材を短冊形の基本パーツに加工してもらい、それをうちが買い取って、ワークショップや教室などの教材として販売する、という形です。
そういうことで、何とか一歩を踏み出したものの、さっきも言ったように、企業からの廃材がなかなか集まらない。アップサイクルするのでパッケージのミスプリントを下さいなんて突然頼んでも、そう簡単には貰えませんよね。でも、2012年に入って、ある食品会社の取締役の方が理解して下さって、そこから頂いた包装廃材でコースターを作ったら、それを買い取って社内の景品に使って下さったんです。これは有難かったですね。
その年の10月には、大阪のリビング&デザイン展に出展して、建築家の方と一緒に作ったチョコレート・パッケージのテントを展示しました。このときは材料調達も自前で、自分で大量にチョコを買い込んだりして大変だったんですけど、それを見て興味を持った大阪市のエコプラザ担当の方の紹介で、サラヤさんと知り合うことができました。そこから私たちの本格的な活動が始まったわけです。
ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)との繋がりも、サラヤさんを通じて始まったものです。サラヤさんはとても環境意識の高い会社で、自社の製品にパーム油を使っていて、その原料となる油ヤシの畑を作るために熱帯雨林が伐採され、動物の棲む場所がなくなっているということで、BCTJの主な協賛企業として、すごく熱心に活動されています。その影響で私も会員になって、ワークショップの収入からBCTJに寄付をするという形でお手伝いすることになりました。
逆にBCTJから助けてもらうことも多く、例えば、BCTJの理事の中には旭山動物園の園長さんとか著名な方がいらっしゃるので、そういう方を箕面市に招いて、子どもたちに環境問題や動物保護の大切さを知ってもらうような講演をしていただく、といった協力関係になっています。
●夢はソーシャルデザインのプラットホーム
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「PVC Design Award 2015」入賞作品 |
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昨年はPVCの端材を使って仲間と応募した「アップサイクル手芸ヴィークラフト」がPVC Design Award 2015で入賞しました。これまでの社会貢献活動も評価されたそうです。PVCのキレイな色や質感を生かした新しい手芸なので、手芸メーカーなどで商品化して頂けたら嬉しいですね。
今年は、箕面市の後援で、地元の企業や子供会、大阪大学の環境サークルの学生さんらと一緒に「GOMIで宝物をつくろう」というモノづくりイベント開催します(2月6日)。テーマは「キミも未来デザイナー」です。
ヴィークラフトのように、社会的な課題解決のためにデザインを生かす活動をソーシャルデザインと呼びますが、私は箕面市にもそんな未来型デザイナーを発信する街になってほしいと提案しているんです。将来的には、地域の子どもたちや学生、障害者の人たちが集まる、廃材を使ったモノづくりのプラットホームみたいな場所を作りたい、というのが私の夢です。できれば地下鉄の新御堂筋線が箕面まで開通する2020年までに実現したい、なんて考えてるんですけどね。
ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)
東京都品川区に本部を置くNPO。2007年設立。アブラヤシ・プランテーションの開発で熱帯雨林が激減しているボルネオ島の自然環境と生物多様性を守るため、分断された森林を繋いで野生動物の移動経路を作る「緑の回廊」、消防ホースを利用した吊り橋でオランウータンの移動経路を作る「いのちの吊り橋プロジェクト」、環境教育や講演会の開催など幅広い活動を展開している。 |
【取材日2016.1.26】
略 歴 |
さかい・くみこ
大阪府出身。京都嵯峨芸術短大卒。グラフィックデザイナー、印刷会社勤務を経て、2012年[VVV]ヴィークラフトを設立。グラフィックデザイナーとしての経験を生かし、商品パッケージなどの廃材を利用したアップサイクル・クラフトの制作・普及と、アップサイクルを通じた子どもの環境教育や創造力育成に取り組む。ボルネオ保全トラストジャパン会員。2015年、日経BPのフリーマガジン『ecomom』が募集するエコマムアンバサダーの一人に選ばれ、ネットでの情報発信を続けている。 |
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