2014年12月 No.91
 

医療廃棄物の管理と処理、その現状とこれから

収集運搬のパイオニア、日本メディカル・ウェイスト・マネジメント(株)の取り組み

 デング熱やエボラ出血熱など、新たな感染症の危険に注目が集まる中、医療廃棄物の安全な管理と処理の重要性が高まっています。血液バッグや輸液セットなどの医療資材として広く利用されている塩ビにとっても関わりの深いこの問題。今、現場ではどんな対策が採られているのか。医療廃棄物収集運搬業のパイオニア・日本メディカル・ウェイスト・マネジメント(株)(金原暁治社長/東京都港区芝)にお邪魔して、管理と処理の現状、そして今後の見通しなどを伺いました。

●米国での状況視察を機に

金原社長

 日本メディカル・ウェイスト・マネジメントは、昭和63年(1988年)8月、有害化学物質の処理の大手・三友プラントサービス(株)と三菱商事の提携により設立された、わが国初の医療廃棄物専門の収集運搬会社です。2年前まで三友プラントサービスの副社長を努めた金原社長に設立前後の経緯を説明していただきました。
 「当社の設立以前、私は全国の研究機関や保管施設から出る化学廃棄物の処理に携わっていたが、三菱商事の誘いで米国の化学廃棄物や医療廃棄物処理の状況を視察したのを機に、日本でも医療廃棄物の処理会社を立ち上げようということになった。当時、清掃員が使用済み注射針からB型肝炎に感染したりエイズへの懸念が高まったりして、日本でも医療用廃棄物処理のガイドライン(「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」、平成4年制定)が作られようとしていたが、当初は収集・管理方法もまだ確立されておらず、段ボールの箱にプラスチックのシートや吸水性ポリマーなどを敷いて廃棄物を集めていた。その後、専用容器の開発、選定も徐々に進み、処理方法も焼却を基本としながら、リサイクル、リユース、コンポストといった手法も織り込むようになってきた」

●「鋭利物・液状物」と「固形物」に分別

高橋営業係長

 医療機関や研究機関等から排出される感染性廃棄物(廃棄物処理法上の「特別管理廃棄物」)には、血液等の付着した包帯やガーゼ、注射針やメスなどの金属物、ゴム手袋や輸液バッグなどのディスポーザブル製品等々、さまざまなものが含まれます。
 同社では、これらの廃棄物を安全に収集運搬するため、排出者の協力を得て「鋭利物・液状物」と「固形物」の2種に分別。注射針やメス、血液・薬液が付着した廃棄物などは、貫通や液漏れなどを防ぐためにプラスチック(PP)製の堅牢な密封容器、また、そうした恐れのないゴム手袋や輸液バッグなどは、自社開発した三層構造特殊加工の段ボール密閉容器を用いて、感染性病原体を完全に封じ込める対策を取っています。同社営業部・高橋満里子係長の説明。

日本メディカル・ウェイスト・
マネジメントの医療廃棄物分別表

<拡大図>

 「いったん閉じられた容器は二度と開封することができません。一種のブラックボックスなので、私たちも中身を確認できない。このため実際に仕分け作業をしていただく病院関係者にきちっと理解してもらうのが何より大切で、はじめに分別表を使って分別の必要を説明するなどして信頼関係を確保しています」

 

 

●焼却熱の利用やリサイクルも

 分別された感染性廃棄物は、運搬用の保冷車で、東京大田区にある羽田中継センターに搬入され、保冷庫に一時保管されますが、都心部にこうした保管・積替施設を有しているのは同社のみで、夏場は段ボール内の廃棄物が発酵する恐れがあるため、庫内は常時10℃以下に保たれるように設計されています。
 一時保管された後の廃棄物は、専門の業者に委託して処理されることになりますが、「廃棄物の内容に応じた最適処理が行われるよう業者の選定にも細心の注意を払っている」(高橋係長)とのことです。処理方法は、容器ごと密閉状態で高温焼却(サーマルリサイクル)するのが中心ですが、一部はマイクロウェーブによる滅殺菌処理や、溶融処理なども行われており、溶融スラグは路盤材などにリサイクルされています。
 なお、同社の営業品目の中には、医薬品や試薬類、各種医療機器(水銀血圧計や体温計も含む)など、感染性病原体を含まない非感染性廃棄物も含まれますが、これらについても中和・焼却処理(医薬品類)や、有価金属の回収〜リサイクル(機器類)などが行われています。

●より安全な管理へ、新システムを開発

専用の保冷車で羽田中継センターに
保管される

 近年、同社の収集範囲は、大病院や研究機関、街中のクリニックなど従来の顧客に加えて、薬局や鍼灸院、さらには獣医院などにまで広がりを見せています。「一般家庭で使った糖尿病のインスリン注射の針なども薬局薬剤師会を通じて当社が収集運搬している。感染症への不安の高まりの中で、医療廃棄物の収集範囲は今後ますます広くなってくる」(金原社長)と見られますが、一方では、事業の拡大に伴って、より安全で厳格な管理体制が求められることになります。
 こうした状況に対応して、同社では既にGPSシステムによる保冷車の運行管理、不法投棄防止のための電子マニフェストの導入などを実施して管理体制の強化を図ってきましたが、この取り組みをさらに進めるため、新たに電子マニフェストとQRコード(2次元バーコード)を組み合わせた管理システムを開発。今年から運用を開始しています。
 「このシステムは当社がLSIメディエンス(前三菱化学メディエンス)と共同開発したもの。これにより顧客ごとのより厳密なトレーサビリティが可能になっただけでなく、ドライバーの持つスマートフォンとシステムを繋ぐことで、運搬時に起こった問題を即座に共有して解決策を見つけることもできるようになった。部署別の排出数量把握も可能で、顧客にもメリットが大きい。日本流の管理システムとして世界に発信できるものだ」と、金原社長は自信を覗かせています。