●プラスチック専門商社のノウハウ
プラスチックの専門商社としてGREEN PLUSを起業した当時は、珍しい業種だったせいか、よく産廃処理業と間違われました。産廃業はメーカーからお金をもらって産業廃棄物としてプラスチックを処分するのが仕事、私たちのほうは、まだ使えそうな廃プラをリサイクル原料として買い取って、必要とする会社に販売するわけですから、仕入れの仕事なんですね。その違いをメーカーに丁寧に説明して、新しく取引してもらえるようにお願いするわけですけど、中には「こんなお姉ちゃんに何が分かるんやろ」みたいな感じで、プラスチックの種類をごまかして高く売りつけようとする人がいたり、リサイクルには欠かせない樹脂の分別が、産廃処分に出すような感覚でいい加減だったりといったこともあって、結構大変でした。
ですから、私たちにとっては、プラスチックの種類の判定はもちろん、廃プラの発生形態や樹脂別の分別状況を現場で確認する作業といったことがとても大切です。もちろん、国内外を含めて、この種類のプラスチックならどういうところに持っていけば高く売れるのか、という情報も持っていなければなりません。それが専門商社のノウハウなんです。
●大阪での修業時代
そういうノウハウは、GREEN PLUSを始める前に勤めていた会社で覚えました。やはりプラスチックの原料を売買する商社で、私はプラスチックのイロハも知らない人間だったんですけど、5年間そこでお世話になっている間に、種類の見分け方から仕事の取り方、国内外の販売先とのネットワークの作り方まで、すべて一から勉強させてもらいました。
その会社の社長が「終身雇用なんてあると思うな。仕事ができるようになったらどんどん独立しろ」みたいな考え方の人で、2005年に東京支店を出すための準備を任されていろいろ作業しているうちに、これだけしんどいんやったら起業するのとあまり変わらんなと思って、「どうせなら独立させてください」とお願いしたんです。そしたら「いいよ」ということでGREEN PLUSを設立することになったわけですけど、最初は下請けみたいな形で、社長にも役員になってもらって、うちで仕入れたものをその会社に販売したりしていました。資本関係をきっちり整理して完全独立したのは2007年からのことです。
有限会社 GREEN PLUS
現住所/東京都中央区日本橋
本石町2-1-1アスパ日本橋
http://www.greenplus.co.jp/
西奈緒美氏が2005年11月に設立したプラスチックの専門商社。@各企業から排出される廃プラスチックをリサイクル原料として有料で引き取る廃プラスチック買取事業、Aリサイクルメーカーと提携し、リサイクル製品の企画・開発・販売を行う再生プラスチック商品事業、B国が発行するJ-クレジット(国内でのCO2排出権取引制度)付き商品を販売するカーボンオフセット事業、の3本柱で事業を展開。中国、香港、韓国など海外との取引も多い。近年はナノカーボンを利用した新たなプラスチック素材(本文参照)の開発・普及にも意欲を見せている。 |
●しがらみに捉われず、自由に
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GREEN PLUSが販売しているリサイクル製品群(再生プラスチック商品事業)。同社が原料を納めているリサイクルメーカーと提携して開発した素材は、 PP、PE、PETなどに木屑を混ぜたもので、美しい自然木の風合いが特長。耐久性が高くメンテナンスフリーなので、倉庫やウッドデッキ、柵、公園遊具用の部材などにニーズが広がっている。インターネット販売が中心。 |
確かに初めのうちこそ、女なんかに何ができんねん、みたいなことを言われたりもしましたけど、そういう男尊女卑みたいな考えの人は、実際はそんなにいなかったですね。むしろ「こういう産廃とのボーダーラインにあるような業界で頑張っている女性は珍しい」とか「あなたは起業されてるんだから大変ですね」と励まされることが多かったと思います。
女性だと、ある意味大事にされたり、逆にスポイルされてしまう面もあるんですけど、私は新参者だったこともあって、業界内の変なしがらみに捉われることもなく、わりと自由にやらせていただいてきた。恵まれたポジションにいるのかなとは思います。
もちろん他の会社と原料の取り合いになることもありますが、この業界は樹脂の種類によって会社ごとに得意不得意があるんです。うちは塩ビ、うちはオレフィン系とかね。そこを敢えて割って入ってもあまりいいことはないし、やはり自分の得意分野の中で仕事をするのが一番やりやすくて、仕事の筋も通ります。だから、無理な競争はできるだけしないようにしてきました。
●知的財産開発支援センターの立ち上げ
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GREEN PLUSのカーボンオフセット事業は、角材・平板・枕木などのリサイクル製品を、国が発行するJ-クレジット付き商品として販売するもので、購入代金の一部は秋田県上小阿仁にあるJ-クレジット認定地(上の写真)の森林保全活動に利用される仕組み。公共工事のグリーン購入やグリーン調達、あるいは環境貢献をめざす企業などに向けた商材として注目されている。 |
廃プラスチックの買取事業を皮切りに、2007年から再生プラスチック商品事業、2008年からはカーボンオフセット事業と、ずっとプラスチックのリサイクルをメインに仕事を広げてきたわけですが、一方で、もっと上流の、製品開発に関わるような仕事もしてみたいなという思いを強く持っていました。そのきっかけを探していた中で、たまたま出会ったのがカーボンナノホーン(S-CNH)という次世代型の素材なんですけど、それが縁で昨年は、知的財産開発支援センターという一般社団法人の立ち上げに関わることになってしまいました。
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カーボンナノホーンの粉末。
カーボンナノホーンとは、ナノカーボン(直径がナノメートル〈10億分の1メートル〉単位の炭素粒子で構成される物質)の一種。導電性や耐熱性、機械的強度にすぐれ、水溶性が高い。 |
S-CNHというのは、新しいナノ素材の特許((株)環境・エネルギーナノ技術研究所の製造特許)で、樹脂に添加したり塗料に交ぜたりすると、結構画期的な製品開発が期待できるんです。この素材をうちで取り扱うことになったので、東京オリンピックに向けて新しい素材を求めている企業や個人を対象に説明会を開いたりしているうちに、カーボン素材だけでなく、いろいろな新しい知財の開発と商品化を支援していこうという動きが参加者の間から出てきて、センターの設立ということになったわけです。
実は日本には60万件くらい休眠特許というのがあって、特許は取ったけれど商品化できないということで眠ったままになっているんですね。そういうものを上手く目覚めさせて、企業とマッチングして商品化のお手伝いをしたいと思っています。私は事務局長を務めているんですけど、メンバーには素材、技術、法律といったいろいろな専門分野の人が集まっているので、皆の力がまとまることで効果的にステップアップできると期待しています。
●プラスチックは世界商材
いろいろな人が集まると、出てくる意見もいろいろでとても楽しいし、可能性を感じますね。それは、もうひとつ私が関わっているプラスチックみらい研究会についても言えることです。この会は、フェイスブックの友だちと3年前に作った情報交換のグループがはじまりで、端的に言えば、プラスチック業界の縦の繋がりを強めることを目的に、今年1月に改めて発足しています。
プラスチック業界というのは、同業者の横の関係は密なのに、意外と縦のつながりが少ないんです。縦のつながりが強ければ、思いがけない新しいものが作れるはずなんですけどね。ですから、この会には、プラスチックのものづくりに関わる上流から下流、さらには関連業界の人や個人も含めて、いろいろな世界の人が集まっています。現在は15名のメンバーですが、私のような商社もいれば樹脂メーカーの人もいる、技術者も産廃業者も、業界紙の記者やデザイナーもいて、勉強会や工場見学会の定期開催など、企業や業界の垣根を越えた活動を続けています。この秋には韓国での見学会を予定していますが、プラスチックは世界商材ですからね、これからも国内に限定しないで、海外の人ともどんどん繋がっていきたいと考えています。
【取材日2014.7.15】
略 歴 |
にし・なおみ
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東ソー四日市工場で塩山をバックに
記念撮影
(プラスチックみらい研究会) |
1971年、大阪府枚方市生まれ。高校卒業後、電機メーカー勤務などを経て、2001年プラスチックのリサイクル原料商社(株)スカイコーポレーション(大阪市中央区、佐藤哲史社長)に入社。東京支店開設のため上京したのを機に独立し、2005年11月、有限会社GREEN PLUS を設立。プラスチックリサイクル業界の女性起業家として、また業界組織のまとめ役として旺盛な活動を続ける。一般社団法人知的財産開発支援センター事務局長、プラスチックみらい研究会会長、Facebookプラスチックインダストリーズ会員。 |
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