2014年3月 No.88
 

(株)森工芸に見るシルクスクリーン印刷の今

熟練の人間力と一貫生産体制を武器に「高品質、低価格、最短納期」を実現

 
@一般的なシルク印刷   Aインクを盛り上げて立体感と
 高級感を出す厚盛り印刷 
 
B皮膜に独特な模様を浮かび
 上がらせるチヂミ印刷 
  Cおしゃれで可愛い仕上がりの
 ラメ入り印刷      
 表面にインクを盛り上げたり、キラキラのラメを入れたりと、印刷の楽しさやデザイン性をフルに発揮するシルクスクリーン印刷(以下、シルク印刷)。今回は、大阪府八尾市の(株)森工芸(森佳秀社長)を訪ね、塩ビとも関わりの深いシルク印刷の最前線を取材しました。関西塩ビ加工業界の若手経営者で組織する「PVC next」の会員でもある同社の、チャレンジングな活動にもご注目を―。

●多彩な表現力

2011年に竣工した森工芸の新八尾工場

 シルク印刷とは、超微細なメッシュ状の版面(スクリーン)にインクの透過部分と非透過部分を作って刷り上げる印刷方法です。その名のとおり、もともとスクリーンの素材には絹布が使用されていたとのことですが、現在では、インクの透過性が高い化学繊維や金属(テトロン、ステンレスなど)が使われるようになっています。
 一度に大量印刷できるオフセット印刷やグラビア印刷などと異なり、シルク印刷は全自動機を使っても1時間2000枚が限度。そのかわり、1枚からでも印刷できること、多彩なデザイン印刷が可能であること、布・プラスチック(PP、塩ビ等)・金属・ガラス・木材・皮革など素材を選ばず印刷できること、といったシルク印刷ならではの特長を備えており、上の写真A〜Cのような特殊印刷もお手のもの(@は、文房具や化粧品のパッケージなどに幅広く利用されている一般的なシルク印刷)。ほかにもイチゴやバナナなど果物の匂いがする香り付き印刷、光を蓄えて暗闇で発光させる蓄光印刷など、その多彩な表現力は他の追随を許しません。

●シルク印刷の可能性を追求

事業の説明をする森龍平氏

 森工芸は、昭和42年の創業以来、「高品質、低価格、最短納期」をモットーに、40年以上にわたってシルク印刷の可能性を追求してきた関西シルク印刷業界の雄。同社の3代目で品質管理を担当する森龍平氏に話を聞きました。
 「シルク印刷は、凸凹面や曲面にも自在に印刷できる。印刷物の素材や形状に応じてインクの種類も様々だが、従来の蒸発乾燥型のインクに加え、紫外線硬化型のUVインク(紫外線を照射した瞬間に硬化するインク)が開発されたことなどで、印刷の幅はさらに広がった。厚盛り印刷(上の写真A)ができるのもUVインクのお陰だ。弊社ではUV印刷機を含む4台の全自動印刷機など最先端の設備を導入して、お客様のあらゆる要望に応えられる体制を整えている。どんなに困難な仕事内容でも断わらない」

 

▲トムソン打ち抜き加工したクリアホルダー。(トムソン加工とは、製品の展開図の型に1枚1枚打ち抜く加工で、森工芸では、主にPP、塩ビ等の硬質樹脂に加工している)。

◀森工芸が誇る全自動UV印刷機。右に見えるのが製版したシルクスクリーン

●校正から加工まで、すべて自社完結

ローラーで丁寧にごみを取る。決め手は人間力

 とはいえ、先端機器だけで自動的に高品質の印刷ができるわけではなく、技術的に完全自動化しにくいシルク印刷では、熟練した人間の技と経験が仕上がりを決める大きなポイントとなります。「インクの分量や粘度の違いで色が違ってしまう恐れがあるので、担当者が常に印刷の状況を見ながら判断し、調整している。また、スクリーン版や生地に付着した微細なほこり、油分が印刷に影響することもある。ラインの中に自動ごみ取り機を付けてはいるが、これも最後は人間の目で丁寧にチェックするようにしている」
 こうした人間力と並んで同社の強みとなるのが、校正(サンプル作成等)から製版、調色、印刷、加工(トムソン打ち抜き加工〈上の写真参照〉、超音波溶着など)までを、一切外注せずに自社完結できる一貫生産システムです。
 「シルク印刷では、お客様から頂いた原稿やデータをもとに作成したフィルムを、スクリーンに焼き付けて製版するが、大半の業者はフィルム作成と製版を外注しており、1枚の版を作るのに最低でも数日は掛かる。弊社の場合、フィルム作りを含めて製版は数時間で済み、そのぶんコストも削減できるし、お客様の納期の要望にも応えられる。つまり、お客様に還元できる利益が大幅に増える」

●厳しい時代を生き残るために

PVC nextと上田安子服飾専門学校が共同製作した「おしゃれにかべぴた!フリースタイルPVC吸盤」(PVC Design Award 2013の入賞作品)。印刷は森工芸の担当。

 一時はかなりの量が中国などの海外に流出したというシルク印刷の仕事も、現在では少しずつ国内に戻りつつあるようです。森工芸でもこうした仕事の依頼が増えているとのことですが「唯一悩みのタネは人材不足。熟練の技が求められる仕事だけに1人前になるには何年も掛かるし、ひたすら根気の要る仕事なので、給与面で厚遇しても続かない人が多い」。
 PVC nextの会員として、産学連携でPVC Design Awardに出品するなど、多方面でチャレンジングな活動を続ける森工芸。「塩ビは印刷しやすい素材で、弊社でもプラスチック印刷物の半分近くを占める。PVC nextでの活動は、新技術の研究や社会勉強という意味でも刺激になっており、そうした努力を続けていく中で、厳しい時代を生き残るための活路が開けてくると思う」と語る、森氏の意欲的な言葉が印象的でした。