レポート「震災から3年、住まいエンベロープ・デザインを改めて考えるシンポジウム in 仙台」
省エネ、CO2削減などの課題解決へ、被災地における住宅外皮の役割を探る
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パネル討論の模様(上は代表者挨拶を行う建築研究所の坂本理事長) |
東日本大震災からの復興をキーワードに、今後の住宅外皮(外壁や屋根、床、窓など)のあり方を話し合う「震災から3年、住まいエンベロープ・デザインを改めて考えるシンポジウム」が10月10日の午後、仙台市のフォレスト仙台で開催されました(主催:塩ビ工業・環境協会)。会では、東北地区の工務店やハウスメーカー関係者、建築士などおよそ100名の参加者を前に、被災地における住宅復興のあり方、省エネ、CO2削減などの課題解決に果たすエンベロープの役割などを巡って活発な議論が繰り広げられました。 |
●講演&パネル討論の2部構成
当日のプログラムは、研究者、行政担当者など4氏による講演と、被災地域の住宅再建に関する現状と課題、エンベロープの役割などについて話し合ったパネル討論、の2部構成。
開会に当り、シンポジウムの代表として挨拶に立った(独法)建築研究所の坂本理事長は、「震災後の状況を見れば、『これしかやることはない』と言えるほど、住宅の省エネ、省CO2が重要なテーマになっている。日本の断熱技術はこの10年で大きく進歩しており、これを復興住宅の外皮の機能にどう取り込んでいくのか、地域としての回答を出していくことが大事だ。このシンポジウムがそのヒントを与えてくれるものになることを期待する」と述べました。
シンポジウムのプログラム
◆ シンポジウム代表挨拶
坂本 雄三(独立行政法人 建築研究所理事長)
◆ 基調講演 復興住宅における環境設計のあり方
吉野 博(住まいと環境 東北フォーラム 理事長)
◆ 講演1 東北の復興と住宅のエネルギー対策
三浦 秀一(東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科 准教授)
◆ 講演2 住宅・まちづくりにおける復興の現状と課題
林 俊行(復興庁 統括官付参事官)
◆ 講演3 住まいの省エネルギーと住居環境の質の両立をめざして
鈴木 大隆(北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所 環境科学部長)
◆ パネルディスカッション
「住まいの再建においてエンベロープ・デザインが果たす役割とは」
コーディネーター 鈴木 大隆(前掲)
パネラー 林 俊行(前掲)
三浦 秀一(前掲)
日野 節夫(ヒノケン(株) 代表取締役社長)
武蔵 和敏(「住まいの再建を考える会」 代表)
木原 幹夫(旭硝子(株) ガラスカンパニー 主幹)
◆ 閉会挨拶
関 成孝 (塩ビ工業・環境協会 専務理事) |
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●「地域に合った住宅」を。4氏が講演
住まいと環境東北フォーラム・吉野理事長の基調講演は、地域の特性を生かした省CO2型復興住宅づくりを進める上での考え方などをまとめたもの。この中で吉野理事長は、最低限必要な条件および設計のポイントとして「高断熱・高気密と長寿命」「安心・安全」「成長できる住宅」「自然エネルギー利用の導入」など6項目を挙げ、東北の気候風土に合った復興住宅の例としてパッシブソーラーハウスの可能性などを説明しました。
続いて講演を行った東北芸術工科大学の三浦准教授は、東北地方の復興に必要なものを「安全快適な住まい」「安全なエネルギー」「住み続けるための雇用」の3つとして、自ら手掛けた山形の住宅を例に「地域の特性を生かした建材(木)+断熱建材+自然エネルギーを利用して循環型のまち作りをしていくべきだ」と訴えました。
一方、行政の立場から講演した林参事官は、復興に向けたロードマップについて「がれきの処理はまもなく終了するが、住宅の復興再建は遅れており2年先ごろがピークになる。住宅復興に関する減税や給付金制度は条件として住宅の質を問う政策になっていないが、これから大きな課題になるかもしれない」との見通しを示しました。
最後に講演した北方建築総合研究所の鈴木部長は「北海道以外の地域では住宅の高断熱化が進んでおらず、震災を機に住まいの省エネデザインを根本的に考え直す時に来ている」として、省エネと建築性能の向上を考えながら地域にふさわしい住宅を作ることの重要性を指摘。「断熱化により家が保温箱になって住みにくいという人がいるが、日本古来の日射遮蔽技術(通風や庇など)に学び、今の技術(例えばガラスでの遮蔽)を加えれば夏のピーク温度は下げることができる」などと提言しました。
●現場の生の声が聞かれたパネル討論。窓断熱の重要性指摘も
第2部のパネルディスカッションでは、鈴木部長をコーディネーターに、林参事官、三浦准教授、さらに復興住宅の供給最前線に立つヒノケン(株)の日野社長、陸前高田市の被災者らでつくる「住まいの再建を考える会」の武蔵代表を交え、活発なやり取りが交わされました。
各パネラーからは、住宅供給はもちろん雇用を守る上でも地元工務店の役割が重要であること(日野社長)、「地べたの上で昔の生活を取り戻したい」という被災者の希望に配慮した住宅づくりが必要であること(武蔵代表)など、現場からの率直な声が出されたほか、旭硝子鰍フ木原主幹が、住宅性能(省エネや健康)を高める開口部(窓)の重要性を指摘。「住宅で熱の出入が一番大きい開口部はエンベロープの中でも最大の設計ポイント。断熱・遮熱に有効なガラスを使用すれば省エネだけでなく、結露が減少しカビやダニが防げて健康面も向上する」と説明しました。
最後に鈴木部長が「被災地の住宅再建、さらには全国の地域再生にも建物のエンベロープは重要であり、震災復興の中でいいモデルを作り全国に発信していかなければならない」と述べて、議論を締めくくりました。
東京でもシンポジウム「環境時代のビルディングエンベロープ」
仙台でのシンポジウムに続いて、11月22日には東京大学伊藤国際学術センター(文京区本郷)で「環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム― 住宅断熱の新たな水準について考える」が開催されました。東京で同テーマのシンポジウムが開かれたのは昨年に続き2回目。
会では、住まいの省エネ、健康性などに関して研究者・専門家が講演したほか、断熱水準をテーマにしたパネルディスカッションも行われ、およそ350人の参加者が熱心に耳を傾けました。 |
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