新和環境(株)の塩ビ壁紙リサイクル事業
国内唯一の貴重な取り組み。叩解分離技術で塩ビとパルプを
丸ごと再資源化
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塩ビ壁紙の工場端材(左)が塩ビコンパウンド(右上)とパルプ粉に生まれ変わる |
リサイクルが難しい塩ビ壁紙を、「叩解(こうかい)分離」という新技術を駆使して、高純度の再生塩ビコンパウンドとパルプ粉(バイオマスコンパウンド)に再生する─。建設廃棄物中間処理の新和環境(株)(近藤亮介社長)は、業界で唯一、塩ビ壁紙のマテリアルリサイクル事業に取り組む貴重な存在。同社の柏工場(千葉県柏市)で、事業の近況と今後の展望を取材しました。
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●発想の転換 「叩いて分離(わけ)る」
新和環境(株)
昭和49年12月設立。本社=東京都新宿区西早稲田2-21-12(TEL 03-3208-5845)
埼玉県吉川市、千葉県市川市にリサイクルセンターを保有し、最新の機械選別再資源化システムを駆使して、RPF製造など各種産廃の高精度リサイクルに取り組む。近年は「内装まるごとリサイクル」をモットーに内装改修事業にも力を入れており、壁紙リサイクル事業は差別化の決め手に位置づけられる。柏工場は、今年埼玉センターに移転、統合の予定。
今年2月、同社の近藤社長は、NPO法人環境文明21と日刊工業新聞社が主催する「経営者環境力」大賞を受賞している。 |
施工性にすぐれ丈夫でデザインも多彩といった特性から、内装仕上げ材として圧倒的な支持を集めている塩ビ壁紙。日本の壁紙市場におけるシェアは実に9割以上に達します。しかし、年間11万トン程度と考えられる各種廃材(施工廃材10万トン、工場端材1万トン)は、塩ビと紙(パルプ)の複合製品であるために再利用が難しく、中でもマテリアルリサイクルについては、長い間実用的な技術が見つからない状態が続いてきました。
その困難なテーマに、果敢に取り組んでいるのが、今回ご紹介する新和環境。冒頭に触れた、叩解分離技術とは、文字どおり「叩いて分離する」ことで、予め20mm角程度に細片化した塩ビ壁紙を、秒速130mで高速回転する金属製の刃で叩き、激しい衝撃と遠心力により、強固に固着している塩ビ層とパルプ層を瞬時に破壊、分離するというのが、そのメカニズム。単純に「粉砕する」のではなく、「叩いて分ける」という発想の転換が、塩ビ壁紙という複合製品のマテリアルリサイクルを始めて可能にしたというわけです。
●2011年9月から事業開始
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叩解装置の外観(左)と、内部の構造 |
叩解分離技術は、もともとベンチャー企業のアールインバーサテック(株)が、明治大学理工学部の建築材料研究室、東京都産業技術研究センターと共同で2008年に開発したもので、新和環境は、2011年3月に事業から撤退したアールインバーサテックの後を引き継ぐ形で、同年9月から正式に塩ビ壁紙リサイクルの取り組みをスタートさせています。
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近藤社長(左)と柏工場の雨宮工場長 |
事業の継承を決断した理由について、同社の近藤社長(一般社団法人日本壁装協会 環境顧問)は次のように説明します。
「叩解分離技術は、塩ビ壁紙にとって唯一のマテリアルリサイクル手法。それを事業として生かすことができるのは、10年以上に渡って様々な形で塩ビ壁紙の再資源化に関わってきた当社以外にはない、という自負もあった。幸い、原料の入手などの面で日本壁装協会の協力も得られることになったので、事業を引き継ぐ決断をした」
●月300トンの処理能力を達成
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塩ビとパルプの混合粉 |
リサイクルの処理工程は下図のとおり。近藤社長によれば、「スタート当初はまだパイロットプラントという位置づけで慎重な運転を続けていた」とのことですが、同社では月300トン処理を目標に、機器の改良と安定性向上などに取り組み、システム全体に磨みを掛けてきました。
例えば、叩解処理後の原料(まだ塩ビとパルプが混合した状態)は、次の分離工程でメッシュローター(高速回転する金属製のメッシュ円盤で塩ビとパルプを比重分離する設備)と分離タワー(風力と比重差を利用して塩ビ分に残る微量のパルプ分を完全除去する設備)という2種の機械を使って精密に分離されますが、同社では、メッシュローターを2基、分離タワーを3基、直列に配置して処理を繰り返すことで、99%以上(塩ビコンパウンド)という高精度の分離を実現しています。
「ただ、これがシステムの完全形だと思っているわけではない。事業の収益性という点で大きな負担となっている電気代節減のためのラインの見直し・改良など、やるべきことはまだ残っているが、ともかく事業開始からほぼ1年半を経過して、当初の目標である月300トンの処理能力は何とか達成することができた」(近藤社長)
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塩ビ壁紙叩解分離システムの処理の流れ |
●再生塩ビ敷板「プラボー」の開発
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再生塩ビコンパウンドの出荷風景 |
リサイクルにとって、再生品の安定した出荷先の確保は至上命題。新和環境が製造した再生塩ビコンパウンドは、大半が床材メーカーで床材のバッキングシートに利用されているほか、パルプ粉もペットケア用品(猫砂)の原料などに利用されており、出荷先の面ではほぼ課題はクリアされた状況ですが、同社では今後の事業拡大に備えて新規の用途開発にも積極的に取り組んでいます。
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塩ビの柔軟性で下地の凹凸を吸収する
「プラボー」 |
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軽量なので高校球児も楽々施工 |
中でも、再生塩ビコンパウンドの有望な用途として期待されているのが、(株)リンクプラネット(東京都渋谷区)と共同開発した再生塩ビ敷板「プラボー」。
この製品は、リンクプラネットが先行開発していた「プラネットシード」の改良型となるもので、電線被覆廃材由来のリサイクル塩ビを100%使用して製造される「プラネットシード」に対し、「プラボー」は電線被覆由来の塩ビ70%と、新和環境の再生塩ビコンパウンド30%を配合して作られます。
「プラボー」の主な使い方は、工事現場などで使用される敷鉄板やゴムマットと同様ですが、@鉄板に比べて軽量で(1枚約45kg。サイズは125cm×200cm×1.3cm)設置撤去が容易、A耐久性が高い、B弾性、柔軟性に優れ、下地の凹凸や芝生の上でも効果を発揮、C再生塩ビ原料100%で環境によい、など様々な特長を備えていることから、発売直後から引き合いが相ついでおり、都内の中学校・高校の学園祭や野球のグラウンド、土木工事現場、イベント会場などで幅広く利用されています。
●施工端材のリサイクルも視野に
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年間10万トン排出される
塩ビ壁紙の施工端材 |
一方、リサイクルの入り口(原料の入荷)の部分でも、新しい動きが見えてきています。現在、同社がリサイクルしている塩ビ壁紙は、壁紙メーカーから出る工場端材が中心ですが、解体・改修工事から出る施工端材についても一部モデル的なリサイクルがスタートしており、「工場端材のリサイクルが収益源として固まれば、施工端材のほうも段階的に取り組みを拡大していきたい」というのが、同社の計画です。
「施工端材については、どこのメーカーの製品でどんな組成なのかが把握できないこと、施工時に使った接着剤の成分や工事で使うカッターの刃など異物の混入が避けられないことなど、リサイクル品の品質の安定という点で様々な問題がある。また、工場端材に比べて排出量が多いだけに、本格的にやるとしたら、出荷先の確保とそれに見合った処理能力の向上、新たな用途開発、さらには分別回収システムの構築も大きな課題になる。しかし、少なくとも新和環境という会社がこの事業に参画した以上、目標にしなければならないのはやはり施工端材のリサイクルであって、将来的には施工端材を広く受け入れることができる体制構築を目指してきたい」(近藤社長)
●他の塩ビ複合製品のリサイクル研究も
以上見てきたとおり、順調な軌道に乗りはじめた新和環境の塩ビ壁紙リサイクル事業。「そもそも他の廃棄物処理業者との差別化を図る目的で初めた事業なので、この事業単体で何がなんでも収益を上げなければならないというものではなく、内装解体や改修工事などの事業とセットで相乗効果が上がればいいと思っている。赤字さえ出さなければ新和環境全体としては経営的にプラスであることは間違いない」と近藤社長は言いますが、最近はターポリンなど他の塩ビ複合製品についてもリサイクルの研究を進めているとのことで、叩解分離技術を用いた同社のリサイクル事業は、今後さらなる発展につながる可能性を秘めています。
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