ヤスダビニール工業(株)のリサイクル塩ビシート
塩ビの有効利用に取り組んで40年。製造工程の陰に光る、工夫とテクニック
今回の加工の現場は、リサイクル塩ビシートの製造メーカー、ヤスダビニール工業(株)(安田美砂子社長、東京都荒川区西日暮里)にお邪魔して、作業の様子を拝見。つきたてのモチのように柔らかな塩ビの固まり(コンパウンド)を、一枚の美しいシートに仕上げていく工程の陰には、興味深い工夫とテクニックが光っていました。 |
●昭和49年からリサイクルに着手
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安田会長 |
「終戦後、父がここでゴム長靴を作っていたんです。その技術を生かしてビニールシートをやり出したのが昭和23年ごろ。まだ物資不足の時代でね。ビニールは珍しかったと思いますよ。その後、昭和29年に父が亡くなったり、この一帯の火事で社屋を焼失するといった不運が重なって、一時は人に貸していたこともあったんですが、昭和49年から自分でやり始めたわけです。リサイクルシートの製造もその時からスタートしています」と話すのは、ヤスダビニール工業の安田益男会長(前社長)。
同社では平成に入ってバージンシートの生産も開始していますが、製品の基本は現在でもあくまでリサイクルシート。様々な曲折を経ながらも、ほぼ40年にわたって塩ビの有効利用に取り組み続けてきたことになります。
●工場端材がメイン原料(製造工程)
リサイクルシートの原料となるのは、塩ビの加工メーカーなどから出る工場端材がメイン。専門の回収業者を通じて納入された原料は、カレンダー成形(左の図)と呼ばれる方法によってシートに加工されます。
製造工程の概要は次のとおり。@ミキシングロール(混練機)で原料を溶かしながら色と硬さを調整→Aストレーナー(濾過器)でゴミやホコリ、紙などの異物を取り除く→Bカレンダー機に通して圧延→C表面の絞(しぼ)押し→D厚みを調整(0.15mm〜最高1mm)→E冷却→F巻取り
熱源に用いられるボイラーの温度は約160℃で、夏場は場内が40℃を超える暑さになるといいます。また、ストレーナーを使うのは、静電気を帯びた原料がホコリを集めやすくなっているためで、製品の品質維持には不可欠な工程です。
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原料を練る |
ごみなど異物を取る |
カレンダー機に通す |
圧延と冷却を経て |
美しいシートが完成 |
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色別にストックされた原料 |
慎重に色あわせを行なう |
テストロールを使って品質を事前点検 |
仕上がりの硬さをチェック |
●ポイントは「色と硬さの調整」
リサイクルシートづくりの中で、最もコツと注意を要するのは「色と硬さの調整」だといいます。
「お客さまは用途によってシートの柄を選び、色と厚み、硬さ、メーター数などを我々に指定してくる。シートの柄は約100種類の見本から選んでもらえますが、難しいのは注文どおりの色と硬さを出すこと。原料の中から注文に近い色合い、硬さのものを集めて、ミキシングロールで練りながら、顔料や可塑剤を加えて調整していくため、その都度原料の中身が違う。その都度新しい仕事みたいなものなので、経験と馴れがないと注文どおりに仕上げるのは結構大変なんです。特に硬さについては、お客さまの作業能率に影響しますから、注文も非常に厳しいんですが、そこをできるだけ可塑剤などを使わずに、相手が求めるものにしていくのがコツ。また、色の調合がしやすいように原料は色別にストックしています」(安田会長)
このほか、テストロールを使って製品の仕上がり具合を事前チェックするといった作業も、「色と硬さ」を確保する上で見逃せないポイントといえます。
●リサイクルシートから生まれる多様な製品
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ヤスダビニールのリサイクルシートで作られた製品
@トラベルタグ。下のグレーと赤はパスポートホルダーの生地
A車検証入れ(上)と救急ボックス
B箱ものケース |
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同社のリサイクルシートは、加工メーカーの手に渡って様々な製品に生まれ変わります。主なものだけでも、バインダーや箱ものケース、車検証や銀行の通帳入れ、トラベルタグ、手帳や本の表紙と、その内容は実に多種多様。変わったところではランドセルカバーや横断歩道の旗といった製品も含まれます。
現在の生産量は月50トン〜60トン。近年は不景気の影響や中国との競争にも晒されており、「年商もピーク時に比べて30〜40%近く減少した」といいますが、安田会長は今後の事業の見通しについて確かな手応えを感じ取っているようです。
「40年この仕事を続けてきましたが、以前は関東に16社ほどあった同業者も、時代の流れや売上の減少などで今は4社にまで減っています。幸いうちの場合は、娘の一人がやりたいというので3年前に代を譲ることができました。都心にあって場所も便利なので若い社員も引き続き入ってきてくれます。設備もしっかりしていて競争力は決して衰えていないんです。街中なので環境対策(臭いや振動、騒音対策)が欠かせないといった苦労もありますが、この場所でやっている限り、伸びるチャンスはまだ十分あると私は思っています」
また、機械設備の重要性について安田会長は「この仕事は装置産業で機械がなければ作ることはできない。うちの設備はこれまで様々に改良を重ねてきたもので、今ではもうこれだけのものはできないし、新しく作るには大変な投資が必要。この設備を保守点検しながら維持していくことが最も大事なこと」と語っています。 |