2012年12月 No.83
 

震災被害の塩ビ管リサイクル
─ 岩手県洋野町の取り組み

隣町(軽米町)の協力を得て広域処理に挑戦。復興へ向け順調な動き

上 瓦礫の中から分別された被災塩ビ管
左 全壊したウニ等高度加工研修センター
 (洋野町)

 本誌では、東日本大震災による被災塩ビ管リサイクルのモデルケースとして、これまでに福島県の相馬市、茨城県の潮来市と稲敷市などの取り組みをご紹介してきました。今回取り上げるのは、隣接する軽米町(かるまいちょう)の協力を得て広域的な処理を進める岩手県九戸郡の洋野町(ひろのちょう)の事例。地元の中間処理業者の提案をきっかけに始まったもので、塩化ビニル管・継手協会が運営するリサイクルシステムを利用して順調な作業が続いています。

●漁場、漁業施設などに壊滅的な被害

奥寺課長

 岩手県最北端の沿岸部に位置する洋野町は、「ウニの里」として知られる魚介類の名産地。その洋野町にも、昨年3月の東日本大震災は甚大な災難をもたらしました。奇跡的に人的被害は出なかったものの、津波によって多くの民家が全半壊したほか、基幹産業である漁業も、漁場や漁業施設等に壊滅的な被害を受け、洋野町ブランドの象徴であるウニの生産基盤も危機的状況に陥りました。
<拡大図>
 「町役場などが並ぶ町の中心部は、幸い防潮堤を波が越えなかったので無事だったが、防潮堤の外側にある漁港施設では、市場やウニの加工研修センターが全壊するなど大きな被害が出た。また、ここから10kmほど南の八木地区は、防潮堤が未整備だったために民家が波に呑まれた。家屋の被害はほぼこの地区に集中している」(洋野町町民生活課・奥寺広樹課長の話)。

●7月から被災塩ビ管のリサイクルに着手

高阜W長

 今回の被害により洋野町で発生した震災廃棄物の量はおよそ2万トン。その中身は、約6割(重量比)を占めるコンクリート殻を中心に木くず、土砂、金属類、そして塩ビ管、魚網などで、洋野町では被災直後から、これらの廃棄物を八木地区に設けた仮置き場に集めて、分別作業を進めると同時に、資源の有効活用と復興対策の観点から、リサイクルについても積極的な対応を行なってきました。
 町民生活課の高葡B夫環境衛生係長によれば、「既に9割以上は分別が終了しており、そのうちコンクリートや木くずなど7割程度を路盤材やセメント工場の燃料などにリサイクルしている」とのことですが、塩ビ管については、リサイクルの意向は強かったものの、適当な受入先が確保できぬまま対応が遅れていたといいます。
塩化ビニル管・継手協会のリサイクル事業
 同協会が平成10年から取り組んでいる塩ビ管・継手のマテリアルリサイクル事業。全国各地に整備したリサイクル協力会社(再生管メーカー)、中間受入場、契約中間処理会社のネットワーク(合計86拠点、平成24年12月1日現在)により、使用済み塩ビ管を再生原料や再生管にリサイクルする。
 同事業は平成19年の新潟中越沖地震など過去の大災害でも被災地復興の役割を担っており、東日本大震災では、福島県の相馬市、茨城県の潮来市と稲敷市などが、この事業を利用して被災塩ビ管のリサイクルに取り組んでいる。
 「被災塩ビ管の大半は水産加工場の排水設備等に使われていたもので、その量は推定約25トン。塩ビ管は単一素材でリサイクルしやすく、我々も何とか有効活用する方向で検討を進めていたが、受入先の確保やコストの問題がネックになって先に進めないでいた。仮置き場での分別作業を担当している(株)ノブタ興業と、隣の軽米町にある(有)軽米資源センターから、塩化ビニル管・継手協会のリサイクル事業を利用した再資源化の提案があったのは今年4月のこと。『ノブタ興業が分別・前処理した塩ビ管を、軽米資源センターで再生原料化して、協会の会員会社が再生管等に利用する』というのがその中身で、中間処理〜再生原料・再生管の製造まで一貫ルートが完成している協会のシステムは我々にとっても最適の方法と考えられた」(奥寺課長)
 軽米資源センターは、昨年10月から契約中間処理会社(囲み記事参照)として協会の事業に参加している岩手県唯一のリサイクル拠点ですが、一廃扱いとなっている震災廃棄物を同センターに移動するには、受入自治体である軽米町との事前協議が不可欠。このため洋野町では、軽米町と軽米資源センター、ノブタ興業を交えて、作業手順や広域処理に関する法的手続きの問題などについて検討を重ね、最終的に、7月13日〜3月末日の期間で、被災塩ビ管のリサイクルに着手することが決定されました。

●ポイントとなった軽米町の協力

仮置き場に集められた混合廃棄物の山。
右隅に分別された塩ビ管が見える。
君成田課長(右)と工藤主幹

 今回の取り組みを着実に進める上で、受入側である軽米町の協力体制作りと町民の理解が大きなポイントとなったようです。同町町民生活課・君成田隆課長の説明。
 「甚大な被害を受けた沿岸部の市町村を支援するのは、同じ県内の内陸部の町として当然の責務。当町も平成11年の水害で被害を蒙った際、災害廃棄物を県南の紫波町で処理してもらった経緯があるので、洋野町からの塩ビ管受入要請については当初から積極的に対応したいと考えていた。ただ、受入に当っては町民の安心・安全確保が最優先であり、特に今回は福島第一原発の事故による放射能汚染の問題もあって、説明責任を十分に尽くす必要があった。このため、まず町議会に説明して議員各位に了解してもらったほか、町民にも取り組みの概要を広報するなどして理解を求めたが、議員からも町民からも反対の声は全く聞かれなかった」
 放射能汚染の問題については、被災塩ビ管についても、仮置き場からの出荷時と軽米資源センターへの搬入時、軽米町の職員立会いの下で計4回にわたって厳密な放射能測定が行なわれていますが、「測定結果はいずれも0.02〜0.05マイクロシーベルト/時程度。国の基準値(0.23マイクロシーベルト/時)を大幅に下回っており、町民の安全上全く問題のないレベル」(軽米町町民生活課の工藤光政担当主幹)となっています。

町民に塩ビ管リサイクルの取り組みを説明した軽米町の広報紙
<拡大図>

@仮置き場での分別作業の様子。ベルトコンベアを使って塩ビ管などの資源を丁寧に選り分ける。

A泥落としなど、塩ビ管の前処理は殆どが手作業。

B軽米資源センター入荷時の放射線測定。荷降ろし時に再度測定する。

Cリサイクルしやすい寸法に切り揃えられた塩ビ管。

D再資源化された塩ビ管。

●最も望ましいリサイクルの形

佐々木専務

 仮置き場から軽米資源センターへの出荷スケジュールは月2回、1回当たり約1.5トンが目安となっていますが、第1回目の7月13日から9月末まで約2ヶ月間の実績は計6回、約7トンと、取り組みは計画以上に順調な動きを見せています。
 軽米資源センターの佐々木達雄専務によれば「センターに搬入される塩ビ管は分別・前処理を担当するノブタ興業の作業員の苦労もあって、いずれも驚くほどきれい。お陰で高品質な再生原料を作ることができる」とのことですが、実際、仮置き場での作業の様子を取材してみると、ベルトコンベアに載せられた混合廃棄物の固まりから塩ビ管などの資源を選り分ける作業も、汚れの洗浄や異物(金属・金具類など)除去といった前処理も、殆どが手間の掛かる手作業で、「最近は作業員も手馴れてきてスムースにできるようになった」(ノブタ興業の阿部雅道課長)とは言うものの、その丁寧さ、根気のよさには目を見張るものがあります。
阿部課長
 「被災塩ビ管を再び塩ビ管として再利用する今回の取り組みは最も望ましいリサイクルの形。リサイクルできなかったら埋立するしか方法がなかったわけで、受入に合意していただいた軽米町、そして有効な提案をしてくれたノブタ興業と軽米資源センターには非常に感謝している」(洋野町の奥寺課長)
 約25トンの被災塩ビ管は、計画どおり今年度末までに全量処理が完了する見とおしです。

 

 

■東日本大震災の調査報告書が完成
 東日本大震災における塩化ビニル管・継手の被災状況や、水道・下水道用とも耐震性を有する等の調査結果をまとめた報告書が完成しました。
 報告書は水道用と下水道用の2種類で、塩化ビニル管・継手協会のホームページからダウンロードできます。
http://www.ppfa.gr.jp