2012年12月 No.83
 

環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム

長寿命化、省エネ、CO2削減など課題解決へ建築外皮の役割は?(VEC主催)

 「環境」をキーワードに、これからの建築外皮(外壁や屋根、床、窓など)のあり方をテーマにした「環境時代のビルディングエンベロープを考えるシンポジウム」が、11月12日の午後、東京文京区の武田先端知ビル(東京大学本郷キャンパス内)で開催されました(主催=塩ビ工業・環境協会〈VEC〉)。シンポジウムには窓、ガラス、断熱材、外装材などの関係者およそ300名が参加。研究者の講演とパネルディスカッションを通じて、建物の省エネや長寿命化、CO2削減などの課題解決に建築外皮が果たす役割を探りました。

●講演とパネルディスカッション

 当日のプログラムは、3人の研究者がそれぞれの研究の現状などを報告した講演会と、ビルディングエンベロープに関わる諸問題の解決策をテーマにしたパネル討論、の2部構成。全体のコーディネイターを務めた建築研究所の坂本理事長は、冒頭の挨拶の中で「21世紀が環境時代であることに異論を挟む者はないと思う。今日は、人口やエネルギー消費の増加が続く中で、建築関係者に何ができるのかを、建築外皮、建築材料の面から議論してみたい」とシンポジウムの主旨を説明しました。

シンポジウムの出席者と講演テーマ

坂本 雄三 独立行政法人 建築研究所理事長
コーディネーター

羽山 広文 北海道大学大学院工学研究院 工学部教授
講演@ 健康と安全を支える住環境

野口 貴文 東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻准教授
講演A 外装材のサステナビリティ

栗原 潤一 株式会社ミサワホーム総合研究所取締役
講演B スマート化における住宅の基本性能の重要性

神田 雅子 アーキキャラバン建築設計事務所主宰
※パネルディスカッションのみ

●講演のポイント

 最初に行なわれた北海道大学・羽山教授の講演は、「住む人の健康・安全を守る住宅」という視点から、必要な対策などを論じたもの。羽山教授は、心疾患や脳疾患、入浴死といった不慮の事故の原因に住宅環境、室温の寒暖分布のバラつきがいかに深く関与しているかを、様々な研究データを用いて説明した上で、「良好な室温環境を確保するには、断熱改修や内窓の設置などが有効。健康と安全には値段が付けられない。消費者は賢く高い要求を持ち、ビルダー(工務店)は技術力でそれに応えることが必要だ」と強調しました。
 東京大学の野口准教授は、サステナブル社会の構築に建築材料がどう貢献できるかを論じた中で、「性能を保ちながら、美しく老いてゆく建築」というコンセプトを提示し、そのためには「環境配慮、耐久性、省エネ性、さらには視覚性能(美観・景観)も含め多くの性能が建築材料に要求される」として、建築材料をナノレベルで捉え建築全体を制御する新たな手法「建築ゲノム構想」の研究に取り組んでいることを報告。「建築ゲノム構想とは建築材料を構成するナノレベルの化学成分を遺伝子とみなし、その形質や情報を操作することで材料、部材を制御する、さらには建築の性能と一生を制御するという考え方。遺伝子操作で建物を制御する夢のような話がやがて実現するかもしれない」と述べて、会場の注目を集めました。
 一方、建物のスマート化(HEMS〈home energy management system〉などのIT技術を活用して家庭内のエネルギー消費を最適化する方法)はどうあるべきかを解説したミサワホーム総合研究所の栗原取締役は、「スマートハウスの基本は高気密・高断熱の省エネ設計。窓の断熱、庇や軒の工夫、欄間や排熱塔などの排熱設計といった住宅本来の性能の向上とともに、太陽熱や風力、地中熱など自然エネルギーの利用が重要なポイントになる」と指摘しました。

●パネル討論で具体的提言あいつぐ

▲閉会挨拶を述べたVECの宮島正紀理事。「塩ビ業界も樹脂サッシやサイディングなどの普及を通じて環境時代の建築のお役に立ちたい」

 後半のパネルディスカッションでは、アーキキャラバン建築設計事務所の神田氏を交え、ビルディングエンベロープの進むべき方向などについて議論が行われました。
 このうち神田氏は、自身の設計手法のポイントのひとつに「本物の材料を使う」ことを上げた上で、「材料メーカーや研究者には、素材の特質を生かした『そのものらしい製品』の開発を期待したい。木なら木らしさを生かした製品であれば、設計者もそれを使っていい住宅を提供できる」と発言。また、塩ビについて「軽量で耐久性も高い樹脂サイディングなどは塩ビらしさを生かした製品であり、外壁を着替える住宅を考える上で可能性がある」との考えを示しました。
 このほか各パネラーからも、「高断熱・高気密住宅を普及するには、快適さを体感できる場所(住宅のモデル展示など)の増設と、その効果を定量化する取り組みが必要」(栗原氏)、「材料メーカーは素材の特性を理解した上で建築家の要求に合うものを作ること。両者の意志の疎通と連携でいいものを作ることができる」(野口氏)、「入浴死する人の数(年間約6000人)は自動車事故の死亡者数とほぼ同じだが、涙ぐましい努力で事故を減らしてきた自動車メーカーに比べて建築産業はどうか。自ら努力して、それをPRすべきだ」(羽山氏)など、具体的な提言が相つぎました。
 最後に坂本理事長が「素材らしさを出す、材料の特徴を引き出してそれに見合う用途を展開していくなど、今日は将来の夢につながる話をたくさん聞くことができた。そういう方向での部材開発が環境時代というキーワードに繋がっていけば、日本の建築はいい方向に発展していくのではないか」と総括して、討論を締めくくりました。