2012年9月 No.82
 

塩ビサイディングの鉄筋コンクリート保護効果

塩害、火山性ガスの害から建物を守る塩ビの力。共同研究でデータ集積進む

全面に塩ビサイディングを施した民家
(山形県)
 樹脂サイディング普及促進委員会と塩ビ工業・環境協会(VEC)では、大学等との共同研究を通じ「塩ビサイディングによる鉄筋コンクリート構造物の保護効果」に関するデータの把握に取り組んでいます。「丈夫で長持ち」「軽量」「メンテナンスが楽」などの特長を備えた新時代の外壁材・塩ビサイディングは、自然の脅威から家屋を守る上でどんな力を発揮するのか。塩害、火山性ガスの害(二酸化硫黄、硫化水素害)に関する直近の試験結果から、概要をご紹介します。

●北海道、千葉、鹿児島、沖縄で進行中

<拡大図>

 南北に長く四方を海に囲まれた日本は、名だたる火山の国でもあり、多彩な自然環境に恵まれる一方、私たちの生活は様々な場面で自然の脅威に晒されてきました。建築物もそのひとつで、寒冷地の凍害、沿岸・島嶼地域の塩害、そして火山地帯での二酸化硫黄・硫化水素害と、厳しい自然環境に対応するため、建物の構造はもちろん、使用する建材についてもより高度な耐久性や安全性が求められています。
 樹脂サイディング普及促進委員会とVECの取り組みは、こうした自然の影響から建物を守る上で、塩ビサイディングがどの程度有効なのか、代表的な建造物である鉄筋コンクリート建築を対象に実証データを採取しようというもので、2009年7月から琉球大学環境建設工学科の山田義智教授、日本大学建築工学科の湯浅昇教授に研究を委託して「塩ビサイディングによる鉄筋コンクリートの塩害・中性化抑制効果検証試験」に着手(塩害からの保護効果に関しては沖縄県辺野喜と北海道泊の曝露試験場で、塩害を受けないときの中性化に関しては日本大学の千葉県習志野市で実施中)。さらに、2010年12月からは、九州大学大学院人間環境研究院の小山智幸准教授も参加して、同大学の霧島曝露試験場(鹿児島県)で、コンクリートの主に硫化水素害に対する塩ビサイディングの保護効果の検証試験が始まっています。

● 塩害に対する塩ビサイディングの保護効果

 塩害に対する塩ビサイディングの保護効果に関しては、既に曝露試験開始後1年目の報告(本誌77)でも、「高い遮塩効果を有する」可能性が確認されていますが、その後、曝露3年目を経てさらに具体的なデータが集ってきています。
 曝露試験では、鉄筋コンクリート・ブロック(縦横30cm、厚さ15cm)に塩ビサイディングを被覆したもの(SN)と、被覆していないもの(N)、塩ビサイディングを被覆して、取り付け面とコンクリート表面の間の隙間にシーリング材を施したもの(SS)、の3種類の試験体(試験対象面以外はアクリルゴム系の防水塗装により被膜して塩分の浸透を遮断)を用いて、飛来塩分の量や浸透度、鉄筋腐食の状況などが測定されていますが、今回の試験結果では、飛来塩分の浸透度について、@SS試験体では、コンクリート中への塩化物イオンの浸透がほとんど認められなかった、A塩ビサイディングを施さないN試験体では、浸透塩分量と飛来塩分量には相関が認められる一方、サイディングを施したSN試験体でその相関がなく、浸透塩分量は非常に少なくなる、ことなどが確認されています。
 また、鉄筋腐食については、「塩ビサイディングには塩化物イオンを遮蔽する効果が期待できるため、鉄筋コンクリートの塩害に対する保護効果が認められる」ことが明らかになっています。

● 塩ビサイディングによる鉄筋腐食抑制効果

 中性化とは二酸化炭素などによって生じる鉄筋コンクリートの劣化現象のひとつで、強アルカリ性のため鉄筋のさびを抑制する効果を有するコンクリートが、外部からの炭酸ガスの侵入によって中性化し、防錆効果が低下することをいいます。したがって、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化を進めるためには、仕上材による劣化からの保護が重要で、塩ビサイディングにもその期待が掛けられていますが、実際にどの程度の保護効果を持つのかについては、未だ十分な評価が出来ていない状況です。
 こうした中、日本大学の習志野曝露場で進められている試験(「鉄筋コンクリート構造物の中性化に起因した鉄筋腐食に対する塩ビサイディングの保護効果の検討」)では、現在までに、@塩ビサイディングの施工により、コンクリート中の含水率が低減すること、A塩ビサイディングを施工したコンクリートは、中性化が深くなるが(乾燥した状態が保たれるため。中性化は乾燥状態でより進行する)、含水率は低減されているため、鉄筋の腐食は進まないと推察できたこと、などが確認されています。
 鉄筋の腐食抑制効果については「推察」の段階ですが(湯浅教授のコメント参照)、今回曝露試験と同時に行なわれた促進試験(一定の条件下で意図的に試験体の劣化を進めてその変化を検証する試験)の結果では、「塩ビサイディングで遮蔽した試験体は塩分の浸透がなく、鉄筋の腐食は認められない」という結果が出ており、実際の曝露試験でも同様の結果が得られるかどうか、今後の作業が注目されます。

水は諸悪の根源/湯浅教授のコメント

 中性化とは鉄筋コンクリートの劣化現象のひとつで、強アルカリ性であるコンクリートが、外部からの炭酸ガスの侵入によって中性化し、鉄筋の耐腐食性が低下することをいいます。
 今回の曝露試験では、塩ビサイディングを施工したほうが、雨にも濡れず乾き気味の状態が保たれるので中性化は進むけれど、含水率が落ちるので、結局鉄筋の腐食は少なめに出るのではないかと推察できました。「推察」という表現を使ったのは、まだ曝露の年数が少ないので、サイディングの有無に関わらず、いずれの試験体でも鉄筋腐食が認められないためです。
 ただ、サイディングの施工により含水率が下がるということは、基本的に、サイディングが鉄筋コンクリートの保護に繋がることを期待させる方向といえます。水は諸悪の根源。水分が少なければ、凍害など他の劣化に対しても有効と考えられます。

遮熱効果の期待も/山田教授のコメント

 琉球大学の山田研究室では、塩ビサイディングを鉄筋コンクリート構造物の外装材として使用することによる飛来塩分の遮蔽性能を検討するため、沖縄県(国頭村辺野喜海岸)および北海道(泊村海岸)において、2009年7月より長期曝露試験を実施しています。
 3年目までの塩分浸透試験や電気化学的手法による鉄筋腐食診断の実験データから判断すると、塩ビサイディングによる表面被覆は飛来塩分を遮蔽し、腐食から鉄筋を守っていると判断されますが、今後も曝露試験を続けて飛来塩分遮蔽効果に関するデータを蓄積していきたいと考えています。
 また、亜熱帯海洋性気候下にある沖縄においては、塩ビサイディングによる遮熱効果も魅力的なテーマの一つであり、この件に関して研究展開を模索しているところです。

+、−両方の結果が/小山准教授のコメント

 今回の検証結果がいい方向に向かうのか、悪い方向に向かうのか、試験開始1年目の段階ではまだ断言できません。サイディング内部のガス濃度が減るのはいいのですが、一方で、中が乾燥して中性化がやや早くなると考えられます。
 つまり、プラス、マイナス両方あって、どっちが卓越しているかは現時点でまだはっきりわからない状況なのですが、私自身の感想としては、ガスの濃度低下は予期したとおりの塩ビサイディングの効果だと思っています。
 引き続き、ガスがどういうプロセスでコンクリートを劣化させていくのかなどを解明しつつ(意外と分かっていないことが多い)、コンクリートにとって塩ビサイディングのガス濃度の低下効果のほうが大きいのか、乾燥による中性化の影響のほうが問題なのかを見極めていく計画です。曝露試験には長い時間が掛かります。焦らず着実に作業を継続していきたいと考えています。

● 火山性ガスに対する塩ビサイディングの保護効果

 強アルカリ性のコンクリートが大気中の炭酸ガスや硫化水素、二酸化硫黄等の酸性ガスに長い間曝されると、表面に付着したガスが雨水によりコンクリート内に溶け込み、中性化や鉄筋の腐食を促進させ構造物の劣化を招きます。

霧島曝露場での試験風景。傍らの地中からは絶え間なく火山性ガスが噴出している。

 九州大学の小山准教授を中心に2010年12月からスタートした曝露試験(「火山性ガスに曝されるコンクリート構造物の塩ビサイディングによる保護効果に関する長期曝露実験」)は、硫化水素や二酸化硫黄に対して優れた耐性のある塩ビサイディングが、こうしたコンクリートの劣化に対してどれだけの抑制効果を持つのかを確認するもので、同大学の霧島曝露試験場に、コンクリート打放し、コンクリート+吹付け塗装(フッ素/ウレタン)、コンクリート+塩ビサイディング施工の3種類の試験体を設置して、火山性ガスの各試験体への影響について観察が続けられています。
 試験開始後1年目の検証では、塩ビサイディング内外における硫化水素の平均濃度は内側で0.36ppm、外側で0.50ppm、二酸化硫黄の平均濃度は内側で0.69ppm、外側で0.88ppmというデータが得られており、塩ビサイディングで試験体の表面を覆うことにより酸性ガスの浸入をある程度抑制できていることが確認されました。
 樹脂サイディング普及促進委員会とVECでは、今後も各大学と連携しつつ、塩ビサイディングによる一連の鉄筋コンクリート保護効果について5年後、10年後の経年変化を観察し、塩ビサイディングの普及に役立てていきたい考えです。

 

三宅島でも火山性ガスの曝露試験。塩ビサイディングの保護効果も視野に

 琉球大学の山田教授、日本大学の湯浅教授、九州大学の小山准教授らのグループは、東京・三宅島でも鉄筋コンクリート曝露試験に取り組んでいます。これは塩ビ業界の委託研究とは別の作業ですが、作業に着手する上でこの共同研究の経験が大きな契機になったといいます。
 試験テーマは、主にコンクリートに対する火山性ガスの影響調査で、去る8月19〜21日には、東海大学建築学科の伊藤是清准教授らも加わって、三宅島の雄山中腹に設けられた日本大学の曝露試験場で試験体の設置作業が行なわれ、試験が開始されました。今回は、塩ビサイディングの保護効果調査は含まれませんが、湯浅教授は「いずれ塩ビもやってみたい」考えで、サイディングについて新たなデータの集積も期待されます。

 
火山性ガスの影響で腐食したフェンス   日本大学の曝露試験場。中央に並ぶのは
鉄筋コンクリートの試験体