2012年6月 No.81
 

液状化被害の塩ビ管をリサイクル
─ 潮来市・稲敷市の挑戦

復興に向けて塩化ビニル管・継手協会のリサイクルシステムを利用

液状化で陥没した道路(稲敷市西代地区) 潮来市日の出地区の惨状
 東日本大震災による液状化で深刻な被害に見舞われた茨城県。いま同県の潮来市、稲敷市では、塩化ビニル管・継手協会が運営するリサイクルシステムを利用して、液状化被害の塩ビ管(下水道管)をリサイクルする取り組みが進行中。前号でご紹介した相馬市と同様、震災復興へ向けた自治体の動きをレポートします。

●36市区町村で液状化被害が発生

 液状化とは、地震の際に海岸や川のそばなどの、地下水位が高く緩い地盤が、振動で液体状になる現象です。液状化が起こると、地盤の沈下、ビルや家屋など比重の大きい構造物が倒壊、陥没する一方、地中の配水管や下水管、マンホールといった比重の軽い構造物が地表に浮き上がり、ライフラインに壊滅的な打撃をもたらします。
 東日本大震災では、関東地方1都6県の96市町村で総面積4200ha、東京ドーム900個分にも及ぶ液状化被害が確認されていますが、中でも霞ヶ浦、利根川など豊富な水源を擁する茨城県は、被害地域数36市区町村と関東で最多を記録。下水道へのダメージも大きく、完全復興へ向けて被災管の撤去と入れ替えが各地で進められる中、潮来市や稲敷市のように撤去管の再資源化に取り組む自治体も出てきています。

●潮来市の取り組み

吉川課長補佐

 潮来市建設部上下水道課の吉川秀樹課長補佐は、下水道の被害状況と塩ビ管のリサイクルに踏み切った経緯について、次のように説明します。
 「潮来市の下水道管路は総延長161.5km。うち今回の地震で被災したのは24km(15%)で、その9割(21.6q)が、霞ヶ浦の一部を干拓した日の出地区に集中している。被災管はほぼすべて塩ビ管だが、撤去した管は産業廃棄物として埋め立てるのでなく、可能なかぎりリサイクルしていこうということは当初から市の基本設計だった。問題はどこに委託したらいいかということで、きちんとした再生処理をしてくれそうな会社を検討していたところへ、塩化ビニル管・継手協会の契約中間処理会社である去O豊(後出)を通じて、協会のリサイクル事業(次頁の囲み記事参照)を知り、信頼できるという感触を得た。同社のリサイクルセンターが隣の稲敷市にあることも好条件で、基準的なリサイクル施設として同社への処理委託を決定し、設計書の中で工事業者に紹介することにした」
 現在日の出地区の下水道工事に従事している建設業者は計8社。三豊への撤去管持ち込みは基本的には指定ではなく「推薦」という形をとっていますが、実際には撤去管の全量が三豊で再生処理されています。

潮来市と稲敷市の概要
<拡大図>
【潮来市】 2001年4月1日、行方郡潮来町が牛堀町を編入し市制施行。人口約3万1000。面積71.41km²。茨城県の南東部に位置し、西の霞ヶ浦・利根川をはじめ水辺に囲まれた水郷地帯。東日本大震災では東南部の日の出地区が液状化に見舞われた。
【稲敷市】 2005年3月22日、新利根町など3町1村が合併して市制施行。人口約4万7000、面積205.78km²。茨城県の南部、稲敷台地と広大な水田地帯からなり、霞ヶ浦、利根川、新利根川など水環境に恵まれる。東側の利根川沿いに液状化が集中した。

●軌道に乗りはじめた撤去作業

日の出地区における下水道の復旧作業

 日の出地区で被災管の撤去が始まったのは昨年の11月からで、取材を行なった4月末時点での撤去率は約2割程度。当初は工事用の仮設電源の電力が不足して工事がストップしたり、下水道の上に敷設されている水道やガス管が妨げになったりと、様々な要因が工事の進捗に影響したようですが、現在は作業の段取りが出来あがったことで順調な動きを見せ始めています。
 「管の中に汚物や泥が溜まっていてそのままでは撤去できないため、洗浄車を呼んで掃除をしてから撤去に掛かるなど、試行錯誤することはまだいろいろあるが、毎月1回は業者と打ち合わせしながら作業を進めている。また、余震のために再液状化も起こっているが、全体としてはようやく軌道に乗ってきたと思う」(吉川課長補佐)。

塩化ビニル管・継手協会のリサイクル事業
 同協会が平成10年から取り組んでいる塩ビ管・継手のマテリアルリサイクル事業。
 全国各地に整備したリサイクル協力会社(再生管メーカー)、中間受入場、契約中間処理会社のネットワーク(合計87拠点、平成24年6月1日現在)により、使用済み塩ビ管を再生原料や再生管にリサイクルする。同協会では平成16年の新潟中越地震、19年の新潟中越沖地震など過去の大災害に際しても被災塩ビ管のリサイクルに協力した実績がある。

 なお、入れ替え用の管材としては、初めて塩ビのリブ管(パイプ外周に独立した環状リブ〈=rib。肋骨状のうね〉を有する下水道管材。軽量、高剛性で地震時の液状化対策に適する)を採用しているとのことです。
 今後の見通しについて吉川課長補佐は「来年3月までには下水道工事を完了する。そこまでには何んとしても終わらせないと、次に控えている水道、道路などの工事が次々に遅れてしまう。工事業者も1社当り2班編成で作業に当っており、下水道工事関係だけで常時大体150人くらいは現場に入っているが、それだけに安全には非常に気を使っている」と話しています。

●稲敷市の取り組み

水飼課長補佐

 一方、稲敷市では、埋め立て地である市の東地区を中心に液状化が発生、上下水道の損壊ばかりでなく、農地のパイプラインなどにも大きな被害が発生しています。
 稲敷市上下水道部下水道課の水飼崇課長補佐の説明によれば、同市の下水管路の総延長は70km以上。今回被災したのはそのうちの約10km程度で潮来市の半分以下となっていますが、リサイクルへ向けた動きという点では迅速かつ積極的な対応を見せています。
 「何しろ液状化で路面はガタガタだし、勾配にも大きな狂いが生じていたので、利根川沿いの地域の復旧は相当大変なことになると予想できた。ただ、当市ではこれまでもコンクリートやアスファルトなどの土木資材は建設リサイクル法に基づいて再資源化してきた経緯があり、残土やヒューム管も同様にリサイクルしてきた。従って、今回被害を受けた塩ビ管も当初から出来るだけ再利用する方向でいきたいと考えていたが、市の下水道事業が始まってまだ20年も経っていないとあって、耐用年数の長い塩ビ管については撤去もリサイクルも初めての経験。どうしようかと考えてインターネットで調べてみたら、灯台下暗しで、三豊という打ってつけの会社が地元にあることを知り早速連絡を取った。塩化ビニル管・継手協会のリサイクル事業についてもその中で情報を得た」
稲敷市西代地区での被災管撤去作業
 同市では、運送費など経費削減の観点から、また地場産業の育成という点からも三豊への処理委託を進めることが妥当と判断。設計書に同社の利用を明記して、工事業者を指導してきました。
 工事業者(12社)の側からも、市内の中間処理場を利用できることを評価する声が出ているとのことで、水飼課長補佐は「今回の経験は業者にとっても今後の役に立つのではないか」と見ています。「県内には安定型の処分場もあるが遠隔地(北茨城)で費用が嵩む。これまではごく少量でも最終処分場に持っていった業者もあったと思うが、どうせなら近くの施設に運んで再資源化したほうが、費用も時間も掛からない。場合によっては有価で買い取ってもらうこともできる」

●過去のリサイクル経験が生きた

 稲敷市では、平成15年以降新設の下水管として塩ビのリブ管を使用してきた経緯があり、今回も潮来市と同様、入れ替え用にはすべてリブ管を採用しています。
 「塩ビのリブ管は液状化に強く施工性もいい。ただ、今回はそれでも被災した既設管もある。それほど大きな震災だったわけで、地盤ごとやられたためさすがに歯が立たなかった。管自体の破損は一件もなかったが、特に枝管など自由度の高い接続部分の抜けが目立った」(水飼課長補佐)。
 稲敷市の被災管の撤去、入れ替え作業は3月末で既に完了しており、水飼課長補佐は「うちの場合、先に申し上げたとおり公共工事で出た建設廃棄物の大半をリサイクルしていて、最終処分するものは殆どない。工事業者も『廃棄物はリサイクル』ということが習慣になっている。そういう経験があったからこそ、今回も億劫がらずきちんとやれたのだと思う」と取り組みを総括しています。

5ヶ月で計45トンの塩ビ管を再生処理 ─ (有)三豊・成田マネージャーの話
成田マネージャー

 潮来市、稲敷市の塩ビ管リサイクルの受け皿となっている(有)三豊は、茨城県神栖市に本社を置く産業廃棄物の中間処理会社で、塩化ビニル管・継手協会の契約中間処理会社として既に5年以上の実績を有しています。同社の成田隆二マネージャーに今回の取り組みの概況を説明してもらいました。
 「液状化で被害を受けた塩ビ管のリサイクルに取り組んだのは、昨年7月に稲敷市から相談の電話を受けたのがキッカケ。当社ではそれ以前から、できる限り近隣の自治体のお手伝いをしたいと思っていたので、すぐに引き受ける意向を伝え、協会のリサイクル事業と当社の仕事の内容を説明した。潮来市の場合は当社から説明に出向いて利用していただくことになった。
 撤去管の入荷が始まったのは昨年11月からで、随時工事業者が当社のリサイクルセンター(稲敷市)に直接持ち込む形を取っている。協会のリサイクルシステムを利用するには一定の受入基準(異物除去や洗浄、長尺管のカットなど)が決められているが、今回は、業者に負担を掛けず復興をスムーズに進めるため、金属やゴム輪などの異物がついていても、また長尺管でもそのまま受け入れることにした。
 入荷量は11月5.7トン、12月7.4トン、1月8.7トン、2月10.6トン、3月11.1トンと逐次増加していて、累計45トン近くを処理した計算になるが、3月以降は大きな増減なく月10トン程度で続いていくのではないかと思う。
 今回、潮来、稲敷両市が当社に処理を委託したことは、協会のリサイクルシステムを利用できるという点に安心感を持った結果だと思う。『災害廃棄物の処理を進めて一日も早く復興したい、そのためにどうするか』と考えたときに、我々のバックに協会の存在があることは、市にとって大きな信頼になったのではないか」
リサイクルセンター(@)に持ち込まれた塩ビ管(A)は、前処理の後破砕機(B)にかけられた後、 再生原料(C)に生まれ変わる