導電性床材の原料に塩ビリサイクル材を有効利用
資源循環へ矢崎電線(株)の新たな挑戦。導電性床材では初のエコマーク取得
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エコマークを取得した導電性床材2種 |
静電気に敏感なIC機器にとって、工場内の静電気防止策は必須の課題。その決め手となるのが導電性床材です。電力用ケーブルなどの電線メーカーとして知られる矢崎電線(株)(本社=東京都港区)は、一方で導電性床材のメーカーでもあります。昨年、塩ビのリサイクル材を使った製品が(財)日本環境協会のエコマークを取得したとの情報を得て、同社沼津製作所の電線技術開発センター(静岡県沼津市大岡2771、TEL 055-924-2230)を訪ねました。 |
●高圧ケーブルの導電化技術を応用
静電気は、2つの物体の摩擦(接触、分離)によって容易に発生します。例えば、人が革靴で床材の上を歩くときも、あるいは机の上のポリ袋を取り上げただけでも、湿度などの条件によっては数万ボルトもの静電気が発生して人体に帯電します。この静電気こそ様々な工業製品の製造に障害をもたらす厄介な大敵。特にエレクトロニスク産業では、ICやLSIなどの集積回路が静電気によって劣化・破壊されることが大きくクローズアップされています。
導電性床材は、床材の電気抵抗を特殊技術で可能な限り小さくし人体に蓄積された静電気を流れやすくすることにより、こうした障害を防止するもので、現代のIT社会に不可欠な資材といえます。(但し、人体の安全性確保のため電気抵抗には下限値が考慮されています)
その電導性床材の分野に、矢崎が進出したのは1986年6月のこと。開発の経緯について、矢崎総業(株)※電線本部販売推進部の内野悟リーダー(エンジニアリングチーム)は次のように説明しています(※矢崎電線や矢崎部品などから成るYAZAKIグループ全体の営業・販売を統括する中核企業)。
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内野悟リーダー |
「当社の導電性床材は高圧ケーブルの導電化技術(PE等の内部半導電層にカーボンを混ぜて導電性を確保する技術)を応用したもの。当時は電磁波や静電気が大きな問題になり始めた頃で、この技術を使えば問題の解決に役立つのではないかと考え開発をスタートした。最初に作ったのは電磁波シールドだが、より喫緊の問題として静電気対策に目を向け、導電性床材の製造に着手することになった」
当初は未経験の分野ゆえの困難も多かったようですが、「NECの電話交換機工場の床材に採用されるなどの実績を通じてノウハウを積み上げていった」といいます。
●国際基準(IEC規格)を凌駕する高性能
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矢崎電線の導電性タイルを施工した工場 |
矢崎電線の導電性床材(商品名「エースミック」)はタイルと長尺シートの2つのタイプがメイン。導電性床材は電気抵抗が低いほど高品質となりますが、同社では床材の表層にステンレス繊維や帯電防止可塑剤を練り込むとともに、中間・バック層などに導電性カーボンを混ぜることで(次頁の図参照)、静電気に関する国際基準(IEC規格)を大きく凌駕する0.1MΩという抵抗値レベルを達成。「100ボルト程度の低電圧でも破壊されることがある」という半導体の工場でも安心して使える高性能を実現しています。
特にステンレス繊維を練り込んだ導電性タイルについては、湿度や温度、使用時間に関係なく抵抗値が安定しているため、超低湿の南極あすか基地に採用されるという実績も残しています。
●エコマークを取得した2製品。塩ビ再生材の利用でCO2削減効果も
今回エコマークを取得したのは、「エースミック」シリーズの中の「導電性タイル エースミックSCT」と「導電性シート エースミックSAS」の2製品(取得日は2010年6月25日。9月から発売開始)。いずれも中間・バック層の材料の一部に電線の製造工程で発生する電線用の塩ビ端材を再利用しているのが最大の特徴で、その使用割合は前者が41%、後者が19%。製品の性能は従来品と同等であるばかりでなく、再生材の利用により導電性タイルで42%、導電性シートで18%、CO2の排出を削減できるといいます。塩ビ系床材については2005年9月にエコマークの認定基準が定められていますが(別掲記事)、導電性床材が取得したのは今回が初のケースです。
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林部長 |
エコマーク取得に挑戦した動機について、電線技術開発センター材料開発部の林正幸部長は、「当社では元から塩ビの工場端材を電線被覆用にリサイクルしていたが、それ以外の新たな用途開発が課題になっていた。一方、国の機関や地方公共団体等のグリーン調達ではエコマークが購入品選定の目安になっている。従って導電性床材にリサイクル材を使ってエコマークを取得すれば、公共機関や環境意識の高いメーカーへの拡販が期待できる上、リサイクル材の用途拡大にもつながると判断した」と説明しています。
●限りある資源を上手に循環させたい
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橋詰センター長 |
「エースミック」シリーズの販売を担当する矢崎総業では、今回の取得を機に2製品の拡販に力を入れていく考えで、公共機関はもちろんゼネコンや設計事務所、さらには設備投資の回復がみられる半導体メーカーなどへの働きかけを強めています。また、将来的にはすべての導電性床材でリサイクル塩ビを利用していく方針ですが、原料は「当面配合内容の明らかな工場端材に限定する。当社では2003年に業界に先駆けて電線の鉛フリー化を完了しおり、配合のわからない外部のリサイクル材は利用できない」(林部長)としています。
最後に、電線技術開発センターの橋詰俊成センター長(工学博士)に今後の塩ビリサイクルについて考えを伺いました。「塩ビは加工性、耐摩耗性に優れる上、配合もしやすい。高性能の導電性床材を製造できるのも、その特性あってこそといえる。石油資源はますます逼迫していくと予想されるが、その中で省資源性も含めて塩ビのよさがしっかりと再認識される時が必ず来ると思う。そういう意味で、塩ビのリサイクルは有意義な仕事であり、今後さらに限りある資源を上手に循環させていくような製品開発をめざしたい。また、導電性床材は20年以上の使用に耐える製品だが、将来は使用済み製品のリサイクルにも取り組みたいと考えている」
塩ビ系床材のエコマーク認定基準と「エースミック」の評価点
エコマークは、生産〜廃棄までのライフサイクルを通じて、環境への負荷が少ないと認められた商品に対し日本環境協会が付与する環境ラベル。ビニル系床材の認定基準は、(1)再生プラスチックの使用量が15%以上であること、(2)20年以上の使用が認められる製品であること、(3)リサイクルの仕組みが整備されていること、(4)水銀やカドミウム、鉛、六価クロムなど定められた成分を添加していないこと、などで、矢崎電線の導電性床材2製品は、これらの基準をすべてクリアしているほか、RoHS指令に指定された有害物質も適切に管理されていることなどで、環境に配慮した製品と評価された。 |
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